318 / 366
番外編18 続・野球帽と初恋(和臣視点)
六 心配している
しおりを挟む
そんな生活を繰り返していたら、多紀くんも訝しく思ったようだ。
午前一時に帰宅すると、多紀くんは起きていて、俺のことを待っていた。
「和臣さん、あの、もしかして、俺のこと、避けてます?」
「えっ、どうして?」
「最近、連日遅いですよね」
アルコールのにおいがすることには、気づかれている。
俺、お酒に逃げるんだよね……。よくないってわかっているんだけど。
「ごめん、仕事忙しくて、疲れてるせいかな、帰りにお酒呑んじゃう」
多紀くんは心から不安そう。心配させてる。その表情を見ると、胸が締めつけられる。
「程々にしましょ?」
「うん」
とりあえず次はノンアルにしよ。酔わないとやってられないけれど、体調もよくない。
「明日は早く帰ってこれるといいですね。ほら、最近、その……してないし」
「したい?」
と訊ねると、多紀くんは照れ臭そうに笑った。可愛い。
「えっ、いや、え、和臣さんがしたがらないの珍しいですし、その、俺はいいんです、疲れてるでしょうし、落ち着いたらで」
「明日しよっか。ごめん、今日は遅いから……」
「あっ、じゃあ明日、待ってますね」
「うん」
「ゆっくり話したいこともあるんで」
やめてくれ。
翌日、やはり自宅には足が向かず、新宿のバーに向かった。
しかし、太郎兄さんはおらず、ひとりでカウンターで飲んでいると、ほんの一杯のうちに五人ほどの男から声をかけられた。
太郎兄さんがどう見てもタチだから、隣にいると俺がウケだと思われて、「今日お連れさんいないならどう?」などと誘われたが、俺はウケじゃないし、多紀くん以外の人間とセックスなんてしたくない。
うんざりしながら店を出てすぐ、マスターが追いかけてきた。
「あの、お忘れ物です」
「あ、ごめん、ありがとう」
スマホを忘れるとか、ぼんやりしすぎだ。個人情報の塊だぞ、俺。
マスターは去ろうとせず、何か話がある様子だった。
「あの、太郎さんとは、ただのお友達なんですよね」
「ええ、はい。古い友人です」
「そうなんですね……」
太郎兄さん、この人と今どうなってんだろ。まぁ、ひとの恋路を気にしてる場合じゃないか。
家に帰って多紀くんを抱いて、多紀くんは幸せそうにとろけていて、その姿を見ると俺も幸せなのに、甘えられても、やはり辛かった。
夜も遅かったので一回で済ませて不貞寝してしまった。
多紀くんはそんな俺のことを優しくよしよししてくれたけれど、俺は何も反応できず、多紀くんの腕の中で、泣くのを堪えていた。
午前一時に帰宅すると、多紀くんは起きていて、俺のことを待っていた。
「和臣さん、あの、もしかして、俺のこと、避けてます?」
「えっ、どうして?」
「最近、連日遅いですよね」
アルコールのにおいがすることには、気づかれている。
俺、お酒に逃げるんだよね……。よくないってわかっているんだけど。
「ごめん、仕事忙しくて、疲れてるせいかな、帰りにお酒呑んじゃう」
多紀くんは心から不安そう。心配させてる。その表情を見ると、胸が締めつけられる。
「程々にしましょ?」
「うん」
とりあえず次はノンアルにしよ。酔わないとやってられないけれど、体調もよくない。
「明日は早く帰ってこれるといいですね。ほら、最近、その……してないし」
「したい?」
と訊ねると、多紀くんは照れ臭そうに笑った。可愛い。
「えっ、いや、え、和臣さんがしたがらないの珍しいですし、その、俺はいいんです、疲れてるでしょうし、落ち着いたらで」
「明日しよっか。ごめん、今日は遅いから……」
「あっ、じゃあ明日、待ってますね」
「うん」
「ゆっくり話したいこともあるんで」
やめてくれ。
翌日、やはり自宅には足が向かず、新宿のバーに向かった。
しかし、太郎兄さんはおらず、ひとりでカウンターで飲んでいると、ほんの一杯のうちに五人ほどの男から声をかけられた。
太郎兄さんがどう見てもタチだから、隣にいると俺がウケだと思われて、「今日お連れさんいないならどう?」などと誘われたが、俺はウケじゃないし、多紀くん以外の人間とセックスなんてしたくない。
うんざりしながら店を出てすぐ、マスターが追いかけてきた。
「あの、お忘れ物です」
「あ、ごめん、ありがとう」
スマホを忘れるとか、ぼんやりしすぎだ。個人情報の塊だぞ、俺。
マスターは去ろうとせず、何か話がある様子だった。
「あの、太郎さんとは、ただのお友達なんですよね」
「ええ、はい。古い友人です」
「そうなんですね……」
太郎兄さん、この人と今どうなってんだろ。まぁ、ひとの恋路を気にしてる場合じゃないか。
家に帰って多紀くんを抱いて、多紀くんは幸せそうにとろけていて、その姿を見ると俺も幸せなのに、甘えられても、やはり辛かった。
夜も遅かったので一回で済ませて不貞寝してしまった。
多紀くんはそんな俺のことを優しくよしよししてくれたけれど、俺は何も反応できず、多紀くんの腕の中で、泣くのを堪えていた。
44
お気に入りに追加
2,041
あなたにおすすめの小説


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる