320 / 366
番外編18 続・野球帽と初恋(和臣視点)
八 追いかけられる
しおりを挟む
休日。朝。
ベッドの中でまどろんでいると、多紀くんがすり寄ってきた。抱き合ったり口づけ合ったり。このままエッチするのかな、という雰囲気になってくる。
ちゃんと勃つかな……。かなり不安。多紀くんの体を触っていたら反射的に勃つだろうけど。
チャイムが鳴り、俺は起き上がった。
多紀くんを置いてベッドを立ち、廊下に出てインターフォンに応じる。
「はい」
「上に引っ越してきたものです」
あぁ、引っ越しの挨拶か。
モニターを見ると、若い女性だった。出ようとする俺を、多紀くんが押し留めた。
「俺が出ます」
「え……そう?」
「はいっ! 和臣さんはまた寝てて!」
「ん、うん」
多紀くんは大急ぎで着替えて、応対。俺は寝室でのんびり着替え。
なんなんだろう。俺は女性と顔を合わせるとろくなことが起こらないから、多紀くんに任せたいけれど、多紀くんが女性と話をしているのも嫌だな……。
「引っ越し蕎麦もらいました!」
「よかったね」
「はいっ、あ、起きるんですか?」
なんだか残念そう。あ、エッチしたかったのかな。最近控えめだもんね。
「あ、うん。勉強しよっかなって」
「俺も! 俺もします!」
なんでそんな、嬉しそうな顔をしているの。
見ていると辛くて涙が滲んでくる。堪えられそうにない。情けない。
「ひとりで勉強したいから、ごめん。外に出てくるね」
というと、多紀くんは急に悲しそうな顔になって、それも心が痛い。
悲しませたいわけじゃないんだ。傷つけたくもない。
俺、何がしたいんだろう。
「ですよね、うるさくてすみません」
「ううん。難しくて、頭に入ってこなくてさ」
そんな言い訳をして、夕方まで、図書館で勉強していた。帰りたくなくて、でもどうしようもなく、カフェに入ってまた勉強。
すると、多紀くんが現れた。
なんで追いかけてくるんだろう。まるで俺のことを探していたみたいに。
もし何か――話があるからだとしたら、いやだ。多紀くんの切り出そうとする話なんて、聞きたくない。聞きたくないよ。受け入れられない。
きっと、誰かを好きになってしまって、結婚パーティーを取り止めないといけない。一緒に暮らしている部屋から出ていくことになる。二人ともつけている指輪を外さないといけない。
そういう話。
「ここにいたんですねっ」
「あ、図書館にいって、ここに」
「話したくて」
その嬉しそうな顔から視線をそらして、俺は我慢できずに席を立った。
聞きたくないんだ。
多紀くんが追いかけてくる。俺は途中で気力がなくなって道端で立ち尽くし、多紀くんはとうとう俺の腕を取った。
ベッドの中でまどろんでいると、多紀くんがすり寄ってきた。抱き合ったり口づけ合ったり。このままエッチするのかな、という雰囲気になってくる。
ちゃんと勃つかな……。かなり不安。多紀くんの体を触っていたら反射的に勃つだろうけど。
チャイムが鳴り、俺は起き上がった。
多紀くんを置いてベッドを立ち、廊下に出てインターフォンに応じる。
「はい」
「上に引っ越してきたものです」
あぁ、引っ越しの挨拶か。
モニターを見ると、若い女性だった。出ようとする俺を、多紀くんが押し留めた。
「俺が出ます」
「え……そう?」
「はいっ! 和臣さんはまた寝てて!」
「ん、うん」
多紀くんは大急ぎで着替えて、応対。俺は寝室でのんびり着替え。
なんなんだろう。俺は女性と顔を合わせるとろくなことが起こらないから、多紀くんに任せたいけれど、多紀くんが女性と話をしているのも嫌だな……。
「引っ越し蕎麦もらいました!」
「よかったね」
「はいっ、あ、起きるんですか?」
なんだか残念そう。あ、エッチしたかったのかな。最近控えめだもんね。
「あ、うん。勉強しよっかなって」
「俺も! 俺もします!」
なんでそんな、嬉しそうな顔をしているの。
見ていると辛くて涙が滲んでくる。堪えられそうにない。情けない。
「ひとりで勉強したいから、ごめん。外に出てくるね」
というと、多紀くんは急に悲しそうな顔になって、それも心が痛い。
悲しませたいわけじゃないんだ。傷つけたくもない。
俺、何がしたいんだろう。
「ですよね、うるさくてすみません」
「ううん。難しくて、頭に入ってこなくてさ」
そんな言い訳をして、夕方まで、図書館で勉強していた。帰りたくなくて、でもどうしようもなく、カフェに入ってまた勉強。
すると、多紀くんが現れた。
なんで追いかけてくるんだろう。まるで俺のことを探していたみたいに。
もし何か――話があるからだとしたら、いやだ。多紀くんの切り出そうとする話なんて、聞きたくない。聞きたくないよ。受け入れられない。
きっと、誰かを好きになってしまって、結婚パーティーを取り止めないといけない。一緒に暮らしている部屋から出ていくことになる。二人ともつけている指輪を外さないといけない。
そういう話。
「ここにいたんですねっ」
「あ、図書館にいって、ここに」
「話したくて」
その嬉しそうな顔から視線をそらして、俺は我慢できずに席を立った。
聞きたくないんだ。
多紀くんが追いかけてくる。俺は途中で気力がなくなって道端で立ち尽くし、多紀くんはとうとう俺の腕を取った。
41
お気に入りに追加
2,041
あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる