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そのきゅう

そのきゅう-9

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久しぶりに瞳子さんとランチ。

尊は打ち合わせでいない。

「みのりちゃんとランチって言ったら無茶苦茶悔しがってたわよ」

瞳子さんが笑う。

毎日一緒いてなにが悔しいんだか。

「譲さんの病院、行ってくれてありがとう」

お父さんは譲さんと仰るのか。

尊はあれ以来、何事も無かった様にしてる。

「あら、美味しそう!みのりちゃんたくさん食べて!」

昼間から会席料理とか贅沢な。瞳子さんの奢りやけど。

「譲さんとは学生の時友達の紹介で知り合ったの」

「はあ」

「知的で余計な事言わなくていつも冷静なのにちゃんと周りを見てる、そんな人だったの。私の方が先に惚れちゃったから凄いアプローチして」

義理とは言え親の恋愛話て気恥ずかしいな。

「物静かで喧嘩しても静かな人で…あまり感情を出さない人だから私はいつも不安で自信が持てなくて」

瞳子さんが少し哀しそうな顔する。

「尊が産まれても自信が持てなくて。いつも彼を責めてばかりで…そんなの嫌になって当然よね。私のせいで彼の居場所は研究室だけになったの」

あたしは黙って話聞くしか出来ない。

「彼のせいじゃないのよ。私が我慢出来無かっただけ」

ふうっ、と瞳子さんが息吐く。

「結婚式の時は尊が嫌がったから呼ばなかったけど」

それは初耳だ。尊なんも言ってなかったし。

「本当は呼んであげたかったの。尊は見もしないから内容なんて知らないけど」

瞳子さんがバッグから封筒出した。

見ていいのかな。瞳子さんの顔見たら頷いたから中の便箋そっと出した。

『元気でいるかな。背は伸びたかな?君の事をいつも考えてます。願わくば君が幸せであらん事を』

「尊の誕生日に必ず送って来てたの。いつも同じ文面だけどね」

なんで尊は見てあげなかったんだろう。

「尊は今は私とは親子らしくしてるけど本当はずっと私達の事嫌ってたから。私達のせいで尊は寂しい思いをしたから」

でもこんなに。

短い文だけどこんなに。

尊は愛されてたのに。

「今日ランチ美味しかった?俺も行きたかったのに」

キッチンでぶつぶつ言いながらご飯作る尊。

「尊、お父さんとこ行こうよ」

「その話はもういいよ」

あたしを見ようともせず。

「行かなきゃダメだよ、尊」

背中向けて。

「俺はみのりさんだけいてくれたらいいんだよ」

「尊…これ見てよ」

あたしの手の封筒ちらっと見る。

「そんなの見る必要ない」

「ダメだよ!ちゃんと見て!」

泣いてるあたし見て仕方なさそうに封筒取って。

ゆっくり便箋開いて。

「ねえ…行こう?」

あたしが言ったら。

黙って。

頷いた。




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