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番外編18 続・野球帽と初恋(和臣視点)
四 幻の生き物レベル
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同じ駅で降り、俺は毎朝、少し遠回りをして、多紀くんの会社の前まで送り届けている。朝の通勤の人波のなかを二人で肩を並べて歩いていく。
もう少しで多紀くんの会社の入っているビルが見えてくる……という辺りで、多紀くんは、となりの俺を見上げて、心配そうな声音で言った。
「和臣さん、最近、仕事大変そうですね」
「えっ、あ、そうだね」
仕事は定時で終わるように心がけている。残業したとしても、せいぜい一時間程度。だけど太郎兄さんと呑んだりして、帰宅時間は遅くなっている。でも心配されるのは嬉しい。
落ち込んでいるのは多紀くんのせい。でも言えない。苦しい。多紀くんに会いたい。だから早く家に帰りたい。だけど帰りたくない。会いたくない。
「食欲もなさそうだし、気分もよくなさそうで……。無理せず、休めたら休みましょ? 難しいでしょうか。専門職ですし、替えがきかないのはわかるんですけど、俺にとっても、和臣さんは一人しかいないわけで……」
「あ、うん……」
むしろ、会社で仕事をしているときは、何も考えずに済んでいる。
多紀くんを見ていると、好きで辛い。俺ばっかり好きなんだ。どれほど望んでも、そこは変えられない。贅沢な悩みだと思う。好きになってくれただけでも奇跡なのに。
せっかく作り上げた多紀くんのささやかな好きが、どこかに行ってしまう。ちゃんと握っておかないと飛んでいってしまう風船みたいな軽さなのに。
消えてしまう。失われてしまう。損なわれてしまう。
あるのかないのかわからないツチノコみたいな幻の生き物レベルの存在なのに。
「自分の体、大事にしてくださいね。何かあったら遠慮なく言ってください。俺、助けにいきますからね!」
そんな嬉しそうな顔しないで。心配そうなのになんだかふわふわしている。俺を見ているのに、別のひとを見ているような遠い眼差しをしている。
見ていると辛いよ。気づいていないと思っているの?
多紀くんの会社が入っているビルの前で、いつもどおりのばいばい。
「じゃあ、がんばりすぎないようにしてくださいね」
「うん。ありがとう。多紀くんもね」
「俺は大丈夫です!」
元気そう。そっか。
もし初恋のX氏が、仕事の関係とか、同じビルならば、会社に行くのは楽しいに決まっている。弾むような足取りにも納得がいく。
「でもできるだけ残業とかせずに、真っ直ぐ帰りますんで!」
「うん……」
そんな多紀くんの言葉は嬉しいはずなのに。
素直に喜べないんだ。
多紀くんの背中が遠ざかっていく。あ、後頭部の髪の毛が少しはねてる。可愛い。苦しい。
もう少しで多紀くんの会社の入っているビルが見えてくる……という辺りで、多紀くんは、となりの俺を見上げて、心配そうな声音で言った。
「和臣さん、最近、仕事大変そうですね」
「えっ、あ、そうだね」
仕事は定時で終わるように心がけている。残業したとしても、せいぜい一時間程度。だけど太郎兄さんと呑んだりして、帰宅時間は遅くなっている。でも心配されるのは嬉しい。
落ち込んでいるのは多紀くんのせい。でも言えない。苦しい。多紀くんに会いたい。だから早く家に帰りたい。だけど帰りたくない。会いたくない。
「食欲もなさそうだし、気分もよくなさそうで……。無理せず、休めたら休みましょ? 難しいでしょうか。専門職ですし、替えがきかないのはわかるんですけど、俺にとっても、和臣さんは一人しかいないわけで……」
「あ、うん……」
むしろ、会社で仕事をしているときは、何も考えずに済んでいる。
多紀くんを見ていると、好きで辛い。俺ばっかり好きなんだ。どれほど望んでも、そこは変えられない。贅沢な悩みだと思う。好きになってくれただけでも奇跡なのに。
せっかく作り上げた多紀くんのささやかな好きが、どこかに行ってしまう。ちゃんと握っておかないと飛んでいってしまう風船みたいな軽さなのに。
消えてしまう。失われてしまう。損なわれてしまう。
あるのかないのかわからないツチノコみたいな幻の生き物レベルの存在なのに。
「自分の体、大事にしてくださいね。何かあったら遠慮なく言ってください。俺、助けにいきますからね!」
そんな嬉しそうな顔しないで。心配そうなのになんだかふわふわしている。俺を見ているのに、別のひとを見ているような遠い眼差しをしている。
見ていると辛いよ。気づいていないと思っているの?
多紀くんの会社が入っているビルの前で、いつもどおりのばいばい。
「じゃあ、がんばりすぎないようにしてくださいね」
「うん。ありがとう。多紀くんもね」
「俺は大丈夫です!」
元気そう。そっか。
もし初恋のX氏が、仕事の関係とか、同じビルならば、会社に行くのは楽しいに決まっている。弾むような足取りにも納得がいく。
「でもできるだけ残業とかせずに、真っ直ぐ帰りますんで!」
「うん……」
そんな多紀くんの言葉は嬉しいはずなのに。
素直に喜べないんだ。
多紀くんの背中が遠ざかっていく。あ、後頭部の髪の毛が少しはねてる。可愛い。苦しい。
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