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第三章

二 同席者

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 Bさん指定の駅裏のバーを覗くと、おしゃれなバーカウンターの背もたれのないカウンターチェアにBさんが掛けていた。隣にひとがいてぼそぼそと話していたが、俺の姿に気づき、声を掛けてくる。

「Aくん」
「失礼します」

 Bさんに促され、隣に掛けた。
 反対隣には、小太りの中年男性が、丸みを帯びた背中で掛けている。
 彼はグラスを置いて呟いた。

「新しい男か」
「この子はそういう関係じゃあない」
「そう」

 おじさんが札を置いて席を立つ。
 そしてそのままバーを出ていった。置いた紙幣をみてBさんは、「気を遣わなくていいのに」と呟いた。どうやら多めに置いていったらしい。

「……俺、邪魔でしたか」
「今夜、大切なひとと待ち合わせなんですよ。Aくんっていうんですけど。だからさっきのおじさんが邪魔で。帰ってくれてよかったです。ビールはどうです? ドイツのベックス」
「それにします」

 マスターに声を掛けると、程なくしてビアグラスに注いだビールが置かれた。乾杯をして、一口のむ。くせはあるが、思ったより呑みやすい。
 呑みながら、Bさんをうかがう。久しぶりのBさんは疲れているように見えた。

「……先ほどの方は、Bさんの……」
「え? あ、違いますよ。彼は同じ会社で、えーっと、同期ではないんですが同い年ですね。彼は新卒で僕は転職組で、同期の輪に入れてくれたんです」

 同期という言葉にどきりとする。
 そして、初めて会った数年前から若々しいBさんと、先程のおじさんが同い年、という事実に驚いた。
 丸みを帯びた背中も、スーツ越しにもたっぷり出た下っ腹も、全体的にむちむちしていた。スーツはごく普通の量販店のもので、時計も靴も、新卒二年目の自分とさほど差がなかった。
 Bさんは頭の先から靴の先まで洗練されているので、あまりの違いにくらくらする。だが、ふつうのおじさんってあっちだよな、と思い直す。Bさんが特殊なのだ。おしゃれさは控えめで、アイテムのチョイスはむしろ地味なのだが、生身や雰囲気の華やかさがすべてを凌駕している。
 Bさんが目を細めてビールの残ったグラスを見つめている様子が、いかにも訳ありげだった。なにかあるに違いない。話したくないのか、話したいのか、はかりかねる。
 いつも俺は自分の話ばかりなので、Bさんが俺を話し相手に選んでくれるのであればその役を全うしたい。
 だが、Bさんにとって俺はどういう存在なのかといえば、頼りがいがあるとは言いづらい。頼りにしているのはいつも俺のほうで、俺にとって、Bさんはよき相談相手だ。Bさんにとって俺と関わるメリットなどないように思えた。
 自分たちの関係は中途半端で名前がない。

「僕は前社長に引っ張られて今の地位になりまして、彼は平社員のまま。複雑でしょ」

 本当にそれだけなのだろうか。
 Bさんは一夜限りのひとだ。寝たことのある相手の可能性は高い。俺とはセックスしないままだが、最近はどうなのだろう。
 途中までは、したことがある。あんなことを、いまも、他の誰かとしているのだろうか。そりゃしているはずだ。まるで相手を愛しているみたいに。
 思わず疑うような俺の視線に、Bさんは不思議そうに微笑んだ。

「気になる?」

 見透かされて、俺は目をそらした。
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