上 下
93 / 160
そのじゅうさん

そのじゅうさん-6

しおりを挟む
どうにか家まで帰り着いて。

玄関のドア閉めて靴脱ぐのもそこそこに。

階段駆け上がった。

「みのりー!?煩いっ」

おかんが台所で怒鳴った。

運転しながら信号で止まる度涙が溢れた。

このまま走ってたら事故るんやないかな。

半分、冷静やった。

ふにーっ

足元のてっちゃんを抱き上げてベッドに転がる。

勘違い。

全部。

恋愛ごっこ。

そんなのありかよっ。

あたしをいつも抱きしめて、話さなかったのに。

それは、尊の思う、恋愛ごっこ。

みのりさん可愛い。

頭撫でる。

みのりさん、好き。

抱き締めてキスする。

みのりさん。

みのりさん。

みのりさん。

あたしを呼ぶ。

勘違い。全部尊の勘違い。

みのりさんは俺の。

ずうっと一緒にいるよ。

みのりさんは死んでも俺のもの。

あたしの中で反芻されるたくさんの言葉。

何回言われたのかわかんないくらい聞いた。

みのりさん、好き。

言葉。

こんなに深く愛された事はないと。

思ってたのに。

ずっと日々は続いていくと。

思ってたのに。

優しく撫でる手も。

優しく微笑む顔も。

あの優しいキスも。

全部。

ホントじゃなかったの?

てっちゃんがほっぺたの涙舐めた。

「てっちゃん…」

ふにぃ

「お姉ちゃん…お兄ちゃんにフラれちゃったよ…」

言ったとたんに溢れてくる大量の涙。

眼の前のてっちゃんがにじむ。

首に下がるアルファベット。

俺が産まれた日はみのりさんに出逢えた事を感謝する日。

こんなもの。

ネックレスを引きちぎろうとして。

意外とちぎれるもんでもなかった。

Tの文字を握り締めて。

また。

泣いた。




頭痛い。

泣きすぎて。

枕カバーぐしゃぐしゃやし。

いつもの朝の電話も。かかってこなかった。

メッセージの通知もない。

勘違いだったんだ。

尊の言葉が頭ん中でぐるぐるする。

ヤりたくなったら相手してやるよ。

投げつけられた言葉も。

一体。なんだったんだろう。

あんだけ一緒にいて。

愛されてると思ってたのは。全部。

尊の。

勘違い。

また涙出てきた。

どこにこんな水分あるんやろな。

昨日からベッドでずっと泣いて。ご飯も食べてない。

携帯が鳴ってる。

なぜに。マイケル。

いつ変えたのか記憶ないけど。

別に。どうでもいいや。

しばらく鳴り続けて切れた。

相手は想像つくし。

少ししてから。

「みのりーっ!松本さんから電話っ!!」

おかんの声がした。

やれやれ。

重たい身体を引き摺ってリビングに行った。

「なんなん!?アンタ、その顔っ」

おかんがぎょっとする。

まあな。眼開けてるけど視界ほとんど薄目状態。

相当腫れてるな、瞼開かん。

「もしもし…」

『居留守使わないで下さい』

松本氏の低い声。

「…そう言うワケでは…ないです」

『……』

「……」

しばし沈黙。

『…何かありましたか?』

「いえ…別に…体調が悪いだけです…」

『大丈夫ですか?病院行かれましたか?』

少し、心配してくれてるらしい松本氏。

「いえ…病院行くほどでは」

行ったところでどうにもならんし。

『原稿の方は大丈夫ですか?』

ああ、そうだよな。松本氏が心配なのはそっちだよな。

「…なんとか…頑張ります」

なにも考えられんが。

『…天海さん』

松本氏はため息をつく、と思ったらつかなかった。

『もし。貴女に今、辛い事や悲しい事があったとしても』

真っ最中です。

『書いて下さい。貴女はプロなんですから』

厳しい。

松本氏の言葉。

でも、それが現実。

プロとして活動してる以上、原稿は書かなきゃならない。

『締め切りまでまだ余裕あるんで少し休んで、また頑張りましょう。そうじゃないとまたカンヅメにしますよ』

松本氏がちょっと笑った。

少し。ちょっとだけ。

休み。下さい。

涙がおさまるまで。

少し。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...