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第三章
一 告白
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――好きなんだ。付き合ってほしい。
昔のことがトラウマで、恋愛に興味がないとはわかってる。でも、一度、考えてもらえないか。
メッセージの受信音で目を覚ました。午後三時になっていた。いくら土曜日で仕事が休みだからといって寝すぎた。
頭が痛い。凝り固まった肩をほぐしながらだらだらと起きて流しに立ち、コップ一杯の水を飲む。体に染み渡ると同時に、頭痛がゆるやかに引いていく。
昨夜は呑みすぎたんだ。職場でいちばん仲の良い同期の同僚と何軒もはしごして気持ち良く呑んだ。いつものことだ。が、酔いは最後に吹っ飛んだ。いつもは起きないことが起きたのである。
夜明け近くの海辺で潮風に当たりながら、ぐだぐだと取り留めもなく喋っていたときの、同僚の告白のせいだ。
――好きなんだ、付き合ってほしい。
告白された。
男の同僚に。
就職して女性のお誘いを断り続けるうちにゲイだと噂を立てられ、否定も肯定もせずに放っておいた。
近しいひとには、過去にひどいフラレ方をしたせいでいまは恋愛自体に興味が湧かなくなったと話すにとどめていたが、ゲイ疑惑と合わさっていたらしい。
自分のことはさておき、同僚が男に興味があるとはついぞ気づかなかった。そういった好意を持たれていたことも。
部署は異なるものの、フロアは同じ。断ることも応じることもリスクが高い、などと冷静に考えてしまう。
入社して約一年間ずっと仲が良かったのに、と恨みがましい気持ちにまでなってしまった。いや、嫌いではない。むしろ好きだ。気が合い、話していて楽しい。いい友達だった。だけど――。
恐る恐る、メッセージの受信音の主を見る。
久しぶりにBさんからメッセージが届いていた。俺は慌てて内容を読む。
『じゃあ、会いましょうか』
文脈がわからず、俺は不思議に思った。トークルームを開いて、理由がわかる。
今朝五時などという非常識な時間に、俺がBさんにメッセージを送っていた。帰宅した後、眠るまでの間に無意識に送信していたらしい。
『相談したいことがあるんです』と。へんなことを送っていなくてよかったと安堵する。
俺のメッセージに対し、Bさんは返答してくれたらしい。会おうかと。
Bさんとは、俺が就職して以来、数ヶ月に一度会っている。連絡先も教えてもらったし、会社名もちゃんと教えてもらってある。
だが、だからこそ、だろうか。少し遠い存在になった気がする。本名も教えてくれた。けれど、それらすべてが、かえって、本来であればかかわりあいにならないはずのひとだということの表れに思えて、俺は彼を、『Bさん』と登録している。
俺はBさんに返信した。
『会いたいです』
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