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第五章
五 旅行
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五
会って話したいことがあるんです、とBさんからメッセージが入っていたのは、金曜日の夜中だった。明日は朝から夜まで予定があるそうでバタバタしているのだが、夜から行けなかった旅行に行けますかと誘われて、一も二もなく了解した。
「Aくん」
さっそうと現れたBさんはいつになく似合うブラックスーツ姿で目がちかちかする。
「Bさん」
俺が気づくと、Bさんは正面で立ち止まって頭を下げた。
「ごめんなさい。約束を守れなかったことも、長くかかったことも」
「とんでもない。旅行、楽しみです!」
俺は何も予定がなかったので、伸びていた髪を切り、いつもよりもしっかり準備して万全だ。Bさんと並んでいても違和感がないように、ちゃんとした服装にした。といってもさすがに結婚式帰りみたいなスーツだとは思わなくて、並んでいると違和感があるに違いない。偉いひとと荷物持ちのひと、みたいな状態だった。俺は遠足みたいにテンションが上がっている。Bさんはくすくす笑っている。
Bさんと新幹線に乗った。車内のような明るい場所で会うことがほとんどなかったので新鮮すぎて、緊張する。
すぐ着きますよと言われたとおり、わりとすぐに着いて、旅館までは送迎が来ていてよかった。
モダンで新しく、広くてきれいな高級旅館で、部屋も広々。上着を脱いで荷物をおろして休んで、俺の給与では一ヶ月分は飛んでしまいそう、と思ったところで、俺は気づく。
「Bさん、お金は大丈夫なんですか?」
「Aくんに出させるわけにはいきませんよ。気にしないでください」
「でも……」
Bさんが無職とは考えられないが、いまもそれは変わらないのだろうか。
テーブルで向かい合い、女将さんが淹れてくれた茶をすすりながら、二人きりになった部屋でBさんは切り出した。
「会社は辞めたんですが」
「ですよね」
「あ、見ましたか」
「はい。すみません。人に言われて……」
本当は、Bさんから先に聞きたかった。
「人に?」
「えぇっと、元彼が……会社のホームページで見て、辞めてるって」
「会ったんですか? 大丈夫でした?」
「あ、はい。大丈夫」
「何も言われなかった? 傷つくようなこと」
隠そうと思ったけれど、Bさんには何でも言ってしまう俺には、隠せなかった。
「また、寄りを戻せないかと。断りました」
「しつこいですね」
Bさんは立ち上がり、隣に座った。肩を抱いて、俺の額に頬を寄せてくる。
「僕、そろそろAくんの元彼のこと、八つ裂きにしそう」
俺は吹き出した。
「俺はビンタだったのに」
会って話したいことがあるんです、とBさんからメッセージが入っていたのは、金曜日の夜中だった。明日は朝から夜まで予定があるそうでバタバタしているのだが、夜から行けなかった旅行に行けますかと誘われて、一も二もなく了解した。
「Aくん」
さっそうと現れたBさんはいつになく似合うブラックスーツ姿で目がちかちかする。
「Bさん」
俺が気づくと、Bさんは正面で立ち止まって頭を下げた。
「ごめんなさい。約束を守れなかったことも、長くかかったことも」
「とんでもない。旅行、楽しみです!」
俺は何も予定がなかったので、伸びていた髪を切り、いつもよりもしっかり準備して万全だ。Bさんと並んでいても違和感がないように、ちゃんとした服装にした。といってもさすがに結婚式帰りみたいなスーツだとは思わなくて、並んでいると違和感があるに違いない。偉いひとと荷物持ちのひと、みたいな状態だった。俺は遠足みたいにテンションが上がっている。Bさんはくすくす笑っている。
Bさんと新幹線に乗った。車内のような明るい場所で会うことがほとんどなかったので新鮮すぎて、緊張する。
すぐ着きますよと言われたとおり、わりとすぐに着いて、旅館までは送迎が来ていてよかった。
モダンで新しく、広くてきれいな高級旅館で、部屋も広々。上着を脱いで荷物をおろして休んで、俺の給与では一ヶ月分は飛んでしまいそう、と思ったところで、俺は気づく。
「Bさん、お金は大丈夫なんですか?」
「Aくんに出させるわけにはいきませんよ。気にしないでください」
「でも……」
Bさんが無職とは考えられないが、いまもそれは変わらないのだろうか。
テーブルで向かい合い、女将さんが淹れてくれた茶をすすりながら、二人きりになった部屋でBさんは切り出した。
「会社は辞めたんですが」
「ですよね」
「あ、見ましたか」
「はい。すみません。人に言われて……」
本当は、Bさんから先に聞きたかった。
「人に?」
「えぇっと、元彼が……会社のホームページで見て、辞めてるって」
「会ったんですか? 大丈夫でした?」
「あ、はい。大丈夫」
「何も言われなかった? 傷つくようなこと」
隠そうと思ったけれど、Bさんには何でも言ってしまう俺には、隠せなかった。
「また、寄りを戻せないかと。断りました」
「しつこいですね」
Bさんは立ち上がり、隣に座った。肩を抱いて、俺の額に頬を寄せてくる。
「僕、そろそろAくんの元彼のこと、八つ裂きにしそう」
俺は吹き出した。
「俺はビンタだったのに」
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