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第五章
四 だめ
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四
「この社長交代のニュース、一ヶ月前」
「……」
Bさんと、すでに三ヶ月は会えていない。旅行がキャンセルになったのも電話でのやり取りだったから――最後に会ったのは、真夜中のコンビニ前に会いに来てくれた以来だ。旅行の約束をした。あのとき、恋人未満の関係でも構わないと思った。
Bさんは、まったくの音信不通ではない。やはり真夜中にメッセージが来て、俺は無理に起きて返信している。
だが、あれから来ることはなかった。時間もどんどん遅くなって、明け方になっていることもある。さすがに起きられなくて、朝に見つけると、数時間前という表示が憎らしい。
仕事が忙しいと聞いている。実際、忙しいのだと思う。だが、具体的に、どのように忙しいのかは知らなかった。会社を辞めたという話は一度も聞いていない。
Bさんが会社をやめて、転職したというのだろうか。もしくは、同じ会社にいるけれど代表ではなくなったのだろうか。
いずれにせよ、他人から教えられたくなかったな、と思う。Bさんの口から直接聞きたかった。それだけが確かだった。
だが、しがないサラリーマンをたかだか数年しかしていない俺たちの見ている世界と、Bさんのいる世界がまったく違うことを思えば、Bさんにとって、ひとりで簡単に済ませてしまえる程度の話なのかもしれない。
「本人に直接聞いてみる」
立ち上がった俺の腕を彼が掴んだ。
「お前って、都合いい存在って扱いになってない?」
「俺、そろそろお前のことビンタしそう」
俺がBさんにとって都合の良い存在なんだったらそれでもよかった。
逆に、俺にとってB さんが都合よく恋できる存在で、Bさんの負担になっているほうが怖い。
いつだったか、俺は、Bさんに、待っていると言った。Bさんに堂々と好きだと言いたい。気持ちは変わらない。真正面から告白して、なんの後ろめたさもないBさんに受け入れてもらいたい。だからその時期が来るまで待つと言った。
だが、そのためにBさんが犠牲にするものがあまりにも多いのなら、Bさんに過酷な選択を迫ったのではないか。
俺が見えていないばかりに、Bさんに何を捨てさせてしまったのか考えると時間を巻き戻したくなる。
「心配してるんだって。俺が言えたことじゃないけど……。今なら、俺、お前のこと大切にするのに」
「それは無理……」
「なんで!? なにが無理!?」
「俺がドン引きしてるの気づかない程度にしか成長してない……」
「だめかぁ……」
「うん、だめ」
元恋人はがっくりと肩を落としていた。
「この社長交代のニュース、一ヶ月前」
「……」
Bさんと、すでに三ヶ月は会えていない。旅行がキャンセルになったのも電話でのやり取りだったから――最後に会ったのは、真夜中のコンビニ前に会いに来てくれた以来だ。旅行の約束をした。あのとき、恋人未満の関係でも構わないと思った。
Bさんは、まったくの音信不通ではない。やはり真夜中にメッセージが来て、俺は無理に起きて返信している。
だが、あれから来ることはなかった。時間もどんどん遅くなって、明け方になっていることもある。さすがに起きられなくて、朝に見つけると、数時間前という表示が憎らしい。
仕事が忙しいと聞いている。実際、忙しいのだと思う。だが、具体的に、どのように忙しいのかは知らなかった。会社を辞めたという話は一度も聞いていない。
Bさんが会社をやめて、転職したというのだろうか。もしくは、同じ会社にいるけれど代表ではなくなったのだろうか。
いずれにせよ、他人から教えられたくなかったな、と思う。Bさんの口から直接聞きたかった。それだけが確かだった。
だが、しがないサラリーマンをたかだか数年しかしていない俺たちの見ている世界と、Bさんのいる世界がまったく違うことを思えば、Bさんにとって、ひとりで簡単に済ませてしまえる程度の話なのかもしれない。
「本人に直接聞いてみる」
立ち上がった俺の腕を彼が掴んだ。
「お前って、都合いい存在って扱いになってない?」
「俺、そろそろお前のことビンタしそう」
俺がBさんにとって都合の良い存在なんだったらそれでもよかった。
逆に、俺にとってB さんが都合よく恋できる存在で、Bさんの負担になっているほうが怖い。
いつだったか、俺は、Bさんに、待っていると言った。Bさんに堂々と好きだと言いたい。気持ちは変わらない。真正面から告白して、なんの後ろめたさもないBさんに受け入れてもらいたい。だからその時期が来るまで待つと言った。
だが、そのためにBさんが犠牲にするものがあまりにも多いのなら、Bさんに過酷な選択を迫ったのではないか。
俺が見えていないばかりに、Bさんに何を捨てさせてしまったのか考えると時間を巻き戻したくなる。
「心配してるんだって。俺が言えたことじゃないけど……。今なら、俺、お前のこと大切にするのに」
「それは無理……」
「なんで!? なにが無理!?」
「俺がドン引きしてるの気づかない程度にしか成長してない……」
「だめかぁ……」
「うん、だめ」
元恋人はがっくりと肩を落としていた。
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