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番外編20 季節ものSS
帰省するお二人と一匹 三 タロとジロと大和
しおりを挟む和臣さんがご実家のドアホンを鳴らす。
と、すぐに小野寺家の家政婦、エプロン姿の瑞穂さんが出てきた。
「ただいまー」
「お邪魔します」
「三郎坊ちゃま、多紀ちゃま。おかえりなさいまし。おやおや、こちらが大和ちゃま」
俺がケージを抱え、和臣さんが大和を抱っこしている。
瑞穂さんが優しい笑顔で覗き込むと、大和は興味深そうに見ている。
「うっふっふっ。柴ちゃんも可愛らしいですわねぇ」
「タロとジロは?」
「奥様とお庭に出ていますわ」
和室のほうへ入っていくと開け放した掃き出し窓の向こうの青々とした芝生で、白と黒のラブラドールレトリバーが軽く駆け回っている。シニア犬なのに元気。
お母さんは縁側でお茶を飲んでいた。
「あら、おかえり~。早かったわねぇ」
飛ばしたわけではないし、しっかり休憩もとったのだけど、まだ十二時だ。
思いのほかすいていてラッキー。
「お世話になります」
「お母さんこそ。今日、仕事でしょ?」
「のんちゃんの旦那さんに任せて、院長先生は隠居よ、隠居」
のんさんの旦那さんはお母さんと同じく眼科で(というかその縁で結婚したそうな)、お母さんが経営するクリニックに勤務している。
「多紀ちゃん。遠いところお疲れさま。ゆっくりしてね。お昼はもう食べた?」
「あ、まだなんです」
「途中で食べてもよかったんだけど、せっかくだから仙台で食べようかなって思ってさ」
俺は言った。
「お母さんはお昼は召し上がりました? よかったら」
「いいわねぇ。わたしも瑞穂さんもまだ。みんなで外食にしましょう。こら三郎、そんなに邪魔そうな顔しないの。親孝行のひとつぐらいしなさい」
和臣さんを見ると、実家なので遠慮なく表情豊か。子どもみたい。
そこへタロとジロが尻尾をぷらぷらさせながら恐る恐る近づいてきた。
「離しても大丈夫かな」
和臣さんが大和をおろしてリードを外すと、大和は柴ドリルを繰り出しながら、お母さんに軽く撫でられた後、庭にぴょいっとおりていく。
大和は慎重派だし、ドッグランでもお友達とふつうに仲良くしてる。
大型犬のタロとジロは、ややいたずらっ子だけど大人しいので、大丈夫だと思う。けど、どうだろう。どきどき。
三匹はやや距離をとりながらお互いのにおいを確認し、やがて連れ立って庭を探索しにいった。
どうやら、大丈夫そう。
ほっと胸を撫で下ろす。
「三匹目、いいわねぇ。新鮮」
「柴ちゃんも可愛らしいですねぇ」
ふと視線を感じて見ると、和臣さんが目を細めて、にこにことこちらを見ている。
「大和のこと、心配してた?」
「……実は」
「仲良くできそうでよかったね」
「ですねっ。さすがタロジロです!」
俺のことも大歓迎してくれたふたりだから、きっと大丈夫と思ってた。でも大和のことも心配してた。
三匹は、青々と茂った庭で早速ワンプロしてる。
よかった。楽しい滞在になりそう。
「仲が良くて何よりですわねぇ」
「ほんとね~」
気づくと、瑞穂さんとお母さんがにやにやしつつこちらを見ていた。
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