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第三章
五 次の約束
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月曜日の夜に自宅で休んでいたらBさんから着信があり、電話に出た。出ると慌てていたので何事かと思う。
『すみません、急に』
「いえ」
『いまいいですか?』
「はい」
『先日、僕、酔っ払って、Aくんの相談を聞くのを忘れてしまっていました。申し訳ないです』
「え、あ、とんでもない」
そういえば、同期とのことを相談しようと思っていた。男同士だが告白されたと。付き合ってほしいと言われたことを。
俺も忘れていた、というよりも、相談するまでもなく自分の中で結論が出てしまった。まるで最初から決まっていたかのように。Bさんに相談したいと思ったのは、別の理由だと気づいている。Bさんと会う口実にしたかったのだ。嫉妬してくれるような人だったら話しただろうが、後押しするとわかっていたので結局話さなかった。
『電話で良ければ聞きますし、仕切り直しでも』
「じゃあ、また会いたいです。会ったときに言います」
『わかりました。次は食事までにしましょう。お酒はなし』
「はい」
『行きたいところがあれば付き合います』
「行きたいところ……」
『どこでもいいですよ』
まず、次にBさんに会うのは、週末になった。そしてなぜか話の流れで、遊園地に行く約束をした。俺は遊園地なんて小学生以来で、Bさんは遊園地に行ったことがないらしい。
こんな二人がはたして本当に遊園地に行くのだろうかと疑問ではあるが、実際に行ったとしても、やはり足踏みして行かなかったとしても、いまとても楽しみであることにはかわりないと思った。
電話を切る。もし同僚の告白の件を話すなら、叱られないように言い訳を考えないといけないかもしれない。
Bさんが聞いたら、先に相談してくれたらと嘆くだろう。どうして断ったのかと。
同じ会社の同い年の仲良しの同期という関係から、恋愛関係になったら後戻りはできない。俺の言い訳を聞いても、だが恐れずに飛び込みなさいと背中を押すに違いない。幸せになるチャンスだからと。
付き合ううちにきっと俺は彼をどんどん好きになる、恋なんてあとからついてくる。そんなふうに根拠のない未来を勝手に描いて、若者の前途を応援してしまうだろう。Bさんのばか。
電話が再びかかってきた。間違えてボタンを押したのだろうか。
「はい」
『度々失礼します』
「はい」
Bさんは躊躇いながら言った。
『バーの同期のことで、あれは僕のワンナイト相手などではなくて。僕が彼を好き、というのもないです。僕、前髪系の子が好きなので。ああいうむっちりした熊系の短髪はちっとも対象外』
「そうですか」
『彼は、僕の妻の恋人で、子どもたちの父親なんです。それだけですから。彼の名誉を守る意味で、あまり人に話せないだけなんです』
僕との関係を誤解しないでくださいね、と言って、Bさんは電話を切った。
〈続く〉
『すみません、急に』
「いえ」
『いまいいですか?』
「はい」
『先日、僕、酔っ払って、Aくんの相談を聞くのを忘れてしまっていました。申し訳ないです』
「え、あ、とんでもない」
そういえば、同期とのことを相談しようと思っていた。男同士だが告白されたと。付き合ってほしいと言われたことを。
俺も忘れていた、というよりも、相談するまでもなく自分の中で結論が出てしまった。まるで最初から決まっていたかのように。Bさんに相談したいと思ったのは、別の理由だと気づいている。Bさんと会う口実にしたかったのだ。嫉妬してくれるような人だったら話しただろうが、後押しするとわかっていたので結局話さなかった。
『電話で良ければ聞きますし、仕切り直しでも』
「じゃあ、また会いたいです。会ったときに言います」
『わかりました。次は食事までにしましょう。お酒はなし』
「はい」
『行きたいところがあれば付き合います』
「行きたいところ……」
『どこでもいいですよ』
まず、次にBさんに会うのは、週末になった。そしてなぜか話の流れで、遊園地に行く約束をした。俺は遊園地なんて小学生以来で、Bさんは遊園地に行ったことがないらしい。
こんな二人がはたして本当に遊園地に行くのだろうかと疑問ではあるが、実際に行ったとしても、やはり足踏みして行かなかったとしても、いまとても楽しみであることにはかわりないと思った。
電話を切る。もし同僚の告白の件を話すなら、叱られないように言い訳を考えないといけないかもしれない。
Bさんが聞いたら、先に相談してくれたらと嘆くだろう。どうして断ったのかと。
同じ会社の同い年の仲良しの同期という関係から、恋愛関係になったら後戻りはできない。俺の言い訳を聞いても、だが恐れずに飛び込みなさいと背中を押すに違いない。幸せになるチャンスだからと。
付き合ううちにきっと俺は彼をどんどん好きになる、恋なんてあとからついてくる。そんなふうに根拠のない未来を勝手に描いて、若者の前途を応援してしまうだろう。Bさんのばか。
電話が再びかかってきた。間違えてボタンを押したのだろうか。
「はい」
『度々失礼します』
「はい」
Bさんは躊躇いながら言った。
『バーの同期のことで、あれは僕のワンナイト相手などではなくて。僕が彼を好き、というのもないです。僕、前髪系の子が好きなので。ああいうむっちりした熊系の短髪はちっとも対象外』
「そうですか」
『彼は、僕の妻の恋人で、子どもたちの父親なんです。それだけですから。彼の名誉を守る意味で、あまり人に話せないだけなんです』
僕との関係を誤解しないでくださいね、と言って、Bさんは電話を切った。
〈続く〉
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