上 下
11 / 26
第二章

五 新しい恋について

しおりを挟む
 Bさんとキスをするのは二度目だ。前の時はセックスするためのキスで、食べているみたいだった。いまは、触れているだけのものだった。かといって、プラトニックという雰囲気でもなかった。泣き止ませるために驚かせようとし、さらには下心もある、というような、複雑なキスだ。
 少しして離れた。
 いまは行き交うひとはいないけれど、ひらけた場所なので、思わず人目を気にしてしまう。こちらを気にしているひともちらほらいるような気がする。まぁ、いいか。

「Bさん」
「キスしていいですか?」
「すでにしてます……」
「おかわり」

 また唇が触れた。
 自分の涙と鼻水の塩味がする。Bさんは俺の唇を舐めている。
 くすぐったくて笑った。

「き、汚いですよ」
「全部欲しい」

 どきっとする言い方だった。
 Bさんは得意気に続ける。久しぶりのBさんは、とてもBさんだった。

「なんてね。あいにく僕はとっくに行き過ぎた大人なので、純朴な少年は目を背けたくなるような、いやらしくて汚らしいことが大好きなんです。きれいだと思えば思うほど、俄然、自分の手で汚したくなったりして」

 何度もついばむように口づけてくる。慣れてきた。
 俺だってこれがしたい。
 回数を重ねるごとに、強張っていた体と気持ちがゆるんで、本心が剥き出しになる。

「好きな人としたかった……」

 Bさんは俺の頬を挟んだまま、真っすぐに見つめてくる。

「Aくん、恋をしなさい。うんと素敵なひとと、誰にも負けないような恋を」
「もう、できない」

 Bさんの表情がぼやけてわからなくなる。Bさんの手が濡れてしまう。Bさんは気にもとめていないようだけど。
 元恋人とは、いつの間にか恋に落ちていた。どうやって落ちたかなんて覚えていない。失敗が怖くて思い出すこともできない。やりかたなんてわからない。ただ、あっという間だったように思う。始まりも終わりも、自分が自分ではなかったかのようだ。
 こんなにも惜しく思うのならば、もっと、目に焼きつけるように一日一日を大切に過ごしておけばよかった。

「新しい恋の中で、セックスもしたければすればいい。セックスがなかったって、恋なんてきれいなだけじゃない。新しい恋はそれを君に教えてくれる。その彼は、自分が間違っていたことに気づいたから、謝りに来たんでしょう。Aくんをこんなに傷つけておきながら、自分勝手だけど」
「でも、やっぱり、俺が、彼としたかった。ふたりで気持ちよくなって、幸せになりたかった、もっと近づけると思った、なのに」
「うん。大好きだったねぇ」
「忘れられないんです」
「わかります」

 悔しくて、アパートの前で泣いたとき以上に涙が止まらなくなって、俺はBさんの腕に縋りついて泣いた。
 俺が大好きだった彼を幸せにした知らない他人のことが憎らしくて仕方ない。二人に恋が続いていることを思うと苦しい。俺と二人では届かなかった場所に、俺と彼が越えられなかった向こう側に、他の人とならたどり着けたんだと思うと、息ができない。
 Bさんは大きな手のひらで、俺の肩を抱いて言った。

「大丈夫。案外、うまくいきます」

 本当かなぁ、と思いながら。穏やかな声を信じたいとも思う。
 また恋に落ちる日なんて、いまは想像すらできない。



<続く>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。

丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです! エロ特化の短編としてお読み下さい…。 大切な事なのでもう一度。 エロ特化です! **************************************** 『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』 性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。 キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。

童貞処女が闇オークションで公開絶頂したあと石油王に買われて初ハメ☆

はに丸
BL
闇の人身売買オークションで、ノゾムくんは競りにかけられることになった。 ノゾムくん18才は家族と海外旅行中にテロにあい、そのまま誘拐されて離れ離れ。転売の末子供を性商品として売る奴隷商人に買われ、あげくにオークション出品される。 そんなノゾムくんを買ったのは、イケメン石油王だった。 エネマグラ+尿道プラグの強制絶頂 ところてん 挿入中出し ていどです。 闇BL企画さん参加作品。私の闇は、ぬるい。オークションと石油王、初めて書きました。

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...