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第2章 凰雅side 3

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ずっと見ていたい

二人の間に何もねえのに。
二人だけの空間になんとも言えない満たされた気持ちを味わっていた。

たかがこれだけの事で満たされるってどういう事なんだ?
誰も知らない。教える気もない。
俺があいつの為に頑張ってきたこと。
あいつを守る為の金が欲しかったこと。
世の中を知れば知るほど これぽっちじゃあ足りないって頑張ってきたこと。

決して血を吐く思いで なんて事はない。
父親のアドバイスに従って 好きな事を突き詰めていっただけ。
相当貪欲にいったけど好きな事だからこそ 負担ではなかった。
ただ法外に頑張ったとは思う。物凄い焦りを感じていたから。

次あいつが泣いていたら絶対に守りたかったから。

年齢を上回る圧倒的な力が欲しかったから。


その静寂を破るように
付きまとう女たちの声がして。
俺は苛立ちを隠さず邪魔をしたそいつらを腹立たしい思いで見た。
あいつは 体中が緊張しているのが見てとれ 居心地が悪そうにしている。

それを見た途端 俺の口元は知らずに緩んでいく。

俺と二人の方が安心してたって事だろ?
何だか今の状態が愉快になり もっとあいつに頼って欲しくなる。


そいつらがあいつに絡んでいるのを承知で様子を見守り

「助けて欲しかったら俺にお願いしろよ」と あいつの耳元で囁いた。
俺を頼れ。何でもしてやる。お前の為ならどんな努力だってしてやれる。

近くで感じるこいつの気配は 触れている訳ではないのに甘く俺の胸をくすぐる。

次のあいつの様子を見守っていると急いで駆けつけるヤツがいた。

そいつはあいつを

ゆい

と呼んだ。


ゆい か。

やっと名前を知れた喜びと同時に一気に気分が悪くなる。

ゆいも「拓也君」とそいつはを呼んで。
親しそうに そいつの後ろに隠れた。

俺は白けるどころか口の立つ好青年ばりのそいつを 殴ってでも結を連れ去りたくなり寸でのところでどうにか理性を働かせた。

俺はそこまで凶暴じゃなかったはずだ。
でも 今思った事は心からの声で自分を誤魔化す事はできなかった。

こうなると さっきまで好きにさせていた女達も厄介者でしかなくなって。

ひと先ず頭を冷やすためにそこから離れ去った。

まったく面白くない。

しかし

ゆい か。

本当の名前を知ってあいつの本質を見たような高揚した心地になる。

「ゆい」

口に出して見ると より甘い響きであいつの世界に入れた気がした。

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