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そのじゅう

そのじゅう-2

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じんぐるべえ

じんぐるべえ

すっずがぁなるぅ

っとくらぁ。

あたしの大嫌いな神様の、復活の日前日。

聖なる日。

ちらつく雪。ホワイトクリスマス。

恋人達のクリスマス。

白い。

白い恋人。食いたいな。

誰か買いに行ってくれんかな。北の国まで。

あたし、仏教徒だから。

4月8日のお釈迦様の誕生日にお祝いしよ。仏像に甘茶かけて、お線香上げるん。

地味で素敵な灌仏会。

クリスマスなんか、消えて無くなれっ!!

やさぐれる、あたし。

クリスマスと言えば、商売人にとっちゃあ、アナタ。

売り出しのイベントでございますよ。

水商売やってりゃあ、誕生日と同じ稼げるイベントっすよ。

まあ。

当然な事に。

尊のお店も、イベント中。

23~25日は店休日返上で勢威営業中。

ま。

世の恋人達と違って、クリスマス一緒に過ごすなんて出来ません。

そんな事、わかってます。

会えないからって騒ぎたてるほど、お子様じゃございませんの。あたくし。

それどころじゃ。

ねえんだよおおおおおお!!

ああ。

携帯が鳴る。

「……ハイ」

『お疲れ様です、進みましたか!?』

ここにも。

「とりあえず、あれからは三枚くらいです…」

『いいです。出来た分から送って下さい!』

休日返上して、働く男、松本氏。

いつもの冷静さは無く。

『残り、執筆続けて下さい!良いですね!?クリスマスだからといって酒飲みに行ったりしないで』

「しっ、しませんよっ!今メール送信しましたっ」

松本氏、一時間おきに電話してくる。

出版業界には、年末年始の休暇期間で業務が停止する為に。

つまり、出版社と印刷所が休みなるからね。

休み前に前倒しになるワケですよ。

締め切りがっ!!

ただでさえ遅筆なのにっ!! 

10日も早まってんだよっ!! 

もう、二日寝てないんだよっ!!

『メール来ました…って!天海さん!』

「はっハイ!?」

『添付ファイルついて無いじゃないですかっ!!』

松本氏。

年末進行にて。

鬼松本へ。変化中。 

うそっ!?

メーラーの送信ボックス開く。

確かに。

添付されて無い。

「あああっ!おっ送ります、もっかい!!」

ファイルを付けて、再送信。

『来ました……天海さん』

「ハイっ」

『このファイル、一時間前に貰ったのと同じですよ』

えっ!?

ファイル間違えた!!

「おっ送りなおします!」

急いで再送信。

『天海さん!なんで猫の画像送って来るんですかっ!!』

うわあああ!! 

てっちゃんの写真、間違えて添付しちまった!!

『天海さん、余裕無いのは解りますけどっ』

殺気立つ松本氏。

わ、わざとじゃないですっ!!

『少し、注意力散漫じゃないですか!?』

松本氏、いつもの百倍、怖い。

『原稿、校正してたら誤字かなり多いですし』

松本氏が担当してる作家は、あたしだけじゃない。

けど、その中で一番手がかかるのは、あたしだ。

『もう少し集中してやって貰わないと』

松本氏だって大変なんだ。

『二度手間になるんですよ』

わかってる。

わかってんだけど。

「……っ…ずずっ…」

あたしだって、寝てないで書いてるし。

「ひっ…く…」

頭回らんくて、涙勝手に出てくるし。

『あ……』

泣くな!

泣くんじゃねえっ!!

『……天海さん』

「……ハイ」

『睡眠、摂りましたか?』

「二日前に」

松本氏が、はーっ、とため息をついた。

『…天海さん、年末進行の経験初めてでしたね』

「……ハイ」

『僕も余裕が無かったです。すみません。年末進行なんて、こんな感じですから』

「……ハイ」

ハナをすする、あたし。

『少し、仮眠して下さい』

「…でも」

松本氏、あたしの原稿待ちで休日出勤してるワケやし。

『寝ないと、集中力落ちますから』

あたし寝たら、松本氏、その分帰るの遅くなるし。

『頭が回らない時は、寝た方が良いです。二日も寝てないなら、そう言って下さい。仮眠、して下さい』

いいのかな。寝ても。

『二時間で良いですか?』

「えっ!?」

『二時間したら、起こしますから。少し寝て、それから良い仕事をして下さい』

「……ハイ。わかりました」

すいません。ご迷惑、おかけします…。

猫と遊ばない様に。

と、釘をさされた。

あたしはてっちゃんと遊ぶどころではなく。

そのままベッドに倒れ込んで。

寝た。



冷蔵庫から、ドリンク剤を出して。

ちゅうぅー。

一気にストローで吸い上げる。

残り枚数も後わずか。

頑張れ、あたし!

気合いを入れてみた。

仮眠したおかげで、だいぶ頭すっきりしてきた。

にー!

おお。

足元であたしを見上げる、天使。

猫じゃらしくわえて。

遊べって?

毎日夜なったら、あたしの部屋で遊んで一緒にねんねするもんねー。

まだちっちゃくて、階段一人で上れんからあたしが抱っこして部屋連れてく。

でも、今忙しいから二日ばかし遊んでない。

うわ。

あたしの足の指、ちっさいお手でちょんちょん。

あ。

遊びたい。

遊び倒したい。 

うにー!

思わず抱き締める。

「てっちゃんっ!」

ほっぺすりすり。

「ごめんねえーっ!お姉ちゃんはお仕事で遊べないのおーっ!」

うにー!

「もうすぐ終わるからねっ。待っててね!それまでかわいそうやけどばあばと遊んでてねっ」

「誰がばあばやのっ!」

台所にばあば登場。

「アンタに荷物届いた」

宅配便の荷物をあたしにつきだす、おかん。

てっちゃんと荷物を交換し、送り主を見ると。

おや。

桂木冬馬。

冬馬くんではないですか。

包みを開けると、メッセージカード。

とりあえず俺の一番大事な物だけどお前にやる。大事にしろよ

ほお。

大事な物とは。

なんですかね。

包装紙を破ると。

「……なんじゃ。こりゃ」

エヴァンゲリオン初号機、プレミア限定版。

…………意味、わかりません。 

な。なんすか、これ。

クリスマス…プレゼント。

なのか?

あたしに。エヴァを。

どうしろと?

でも。もらったからにはお礼を言わねば、ねえ?

部屋に戻って、仕事再開する前に冬馬くんに電話。

出ない。

仕事中か。メッセージしとこ。

エヴァンゲリオン頂いてありがとうございます。お返し、いかがいたしましょう?

しばらくして。

冬馬くんから返信。

開くと。

んー。二宮でいいわ

って。

意味、わかんねえんだよ!

次回ご飯奢らせていただきます

返信。

とりあえずそれでもいい

冬馬くん。

つまりあたくしの価値は、晩メシ一回分と。

ま。いいすけど。

さて、仕事も大詰め。

てっちゃんと遊ぶの我慢して頑張った年末進行も、もうすぐ完了。

終わったら、心ゆくまでてっちゃんと遊んで、風呂入って。

寝るのだ!!

あ?

なんか。

忘れてる様な気がする。

なんだろ。

思い出せない。

いいか。

そして、地獄は。

『天海さん、これで終了です。お疲れ様でした。良いお年を』

松本氏の言葉とともに華麗なる終焉を迎え。

「てっちゃあああん!!」

「にーーーっ!」

リビングでじゃれまくる人と猫。

狂った様に舞う、黄色い猫じゃらし。

あたしがまだ気付かない、忘れてる事。

一体、なんでしょう?

ピンポーン

玄関の呼び鈴が鳴る。

「みのりぃ!出てーっ!」

おかんは台所で作業中。

てっちゃんをソファーに下ろして玄関へ。

ドアを開けると。

「はあっ!?」

そこには。

驚くべき、光景が。 

目の前は。

一面。ピンク。

拡がるピンク色。

なんだ。これ。

あたしの視界いっぱいに。

そして。むせかえるほどの。

甘い。

香り。

「あの…二宮さんのお宅ですよね?」

聞き慣れない声に、我にかえる。

「二宮みのりさんにお届けものです」

ピンク色の陰から、男の人。

「あ。あたしですけど」

「そうですか。ABCフラワーです。すみません、サイン頂けますか?」

差し出された伝票にサインする。

送り主は。

空欄に。

ってか、一人しかいないし。

こんな事するの。

「ありがとうございます」

お兄さんから渡されたのは。

両手で抱えるほどの。

ピンクの薔薇。

「こちらも、ご一緒にとお願いされたので」

お兄さんが、リボンで飾られた小さな箱をあたしの手に乗せる。

「どっちかって言うと、花はついでみたいですけど」

お兄さんは、笑いながら去った。

「なんやのーっ、それっ!?」

驚愕するおかん。

「ど、どしたらいいん、これ?」

「ああ!凄いわあ。とりあえず水切りせなっ!」

大量の薔薇はおかんに委ねられ。

あたしは、小さな箱を。

そこには、二つの金色の、小さな輪っか。

あたしがあげたのと、同じ。

全く。

ホストなんかやってると。

「クサっ…」

半分泣き笑い。

折り畳まれたカードが目についた。

開いて読んでみれば。

I'm crazy about you

笑っちゃうよ。もう。

「……あ」

気付けば。

「尊のプレゼント…買うの、忘れてた」

忙しくて、忘れるどころか。

考えてなかった。

尊は。

「言う事聞いてくれたら、許してあげる」

微笑みながら言った。

「な、なに」

また弱味につけ込む気かっ!?

「お正月、店休みなんだけど」

「うん」

「一緒に温泉、行こ?実はもう予約しちゃったけど」

と、言うワケで。

お正月は二泊三日の、温泉旅行でございます。 
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