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そのじゅうさん
そのじゅうさん-8
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「あーっ。もお!男なんて嫌いだあっ!」
「お?お前女に走るつもりかよ」
「あー。そうやね。いっそのこと吉乃ちゃんと付き合うかな」
「よっ、吉乃おーっ」
恭平大爆笑。
タクシー乗り場まで恭平と二人。
バカ話しながら歩く。
平日の大通りはそれほどの人出もなく。
通りに立ってるキャッチの兄ちゃん達の方が目立つ。
ふと。
視界の端に。
見慣れた姿。
慌てて眼をそっちにやる。
行き交う車の流れ。
通りの向こう側。
女の人の肩を抱いて。
微笑む顔。
ああ。お客さんなんだな。
営業スマイル。
いつも通り仕事してんだな。
優しい微笑み。
たった数メートルしか離れてないのに。
ずっと遠くにいるみたいだ。
一瞬、こっちを見た気がしたけどその笑顔はすぐに女の人に戻って。
お店のある方に消えていった。
街灯の柱によっかかったら、力が抜けてずるずるとその場にしゃがみこんだ。
もし。
あたしがお客さんなったら。
またあたしに笑いかけてくれんのかな。
バカな考えがよぎる。
考えたバカさに泣けてきた。
「どした、おい」
隣にしゃがんだ恭平があたしの顔のぞきこむ。
「…ホテル行くか?」
「行くか、バカ」
恭平がため息ついた。
「しょうがねえなあ」
あたしの脇の下に手を入れて起こしてくれた。
「…まあ」
頭を腕で抱く。
「泣いとけ。胸くらいなら貸してやる」
そう言われたら。
涙止まんなくなった。
早く結婚しろよ。涼香。
いい男だよ。
コイツ。
原稿を書かねば。
マジで。
カンヅメの期限が迫ってる。
今週中に予定枚数書けてなかったら強制連行。
松本氏に言われた。
わかってんだけど。
何も書けない。
「みのりぃ。付き合え」
リビングでてっちゃんとごろごろしてたら。
おとんが缶ビールとグラス二つ持ってきた。
グラスにビール注いで一つをあたしの前に置く。
「みのり、なんかあったんか」
「…別に」
「母さん、心配しとるぞ」
最近のおかんは怒鳴りもせず。腫れ物扱う様にあたしを見てる。
「みのり」
ビール一口飲んでおとんが真面目な顔した。
「人間、どうしても歩くのが怖くなる時がある」
なんか語り出したぞ。
「道、見失ってどうしていいかわからんくなることは、誰にでもある」
あたしも一口。
「けどな、それでも踏み出さんと先には進めん。自分でどうしても動けんなら、少し休んで動くための力溜めたらいい。ゆっくりでも、また自分で踏み出して、歩き出したら良い」
休んで、また踏み出す。
また、自分で歩き出す。
そう言えば。おとんて部長さんやったっけか?
自分の部下に。
こんな事言ってんのかな。
「誰だって自分の歩く、速さでいいんや」
グラスのビールを飲み干した。
そんで。
ちょっと照れくさそうに。
「こんな事、会社の若いもんには言っても、娘にはよう言わんな」
薄くなった頭かいた。
おとん、凄いな。
あたしは家ん中のおとんしか知らんけど。
いっつもおかんに小言言われて。
朝ご飯だっていい加減和食食べたかろうに、トーストで我慢して。
会社じゃ違うんやろな。
ちゃんと仕事してるんやろな。
ちゃんと、自分の周りの人若い人たち見て。
必要な時に、そうやって言葉かけてあげてんやろな。
少し、泣けそうになった。
そうやな。
おとん。
あたしも、自分で踏み出さないとな。
「お?お前女に走るつもりかよ」
「あー。そうやね。いっそのこと吉乃ちゃんと付き合うかな」
「よっ、吉乃おーっ」
恭平大爆笑。
タクシー乗り場まで恭平と二人。
バカ話しながら歩く。
平日の大通りはそれほどの人出もなく。
通りに立ってるキャッチの兄ちゃん達の方が目立つ。
ふと。
視界の端に。
見慣れた姿。
慌てて眼をそっちにやる。
行き交う車の流れ。
通りの向こう側。
女の人の肩を抱いて。
微笑む顔。
ああ。お客さんなんだな。
営業スマイル。
いつも通り仕事してんだな。
優しい微笑み。
たった数メートルしか離れてないのに。
ずっと遠くにいるみたいだ。
一瞬、こっちを見た気がしたけどその笑顔はすぐに女の人に戻って。
お店のある方に消えていった。
街灯の柱によっかかったら、力が抜けてずるずるとその場にしゃがみこんだ。
もし。
あたしがお客さんなったら。
またあたしに笑いかけてくれんのかな。
バカな考えがよぎる。
考えたバカさに泣けてきた。
「どした、おい」
隣にしゃがんだ恭平があたしの顔のぞきこむ。
「…ホテル行くか?」
「行くか、バカ」
恭平がため息ついた。
「しょうがねえなあ」
あたしの脇の下に手を入れて起こしてくれた。
「…まあ」
頭を腕で抱く。
「泣いとけ。胸くらいなら貸してやる」
そう言われたら。
涙止まんなくなった。
早く結婚しろよ。涼香。
いい男だよ。
コイツ。
原稿を書かねば。
マジで。
カンヅメの期限が迫ってる。
今週中に予定枚数書けてなかったら強制連行。
松本氏に言われた。
わかってんだけど。
何も書けない。
「みのりぃ。付き合え」
リビングでてっちゃんとごろごろしてたら。
おとんが缶ビールとグラス二つ持ってきた。
グラスにビール注いで一つをあたしの前に置く。
「みのり、なんかあったんか」
「…別に」
「母さん、心配しとるぞ」
最近のおかんは怒鳴りもせず。腫れ物扱う様にあたしを見てる。
「みのり」
ビール一口飲んでおとんが真面目な顔した。
「人間、どうしても歩くのが怖くなる時がある」
なんか語り出したぞ。
「道、見失ってどうしていいかわからんくなることは、誰にでもある」
あたしも一口。
「けどな、それでも踏み出さんと先には進めん。自分でどうしても動けんなら、少し休んで動くための力溜めたらいい。ゆっくりでも、また自分で踏み出して、歩き出したら良い」
休んで、また踏み出す。
また、自分で歩き出す。
そう言えば。おとんて部長さんやったっけか?
自分の部下に。
こんな事言ってんのかな。
「誰だって自分の歩く、速さでいいんや」
グラスのビールを飲み干した。
そんで。
ちょっと照れくさそうに。
「こんな事、会社の若いもんには言っても、娘にはよう言わんな」
薄くなった頭かいた。
おとん、凄いな。
あたしは家ん中のおとんしか知らんけど。
いっつもおかんに小言言われて。
朝ご飯だっていい加減和食食べたかろうに、トーストで我慢して。
会社じゃ違うんやろな。
ちゃんと仕事してるんやろな。
ちゃんと、自分の周りの人若い人たち見て。
必要な時に、そうやって言葉かけてあげてんやろな。
少し、泣けそうになった。
そうやな。
おとん。
あたしも、自分で踏み出さないとな。
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