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そのじゅういち

そのじゅういち

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 みなさま。

あけましておめでとうございます。

謹賀新年。

賀正。

臥薪嘗胆。違うか。

楽しい楽しい温泉旅行。

なのに。

「みのりさん!ちゃっちゃと歩いて!」

ぜーはーぜーはー。

雪中行軍してる、あたし。

「ボード持ってない分、俺より楽っしょ?さあ、歩いて!」

後ろから、二人分のボードを持った体育会系男が、雪山を登れと急かす。

「どこが山ですか!こんな平地に毛がはえた程度の傾斜で」

うっさい!

斜めってんだから歩きにくいんだよ!

雪は白く。

積雪の上の人工雪は深い。

「もうちょっと登って、もう一回滑りましょう」

「いや、登ってちょっと休もうよ。秀輝くん」

「なに言ってんすか!午後からリフトで中級コース行くんすよ!?さっさと基本だけ覚えて、お子様広場から抜け出して初級コース行きますよ!」

おとん。おかん。愛するてっちゃん。

みのりは今スキー場の、お子様広場にいます。

ええ、もう。

お子様達が雪だるま作ってますよ。

ちょっと年長さんはソリで遊んでます。

あたし、雪だるま作って遊びたい。

ドラえもんとか作ってさ。

それで十分、楽しいからさ。 

秀輝くんもみんなと一緒に滑ってきたら?

「せっかく来たのになに言ってんすかっ。滑れる様になったら楽しいですよっ」

白い歯がキラリ。

爽やかな笑みで叱咤する。

秀輝くんはスノボのインストラクター資格を持っておられる。

体育会系ホスト。

いや、無いやろ。それ。

ホストがそんな爽やか好青年でどうする。

もっと陰り出せよ。

白い歯の好青年がなんでホストやってんだよっ。

「さ、みのりさん。こっからもう一回」

秀輝くんの置いたボードに乗っかって、ステップインの金具に靴をはめる。

「ゆっくりでいいですから。ゆっくり斜めの方向に滑って、一回止まって良いですから。それで方向変えて反対側に斜めに滑る。それの繰り返しです」

口で言うのは簡単さ。

頭でイメージも出来るさ。

しかし。

体育と言う名の運動以外した事無い人間には。

「さ、いきますよっ!せぇのっ」

「うわあっ!待ってっ、押さないでっ!!」

ウィンタースポーツの過酷さがどれだけのもんか。

「きぃやあああああっっ」

わかってねえだろっ!!

「みのりさんっ!斜めに、って言ってるのになんでスノボで直滑降するんですかっ!!」

皆様。お正月はいかがお過ごしですか?

あたしは。

雪山でスパルタインストラクターにしごかれてます。

家で雑煮食ってりゃ良かった。

騙された。

全くもって、騙された。

確かに温泉地ではある。

泊まるとこも旅館。

けど。

隣がスキー場とか聞いてねえっ!

尊のヤツめ。

「たまにはみんなで遊びたいな、と思って」

メンバーは龍二くん、ユウくん、秀輝くん、そしてあたしら。

スノボの事黙ってやがった。 

「みのりさん驚かそうと思って」

ええ。そら、驚きましたよ。

「冬に遊ぶんならやっぱスキーかスノボでしょ。はいこれ、みのりさんのウェア」

尊に渡されたのは、インナーや靴下まで入った、ウェア一式。

道具は邪魔だからレンタル。

ウェアもレンタルすりゃいいのに。

「レンタルのは可愛くないから」

わざわざあたしの分まで揃えたらしい。

しかしですよ。

「可愛い!みのりさん!」

着替えたあたしを待ち構える尊。

ピンクの迷彩のウェアに、ピンクの帽子に、ピンクのグローブ。

アンタの中で、どんだけピンクなんじゃ、あたしは!

「じゃ、悪いけど秀輝。みのりさんに教えてあげて」

「了解っす!昼には中級まで連れてきますから」

尊以下二人は上級者コースへ。

ピンクなあたしはスパルタインストラクターに預けられた。

ゲレンデが溶けるほど暑苦しい指導のおかげで、どうにかお子様広場は抜け出せた、あたし。

「みのりさん、リフト降りる時は勢いつけて、えいっ、て降りちゃって下さいね。降りれなかったらそのまま下に運ばれて恥ずかしいですよ」

秀輝くんに言われた。

さすがのあたしも、それは一回しかやらなかった。

って、やっちまったよ!

恥ずかしいどころじゃなかったよっ!!

なんのかんの言ってるうちに。

「もう昼ですね。尊さん達がそろそろ降りて来るから待ってましょうか」

秀輝くんと二人、食堂の前で待ってると。

颯爽とターンを決める。

ユウくん。

龍二くん。

か、かっこいーじゃないか。

スキー場で見ると10倍増し、て言うけど普段でも見た目かっこいーからな、コイツら。

そんで、最後に降りて来た尊。

最後にちょっとジャンプしながらターンとかして。

なにそれ。

コイツ、ホントにあたしの彼氏か?

えらいことかっこいーんですがっ!! 

「尊さん!」

秀輝くんが声かけようとしたら。

三人とも、女子に囲まれてやがった。

もう、知らんわ。
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