今夜、恋人の命令で変態に抱かれる

みつきみつか

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第五章

三 名前

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   三

「ーーだったら俺とやり直すほうが建設的じゃない?」
「馬鹿じゃない?」

 隣に掛ける元恋人の提案を一蹴してコーヒーの入ったコップを置く。仕事の後に食事などに誘われることが増え、おごってくれるというので時々応じている。
 今日は会社近くのチェーンカフェに入った。
 俺は言った。

「俺らってさ、大学のときにたった三ヶ月くらい付き合っただけじゃん。そんなに俺にこだわる必要ある? 誰彼構わずそんなこと言ってるクズなの? 俺、お前との過去、なかったことにしたい」

 別れてしばらくして、よりを戻したいと迫られ、拒否し、を繰り返すうちに、以前の関係では言えなかったことを言うようになった。
 といって、距離が近づいたのではない。接触する機会が多くなり、遠慮がなくなっただけだ。本当なら、誰かを傷つけるような言葉なんて言いたくない。だが、むかし傷つけられた仕返しぐらいはしておきたい。

「汚点扱い……俺、若かったんだよ」
「若さで済ますなよ。全然許してない」
「ごめん」
「ごめんで済むもんか」
「あれから反省の日々~」

 元恋人は項垂れた。

「しかもすぐに誰かと付き合ってたよな」
「だけど、理不尽だったし、結構ひどくやられて……、お前の気持ちわかったわ」
「おい、声でかい」

 ふざけるなと彼の頬を掴んだ。

「冗談……じゃないけど、そういうわけでさ。今更でも、俺たち、またやり直すって手もあると思う」
「ないと思う」
「だって別に、なんだっけ。上月さん? やったわけじゃないんだろ」
「声でかいって言ってるだろ。どこだと思ってんだ」

 頬を掴んで揺さぶりつつ、周りを見る。幸いにして人は少ないが、聞かれていないとは言えなかった。

「連絡も取れないのによく我慢できるよな」
「我慢できなかったら何するんだよ」

 結局、俺にできることは待つことだけだ。へんに何度も連絡して、面倒だと思われることは避けたかった。

「会社にでも乗り込んでさ、俺を弄びやがってって」

 いくらセンシティブな話題なので相談できる人が他にいないとはいえ、相手を間違えた。

「帰るわ~」
「というか、お前にいいたい事あって来たんだよ。上月さんってこの会社だったよな」

 と、元恋人はスマホの画面を突きつけてきた。Bさんが、ここの経営者なんです、と名刺をくれた会社名に内心どきりとする。

「そうだけど……、勝手に調べるなよ。俺はへんなことはしない」

 元恋人は画面操作して、さらにページを見せてきた。

「社長代わってるの、知ってる?」

 そこには、かつてあったはずのBさんの名前も写真もなく、まったく別の見知らぬひとのそれらが載っていた。
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