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そのきゅう

そのきゅう-4

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「お前…何した」

「別に?」

胸ぐらを掴まれながら、リカが答える。

わざと嘲りを込めようとしているのがわかる。

リカの上擦った声。

「ウソつくんじゃねえよ。何したんだよ」

「心配?」

リカが小さく笑った。

「そんなに大事なの、このコ」

「…ふざけてんじゃねえぞ」

尊の凄く低い、怖い声。

「お前が俺に嫌がらせすんのは、大目に見てやってたけどな…」

ぐいっ、とリカを持ち上げた。

「俺の大事なもんに手ぇ出しやがって」

リカに顔を近付ける。

「本気で、殺すぞ」

聞いてるあたしでさえ、震えそうな、声。

「ち、ちょっと薬使っただけよ」

リカの声が震えてる。

「……薬?」

「気持ち良くなるだけよっ、死んだりしないわ…意識だってちゃんとあるわよっ」

尊が振り返ってあたしを見た。

一瞬、眼が合うと、尊はリカに向き直った。

リカを、両手で締め上げる。

「くっ…」

苦しそうにリカの顔が歪む。

「お前。何、してくれてんだよ」

尊、ダメだよ! 

相手、女だよ!!

「みのりさんに…俺の大事な女に」

尊が握り締めた手を振り上げる。

「何してくれてんだよ!!」

「ダメっ…!」

殴っちゃダメだよ!!

かろうじて声になったあたしの声に、尊の手が止まった。

「次、みのりさんに手ぇ出したら…お前、沈めてやるからな」

「きゃあっ!!」

リカを壁に叩き付けた。

振り向いて、あたしの側に屈み込む。

「なっ何よっ!あんたなんかに…出来るもんかっ!!」

尊の背中にリカが叫ぶ。

顔を強張らせて泣きながら。

「うるせえよ」

尊がリカを振り向く。

あたしから、尊の顔は見えない。

「俺が本気になって出来無え事、あると思ってんのかてめえは」

ひっ、とリカが呻いた。

「みのりさん…」

あたしを、泣きそうな顔して見る。

「家、帰ろうね」

「ふあああっ!!」

尊に抱き上げられて、声があがる。

自分で動いて服で擦れるだけでも、強い刺激。

「はっ…う…」

ほんのちょっと動くだけで、強烈な刺激が、あたしを襲う。

「ごめんね…家まで我慢して…」

今にも泣き出しそうな、尊の、悲しい顔。

その顔に、悲しくなって、涙が出てくる。

「龍二。そのへんで止めとけ。死ぬぞ」

「……はい」

男を殴り続けていた龍二くんは、もうぐったりして動かない男から離れた。

「……行きましょうか」

ハンカチで手についた血を拭いながら、静かな声で、言った。





尊の家へ走る、206。

リアシートに、尊とあたし。

運転は龍二くん。

「あっ…はっ…ぅ」

尊の膝で、声にならない声で呻き続ける、あたし。

呻き声以外、誰も声を発しない車内に、あたしの選んだ音楽が流れる。

今日は、なんとなく選んだUNICORN。

"人生は上々だ"

今の状況にあまりにそぐわなくて、マヌケ過ぎ。

あたしの身体を抱き抱える、尊。

ずっと黙ったまま。

本当は、抱え込まれているのが辛い。

触られてるワケじゃないのに、尊の身体があたしを刺激する。

身体が熱くなりすぎて呼吸がうまく出来ずに、口で空気を吸い込み、呻きと一緒に吐き出す。

どうにかして欲しいと、疼く身体。

催淫剤なんて。

そんなモノ、名前は聞いた事あっても見た事すら無い。

どんな効果があるのかなんて、体験なんてしたくない。

でも、リカに打たれた薬は、あたしの身体をおかしくさせる。

どうなってるのか自分でも理解出来ない、あたしの身体。

あたしの気持ちを無視して。

たまらなく、尊を欲しがる。

この。

おかしな、身体。

どうしたら元に戻れるの。

「ぅ…あ…」

尊の胸で呻くだけ。

流れる続ける涙。

あたしの涙で溶けたファンデーションで。

尊の白いスーツが汚れてしまって。

ごめん。クリーニング出さなきゃね。

そんな事が、頭の片隅よぎる。
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