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そのはち
そのはち-6
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「ちょっと飲み行ってくる」
台所のおかんに声かけて、ダウンを羽織る。
「仕事せんでいいん?」
洗い物をしながら、おかんが言った。
この数日、まともに仕事してない。
思う様に書けない。
集中、出来ん。
「あー…。まだ締め切りまで余裕あるし。気分転換する」
「松本さんに迷惑かかるよ」
ああ。
松本氏。
怖い顔浮かんでくる。
「クリエイティブな仕事なんやから。ずっと座ってたらいいってモンやない」
繊細さを強調してみた。
「座ってなくても出来んのやろ」
確かに。
外に出ると、冷えた空気がほっぺたにあたる。
帽子とマフラー、すりゃ良かった。
まあ、帰りはどうせタクシーになるやろうし。いいか。
繁華街までは電車。
通勤時間帯は、もう過ぎてる。
ふと、電車の窓に映る自分。
周りの人よりも、小さい。
別に美人でもないし。
特別、可愛くもないし。
色気、ありそうでもないし。
頭、良いワケでもないし。
取り柄と言えば、小説書けるくらい。
松本氏に毎回怒られて、やっと書いてる。
松本氏、いないと書けない。
一人じゃ、無理。多分。
才能、無いんかも。
落ち込む。
あたしの暗い精神状態に対抗する、まばゆく光る街路樹のイルミネーション。
あたしの嫌いな神様の復活の日が、近い。
クリスマス、どうすんだろな、あたし。
仕事するくらいしかねえし。
ってか。
年末進行やん!
締め切り早まるっ!
ヤバい!忘れてたぜ!
「あ。すいませんっ」
考え事しながら歩いてたら、女の人にぶつかった。
謝りながら通り過ぎようとしたら、その人が。
「……あら?」
あたしの顔見て、驚く。
「あんた…尊の彼女じゃない!?」
誰だ。コイツ。
「……」
赤い、ミニのスーツ。高そうなコート羽織って。
「そうよね?」
茶色い、くるくるの髪。
尊のお客さん?
関わるとめんどいな。
「……」
とりあえず、無視しとこ。
黙って通り過ぎ様としたら。
「待ちなさいよっ」
腕、掴まれた。
「……なんですか。人違いやないん?」
「違わない。あんただったわ」
くるくるの、髪。
「一回、見たもん。忘れるもんですか」
確か、薄いピンクの、スーツ。
いつかの日。
アンタが幸せになるなんて許さない。
尊にそう、言ってた。
「ふうん」
腕を離して、あたしを見る。
観察する様な、視線。
「あんた、お水じゃないわね」
「………」
「あたし、客じゃないから。警戒しなくてもいいわよ」
じゃあ、なんだよ?アンタ?
「普通のコに手、出すなんて…やっぱりクズね、アイツ」
それは、尊の事?
「まさか、本気で付き合ってんのかしらね。ふざけた男ね」
あたしを放っておいて、一人で呟く。
「……なに。アンタ」
「ああ…別に昔の女とかじゃないから、あたし。あんな男、死ねば良いとは思ってるけどね」
なんなんだ。オマエ。
「…そう。あんたがあいつの、ね」
あたしを見て、くすっ、と笑った。
クロコのポーチから、名刺を一枚、出した。
「あげるわ」
あたしに押し付ける。
CLUB 紫音
藍河 リカ
薄紫の、和紙。
「じゃあね」
そう言うと、あたしに背を向け、人混みに消えていった。
台所のおかんに声かけて、ダウンを羽織る。
「仕事せんでいいん?」
洗い物をしながら、おかんが言った。
この数日、まともに仕事してない。
思う様に書けない。
集中、出来ん。
「あー…。まだ締め切りまで余裕あるし。気分転換する」
「松本さんに迷惑かかるよ」
ああ。
松本氏。
怖い顔浮かんでくる。
「クリエイティブな仕事なんやから。ずっと座ってたらいいってモンやない」
繊細さを強調してみた。
「座ってなくても出来んのやろ」
確かに。
外に出ると、冷えた空気がほっぺたにあたる。
帽子とマフラー、すりゃ良かった。
まあ、帰りはどうせタクシーになるやろうし。いいか。
繁華街までは電車。
通勤時間帯は、もう過ぎてる。
ふと、電車の窓に映る自分。
周りの人よりも、小さい。
別に美人でもないし。
特別、可愛くもないし。
色気、ありそうでもないし。
頭、良いワケでもないし。
取り柄と言えば、小説書けるくらい。
松本氏に毎回怒られて、やっと書いてる。
松本氏、いないと書けない。
一人じゃ、無理。多分。
才能、無いんかも。
落ち込む。
あたしの暗い精神状態に対抗する、まばゆく光る街路樹のイルミネーション。
あたしの嫌いな神様の復活の日が、近い。
クリスマス、どうすんだろな、あたし。
仕事するくらいしかねえし。
ってか。
年末進行やん!
締め切り早まるっ!
ヤバい!忘れてたぜ!
「あ。すいませんっ」
考え事しながら歩いてたら、女の人にぶつかった。
謝りながら通り過ぎようとしたら、その人が。
「……あら?」
あたしの顔見て、驚く。
「あんた…尊の彼女じゃない!?」
誰だ。コイツ。
「……」
赤い、ミニのスーツ。高そうなコート羽織って。
「そうよね?」
茶色い、くるくるの髪。
尊のお客さん?
関わるとめんどいな。
「……」
とりあえず、無視しとこ。
黙って通り過ぎ様としたら。
「待ちなさいよっ」
腕、掴まれた。
「……なんですか。人違いやないん?」
「違わない。あんただったわ」
くるくるの、髪。
「一回、見たもん。忘れるもんですか」
確か、薄いピンクの、スーツ。
いつかの日。
アンタが幸せになるなんて許さない。
尊にそう、言ってた。
「ふうん」
腕を離して、あたしを見る。
観察する様な、視線。
「あんた、お水じゃないわね」
「………」
「あたし、客じゃないから。警戒しなくてもいいわよ」
じゃあ、なんだよ?アンタ?
「普通のコに手、出すなんて…やっぱりクズね、アイツ」
それは、尊の事?
「まさか、本気で付き合ってんのかしらね。ふざけた男ね」
あたしを放っておいて、一人で呟く。
「……なに。アンタ」
「ああ…別に昔の女とかじゃないから、あたし。あんな男、死ねば良いとは思ってるけどね」
なんなんだ。オマエ。
「…そう。あんたがあいつの、ね」
あたしを見て、くすっ、と笑った。
クロコのポーチから、名刺を一枚、出した。
「あげるわ」
あたしに押し付ける。
CLUB 紫音
藍河 リカ
薄紫の、和紙。
「じゃあね」
そう言うと、あたしに背を向け、人混みに消えていった。
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