上 下
44 / 164

大学生見合い 8

しおりを挟む
「そういうモラルの無い事は私絶対に無理だから」

「そうだな 俺も」

「する しない だけじゃなくてそういう考え自体理解出来ない」

「お前がいる限り俺も理解できない」

「...この前言ってた事本当?あれから誰ともしてない...?」

「ああ 随分後悔したから。お前の代りには誰もならなかったし」

「本当に...?信じていい...の?」

「嘘は言わねえよ。お前以外立たねえし。お前が俺の上で腰振れるようになるまで待ってやるよ」

もう信じられない!

その言い方に 思わず凰雅さんの胸を叩いた。
凰雅さんは私がよろけるのを両手でホールドしながら 嬉しそうに笑って

「結 お前も浮気するなよ」

と釘を刺した。

するわけないじゃない!と思ったけど 
これって 付き合うって言うか婚約前提?

まんまと乗せられたけど 私だってそうしたかったからしょうがない。


それから凰雅さんがシャワーを浴びてくると言った。

バスルームに行きかけてふりかえる。

何かと思えば 意地悪にニヤリと笑って

「結 一緒に来るか?」

と戯れ言を言った。からかってるとわかっていても照れるものは照れるもので真っ赤になって無視するしか出来なかった。


私は ツーベットルームだったのでもうひとつのシャワーを使わせてもらい髪を乾かしていたら


「結!」

姿が見えない私を探して凰雅さんがパウダールームのドアを凄い勢いで開けた時は心臓が飛び出るかと思った。

私を確認した凰雅さんは切羽詰まった顔で はーっ と深く深く息をして私をこれ以上ないほど強く抱き締め

「お前 わざと?俺を試してる?」

と つぶやいた。

まるで私の存在を確かめるように。



まるで私の存在をここに留めるように。




 ....その時
 私は凰雅さんの息が 首にかかってくすぐった。





それから 何もしないっていう約束で

同じベッドに一緒に入り



前ほどの恐怖も 前ほどの嫌悪も今はない。

取り巻きのお姉さまの事はそりゃあまだ嫌だけど 過去って思えるし 過去の事より
きちんと話し合えた事 信用を得るために時間をかけて努力してくれた事。 

凰雅さんへの愛しい気持ちの方が重い。

くっつきたい気持ちだって...ある。

それを感じているのか 凰雅さんはやさしくそれとなく触れてくる。

私を試すように。


でもまだ流されたくない。

「凰雅さん 私凰雅さんとゆっくり関係を築いていきたい。」

今まで 何も前向きな事を言わなかった私が 初めて口にした望みに 凰雅さんは目を見開いてからゆっくり微笑み すぐに片眉をあげ意地悪に笑いながら 片肘をついて 

「それだけか?あとは?」

「あとは...私の卒業までに凰雅さんの事教えてほしい。」

凰雅さんは意地悪な笑みのまま

「何でも教えてやるよ。もうお前に隠す事なんて何もないから。」

そう言って 私の鼻をかぷりと噛んだ。



それから夜が明けるまで この三年間の事も そうでない事もお互い沢山話した。

「私 父の妹夫婦の子供なの。」

仰向きに寝転んだ凰雅さんは顔を動かさずに目だけでこちらを見る。

6才で両親が亡くなり 母の兄夫婦の養子になったこと 大切にしてもらった事。

思い出した事を全て伝えたくて口にした。

「少しだけ覚えてるの。凄く仲が良くて一緒にいると暖かくて。お見合いだったそうなの。それでずっとお見合い結婚にあこがれてて。」





言いながら 何故だかこんな時いつも たった一度会っただけの あの澄んだ瞳を思い出す。あのピアノの帰りの...。




ふっ 溜め息をついて

「あとお互いの家に利がある人と結婚出来るでしょ?」 

一ノ瀬の名前と経済的な事。

話終えて 凰雅さんが口にした事は

「見合いするって決まった時にお前の親から聞いた。
幸せだったんだろ?いいじゃねえか。

それより

今気がついた。

  と言うことは 拓也は 従兄弟だろ。なに一緒に住んでんだ」



...そこ ?


凰雅さんのお父様は
「仕事は好きなことをするための糧なので そこそこ稼いだら趣味や好きな事をやる」という人で 
お前は効率よく好きなことを仕事にしろ と言われていたらしい。
それなら今の自分でも充分出来ると中学生で起業したそうで。


凰雅さんが通った大学は有名なC大学で 何かの会合で教授と知り合い意気投合したらしい。
飛び級すれば早く卒業出来るから とアメリカの大学に入ったけど 
予想していた通り 飛び級分の勉強と パソコンでやり取り出来るとは言え仕事との両立は半端なく忙しかったらしく。

ただ 

「お前も居なかったし。早く卒業してお前と仕事だけに集中する為に頑張った」

ベッドに寝転んでリラックスしている凰雅さんの姿はとても魅力的で 見とれてしまうぐらい。

意地悪そうにやさしく微笑むってどんな凄い技なの。

三年前よりとろとろに溶かされていく。

これでいいの?私。

凰雅さんの女癖の悪さは一応鳴りを潜めている。

どんな努力もしてくれるって...望んではいないけれど 気持ちは素直に嬉しい。

自分のまだこの期に及んで中途半端な覚悟に呆れる。

私はその気持ちに釣り合うように努力出来るのか。
でも
「どうしてこんなに急いでお見合いしたの?普通私が社会人になってからじゃない?」
気になってた事を聞いてみた。

仰向けに両腕を頭の下で組んでいた凰雅さんは ちらりとこちらに目をやり

「お前みたいな家柄?って早いうちから色々話が出るって聞いたしな。

それと あいつ 仲良すぎるって聞いて」

...信じられない。ビリーのことよね?

 里美 情報流してたってこと?

不安になった私は 詰め寄った。

「他には?何を聞いたの?」

「別に何も聞いてねえよ」

...ほんとかな。腹黒そうだし怪しそう。





「だから 浮気するなよ。未来の嫁さん」

と 意味深に微笑んだ。

...そういう事ね。”浮気するなよ“はビリーのこと。




気がついたら 凰雅さんに抱き締められて眠っていた。

すごく気持ち良くてずっと寝ていたいぐらい。

凰雅さんはまだ眠っていた。

瞼を閉じてやさしい顔でこちらを向いて。

その顔を見た瞬間



ーーー決めた。


この時間を日常にするために

何でもするって言ってくれる凰雅さんと 腰を据えて真摯に向き合う。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...