今夜、恋人の命令で変態に抱かれる

みつきみつか

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第五章

二 コンビニ前

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  二

「Bさん」

 コンビニの明かりを背に、スーツ姿のBさんはコーヒーを飲んでいた。

「Aくん」

 店内から見えない位置に移動して、誰もいないことを確認して見つめ合う。
 疲れ切っていて眠そうにしているのに、きらきらして見える。もともと顔の造作がいいせいか。四十三歳だそうだ。
 初めて会ったとき、彼は三十九歳と三百六十六日で、それから約三年が経った。
 両手を伸ばして、背の高いBさんの頬を挟んだ。Bさんが首をかしげて微笑む。

「ごめんね。寝ていたのに。すぐ帰ります」
「俺の家に泊まりますか」
「いいですね。朝、一緒に出勤したいですね」

 冗談ではないのに、きっと帰ってしまう。それがわかって、惜しくなる。

「俺も……」
「この際、引っ越しちゃおうかな。隣の部屋、空いてます?」
「空いてますけど四畳半のワンルームですよ」
「僕の部屋をベッドルームにして、寝る時はAくんもうちに来るの、どうですか?」

 夢のような話だった。いつか実現するのだろうか。

「それがいいです」

 Bさんは笑いながら言った。

「旅行、行けそうですか?」
「行きます!」
「じゃあ僕の方で見繕っておきますね。食べたいものは?」
「なんでも」
「食べられないものは?」
「ありません」
「了解」

 Bさんは俺が頬を挟んでいるのと同じように、俺の頬を両手で挟む。
 口づけた。すぐ離れてしまうのが名残惜しい。

「Aくん」
「はい」
「なんだか中学生にでも戻ったみたいな気分です」

 中学生のとき、夜中に会いに行くような恋をしていたのかと思うと胸が痛くなる。俺は生まれてもなかったのに。
 Bさんは苦笑している。

「Aくん、嫉妬してくれてる?」
「Bさんの青春時代、聞きたいけど聞きたくないです」
「でも、両想いになったことは一度もありません。いつも僕の片想い」

 今ほどはオープンにできなかったので、とBさんは微笑んだ。
 それでも中学生のBさんに片想いされていた見知らぬ人物に対して、もやもやしてしまう。

「まだ納得してなさそうですね」
「子どもですみません」
「いつかAくんが他の誰かをそんなふうに一途に強く想うと思うと僕だって心穏やかではいられませんし、Aくんの過去だって」
「そんなの関係ないです。いま、Bさんだけ」

 コーヒー味のキスをした。歯磨きしておいてね、とBさんは言ったけれど、Bさんの味をしばらく感じていたくなる。

「僕もAくんだけ」


   ***

 Bさんがプランを立てて予約などをしてくれて、楽しみに待つうちに、旅行の日はすぐに来た。
 金曜日、仕事が終わった後、午後七時に駅で待ち合わせをした。
 その日は一日がんばって仕事を終え、午後六時には退勤して、着替えて、十分前には駅に着いた。
 だが結論からいうと、Bさんとの旅行はキャンセルになった。
 Bさんが来られなくなったのだ。急に対応しないといけないことがあって行けなくなったというメッセージが来て、それっきり、簡単なメッセージのやり取りだけになり、会えなくなったのである。

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