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そのじゅうに
そのじゅうに-2
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「……」
寝室から尊が出てきた。
ソファーの背中越しにあたしの首に抱きつく。
尊さんはあまり寝起きがよろしくない。
まあ、酒飲んでるしな。
だいたい不機嫌な顔で寝室から出ていらっしゃる。
「…みのりさん、おはようのキスは?」
はいはい。
ほっぺたにちゅ。
「…ちーがーうー」
だだこねやがる。
しょうがないんで尊の唇にちゅ。
首の後ろ押さえられて舌、入れられる。
寝起きにディープはやめろってば。
自分が心行くまでキスしたら。
「風呂入ってこーっ」
タオル振り回しながらご機嫌でバスルームに行く。
尊がお風呂入ってる間に、尊の分のコーヒー入れて。ついでにあたしもお代わり。
遠藤くんと。
初めてキスしたのは。
付き合おっか、て言われた日の帰り。
遠出する日は朝が早いんで、夕方の帰り道は高速のSAで一休みすんのが通例になってた。
「みの」
少し眠りかけてたほっぺたをつねられた。
「痛いな。なにすんだよお」
顔を上げたら遠藤くんの顔がすぐ近くにあって。
キス、された。
「俺本気でお前の事好きなんだよ。わかってんの?」
遠藤くんは笑いながら、もう一回唇をくっつけてきた。
遠慮気味に舌が入ってきて。今思えばぎこちないキス。
それから。どうしたんだっけ。
「みのりさんっ」
尊がびっくりした声を出す。
「あちっ!!」
コーヒーが吹き零れてる。
水、入れすぎたな。
尊があわてて水道の蛇口をひねって、あたしの手を引っ張る。
「ぼんやりしてちゃ危ないでしょ!?」
手にあたる水が冷たい。
「もう」
尊が持ってたタオルであたしの手を拭う。
「そう言うとこも可愛いけどね」
おでこにキスしながら笑った。
尊を送って家に着いてからも。
なんとなく、遠藤くんへ返信出来なかった。
机の引き出しを開けてみる。
散らかってる。
あたしの性格、現れてるな。こんなとこまで。
ピンクの小さなケース。
ピンクゴールドの、リング。真ん中にあたしの誕生石がはまってる。
昔、遠藤くんからもらった。
別に捨てられないってワケやないけどね。
まあ、別れたからって相手の思い出の品を整理するほど情熱的なオンナやないだけで。
遠藤くんとは一緒にいるのが当たり前になって。
ケンカしたりもあったけど。
ああ。
初めてキスしたのは覚えてんのに。
初めてえっちしたの、いつくらいだったけな。
遠藤くん、初めてえっちした相手なのにな。
ずっと遠藤くんとしか。
した事、なかったな。尊に逢うまで。
身体がどうこうって事より、あたしが遠藤くん好きで遠藤くんもあたしが好きで。
それだけで良かった気がする。
えっちすんのは遠藤くんがそうしたい時だけで。
尊とか違うもんな。
尊なんか、自分より先にあたしの事気持ち良くさせないと気がすまんからな、アイツは。
それは置いといて。
遠藤くんは上昇思考の人だった。
車の事だって、自分が速く走る為に構造から勉強したり。
あたしの、小説家になりたいって夢もバカにしないで応援してくれた。
就職する時、あたしは地元の会社入ったけど、遠藤くんは。
将来は海外で仕事したい、と一部上場のでっかい会社に就職した。
なんとなくずっと一緒にいるんだろうと思ってたけど。
就職して二年目に、遠藤くんは本社に転勤なった。
別れるとか続けるとか。
そんな話もしないまま、遠藤くんは横浜に行った。
それからしばらく、連休とかあるとお互い行き来してたけど。
遠藤くんが海外出張とか多くて忙しくなって。
なんとなく、連絡もしなくなった。
指輪をもらったのは、確か付き合い出して最初の誕生日。
そんな高いモノじゃないけど。
男の子から指輪もらうとか初めてで。
特別な約束をもらった様な。そんな気持ちやった。
そう言えば。
尊は。
リングは本番まではお預け
とか言ってたな。それって、やっぱ、そう言う事なんかな。
でも、付き合い始めの頃の事やし。
忘れてるだろな。
遠藤くんとはいろんな初めてを経験した。
えっちもやけど。
男の子の家に泊まるのも。
男の子と二人で旅行行くのも。
お酒飲んだのも。初めての時、遠藤くんが一緒やった。
バイトしてお金貯めて。
二人でよく旅行したな。
沖縄とかさ。京都とか。ねずみのくにも行ったな。
晩ご飯、中華食べたい!て言い出して急に長崎の中華街まで高速とばして行った。
ああ。讃岐うどん食べたいとか言っていきなり四国行った事もあったな。
尊とどっか遊びに行きたいとか、そう言うのは別にない。
尊ん家でまったりしてんの、好きやし。
尊とは一緒にいるだけで十分、幸せと言うか。
尊があたしの事、想ってくれてる気持ちが。たまにウザいけど。
それだけで、他に欲しいものとかない。
でも。あの頃は、楽しかったな。
学生の頃はご飯とか割り勘やったのに、就職してから遠藤くんが払ってくれる様になって。
急に遠藤くんが男の人に見えた。
なんで、別れ話しなかったんやろう。
会わなくなってから、メールのやり取りだけは繋がってて。
もうお互い、好き、とかそんな言葉は使わなくなったけど。
友達に戻った。
の、かな。
もちろん、あたしは今尊の事が好き。
遠藤くんを男の人として好き、って気持ちはない。
遠藤くんは思い出の中のひとで。
だから。
きちんと思い出にしたい。
尊には、わかんないかもな。
尊に遠藤くんとの事、話したくない。
いい思い出のままで終わらせたい。
あたしも会いたいです。
遠藤くんに、そう返信した。
寝室から尊が出てきた。
ソファーの背中越しにあたしの首に抱きつく。
尊さんはあまり寝起きがよろしくない。
まあ、酒飲んでるしな。
だいたい不機嫌な顔で寝室から出ていらっしゃる。
「…みのりさん、おはようのキスは?」
はいはい。
ほっぺたにちゅ。
「…ちーがーうー」
だだこねやがる。
しょうがないんで尊の唇にちゅ。
首の後ろ押さえられて舌、入れられる。
寝起きにディープはやめろってば。
自分が心行くまでキスしたら。
「風呂入ってこーっ」
タオル振り回しながらご機嫌でバスルームに行く。
尊がお風呂入ってる間に、尊の分のコーヒー入れて。ついでにあたしもお代わり。
遠藤くんと。
初めてキスしたのは。
付き合おっか、て言われた日の帰り。
遠出する日は朝が早いんで、夕方の帰り道は高速のSAで一休みすんのが通例になってた。
「みの」
少し眠りかけてたほっぺたをつねられた。
「痛いな。なにすんだよお」
顔を上げたら遠藤くんの顔がすぐ近くにあって。
キス、された。
「俺本気でお前の事好きなんだよ。わかってんの?」
遠藤くんは笑いながら、もう一回唇をくっつけてきた。
遠慮気味に舌が入ってきて。今思えばぎこちないキス。
それから。どうしたんだっけ。
「みのりさんっ」
尊がびっくりした声を出す。
「あちっ!!」
コーヒーが吹き零れてる。
水、入れすぎたな。
尊があわてて水道の蛇口をひねって、あたしの手を引っ張る。
「ぼんやりしてちゃ危ないでしょ!?」
手にあたる水が冷たい。
「もう」
尊が持ってたタオルであたしの手を拭う。
「そう言うとこも可愛いけどね」
おでこにキスしながら笑った。
尊を送って家に着いてからも。
なんとなく、遠藤くんへ返信出来なかった。
机の引き出しを開けてみる。
散らかってる。
あたしの性格、現れてるな。こんなとこまで。
ピンクの小さなケース。
ピンクゴールドの、リング。真ん中にあたしの誕生石がはまってる。
昔、遠藤くんからもらった。
別に捨てられないってワケやないけどね。
まあ、別れたからって相手の思い出の品を整理するほど情熱的なオンナやないだけで。
遠藤くんとは一緒にいるのが当たり前になって。
ケンカしたりもあったけど。
ああ。
初めてキスしたのは覚えてんのに。
初めてえっちしたの、いつくらいだったけな。
遠藤くん、初めてえっちした相手なのにな。
ずっと遠藤くんとしか。
した事、なかったな。尊に逢うまで。
身体がどうこうって事より、あたしが遠藤くん好きで遠藤くんもあたしが好きで。
それだけで良かった気がする。
えっちすんのは遠藤くんがそうしたい時だけで。
尊とか違うもんな。
尊なんか、自分より先にあたしの事気持ち良くさせないと気がすまんからな、アイツは。
それは置いといて。
遠藤くんは上昇思考の人だった。
車の事だって、自分が速く走る為に構造から勉強したり。
あたしの、小説家になりたいって夢もバカにしないで応援してくれた。
就職する時、あたしは地元の会社入ったけど、遠藤くんは。
将来は海外で仕事したい、と一部上場のでっかい会社に就職した。
なんとなくずっと一緒にいるんだろうと思ってたけど。
就職して二年目に、遠藤くんは本社に転勤なった。
別れるとか続けるとか。
そんな話もしないまま、遠藤くんは横浜に行った。
それからしばらく、連休とかあるとお互い行き来してたけど。
遠藤くんが海外出張とか多くて忙しくなって。
なんとなく、連絡もしなくなった。
指輪をもらったのは、確か付き合い出して最初の誕生日。
そんな高いモノじゃないけど。
男の子から指輪もらうとか初めてで。
特別な約束をもらった様な。そんな気持ちやった。
そう言えば。
尊は。
リングは本番まではお預け
とか言ってたな。それって、やっぱ、そう言う事なんかな。
でも、付き合い始めの頃の事やし。
忘れてるだろな。
遠藤くんとはいろんな初めてを経験した。
えっちもやけど。
男の子の家に泊まるのも。
男の子と二人で旅行行くのも。
お酒飲んだのも。初めての時、遠藤くんが一緒やった。
バイトしてお金貯めて。
二人でよく旅行したな。
沖縄とかさ。京都とか。ねずみのくにも行ったな。
晩ご飯、中華食べたい!て言い出して急に長崎の中華街まで高速とばして行った。
ああ。讃岐うどん食べたいとか言っていきなり四国行った事もあったな。
尊とどっか遊びに行きたいとか、そう言うのは別にない。
尊ん家でまったりしてんの、好きやし。
尊とは一緒にいるだけで十分、幸せと言うか。
尊があたしの事、想ってくれてる気持ちが。たまにウザいけど。
それだけで、他に欲しいものとかない。
でも。あの頃は、楽しかったな。
学生の頃はご飯とか割り勘やったのに、就職してから遠藤くんが払ってくれる様になって。
急に遠藤くんが男の人に見えた。
なんで、別れ話しなかったんやろう。
会わなくなってから、メールのやり取りだけは繋がってて。
もうお互い、好き、とかそんな言葉は使わなくなったけど。
友達に戻った。
の、かな。
もちろん、あたしは今尊の事が好き。
遠藤くんを男の人として好き、って気持ちはない。
遠藤くんは思い出の中のひとで。
だから。
きちんと思い出にしたい。
尊には、わかんないかもな。
尊に遠藤くんとの事、話したくない。
いい思い出のままで終わらせたい。
あたしも会いたいです。
遠藤くんに、そう返信した。
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