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そのきゅう
そのきゅう-11
しおりを挟む「本当はね、ずっとあなたしか好きじゃなかったわよ」
瞳子さんが小さな声で語りかける。
「言い寄ってくる男なんかたくさんいたんだから」
花で埋め尽くされた棺。
眠るように横たわるお父さん。
瞳子さんが少しだけ指先でその頬撫でながら。
「さっさと再婚して、うんと幸せそうな顔して幸せなとこ見せつけてやれば良かったわ」
小さな声で。
「これから先私だけが好きでいるなんて悔しいわよ…」
語りかける。
本当は別れてもずっと。
愛し合ってたんだな。
尊はあたしに隠れて少しだけ泣いてた。
なんかあたしに見られたくなかったみたいやから知らないふりした。
今は自分でもほとんど知らないお父さん方の叔父さんかなんか、て人と話してる。
天気が良くて。
なんでこんな日に快晴なんだろと思うけど。
雨だったりしたらみんな大変やから、ってお父さんの気遣いなんかな。
喪服ってけっこう動きにくいな。
マタニティにも喪服ってあるんやな。
縁起の話はさておき。
次々に人がいっぱい集まって来て。
みんな静かにお父さんへの思い出を胸に。
用意された椅子に思い思い腰降ろしてく。
瞳子さんはもう、少し後ろの方で誰かと話してる。
「みのりさん、座ろ」
尊の隣に座る。
誰もみんな密やかな声で語り合う。
お坊様がしめやかに。
あの袈裟、いくらくらいするんやろ。
儀式によって袈裟の種類て変わるんよね。
宗派でも袈裟の形とか微妙に違うもんな。
お坊様の衣装の染めとか普通の着物と違うんかな。
と、いかんいかん。
つい癖で観察してしまう。そんな場合やないし。
でもあたし自分のおとんの時でもやりそうやな。
いかんな。
読経始まって。
尊は黙って顔上げてお父さんの遺影見つめる。
病気になる前なのかまだ元気そうに笑ってる白黒の写真。
低い和の旋律のお経。
ぷうん。
む?
なにゆえかそこに羽音たてる一匹の。
ハエ。
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