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番外編13 リクエストなどなど
初恋小話 後編 同期会(和臣視点)*
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「初恋っていつだった?」
葉子が言った。
午後八時、多国籍料理の店。
人数は少なく、六人。
各々、初恋は、幼稚園だったり、小学生だったり。
俺は多紀くん。高校三年生。
遅いのかも。
でも、幼い頃から男も女も押し寄せてきて、逃げ回っていたから、誰かを好きになる日が来たこと自体が奇跡的というか。
葉子は笑って言った。
「和臣は相田くんって顔してるねー?」
「もちろん、そうだよ」
みんな笑っている。
笑い話じゃないよ?
「それまでは誰のことも好きにならなかったの? なんで?」
「……人間関係は、嫌なことが多くて……」
「あー、納得」
「むかしから、近所で有名だったんだ、俺。母親譲りの美少女」
みなさん苦笑。ギャグみたいではあるけど。真実だよ。
「一人で歩くとすぐ不審者に声かけられて。父母とお手伝いさんと兄二人が交代で登下校の付き添いをしてくれて」
単独行動は極力少なくなるようにされていたな。守られていた。今にして思えば親の気持ちのほうがわかるが、幼心には、窮屈に感じることもあった。兄たちもよく付き合ってくれたものだ。
のんちゃんには、父母や瑞穂さんや兄たちを独占してずるいと言われたなぁ。その気持ちも、いまとなってはよくわかる。
自分のことを構ってほしいのに、自分のことを見てくれないの、悲しいよね。俺にとっての多紀くんの話。
たまには一人で出掛けたいという希望は、小学校高学年になるまで、叶わなかったな。
「あー、わかる。『お嬢ちゃん、あそこのおうちの子?』って近づいて来られたこと何度かある」
「葉子の家、会社経営だもんね」
葉子は、生まれは芦屋のお嬢様。ずいぶんパワフルに育ったものだ。
「創業社長だからねぇ」
「誰も信用できなくなる時期、あるよね」
「あるある」
みな一様に頷いている。
同期会の結束が強いのは、みな似たりよったりの家庭環境だからだ。
医者弁護士官僚投資家実業家、外交官なども。サラリーマンであったとしても、銀行や、とにかく裕福なご家庭の子女ばかり。
境遇が似ていて、話が合う。
「誘拐されそうになったよ。捕まったけど。誘拐って成功する確率低いのにね」
「あるある。リスク高いよね」
「知り合いだからって油断できないし」
嫌なことを思い出した。
「わかる。小六のとき、家庭教師に襲われかけた」
「あー、ありそう」
大学生の家庭教師。
中学受験のころ。夏休みにいつものように勉強をみてもらっていたら、半ズボンの膝を撫でてきた。何度か繰り返されて、そのうち脱がされそうになった。
そのころにはすでに、そういう人種がいることを知っていた。大人は汚くて醜く、反吐が出ると思っていた。だが子どもも残酷だ。
クラスメートの男子に女子みたいだといじめられるとき、イタズラをされかけたこともある。
俺の人間嫌いは幼少の頃からだが、第二次性徴期のころに拍車がかかった気がする。
太郎兄さんに相談したら、お父さんに相談されて、被害届を出されたんだった。あれも辛かったな。
太郎兄さんはあのときに検察に憧れるようになって目指すことにしたらしいけど。
そして俺は他人のことを批判できない身の上。
「いろいろあっただろうけど、初恋が叶ってよかったねぇ」
皆様にやにやしている。
俺サマは恥も外聞もないので、当然素直に受け取っておく。
「うん。俺の外見や経歴なんかの、俺の上っ面の部分に興味がなくて、嫉妬も羨望もなかった多紀くんが、新鮮だったのかもしれないな……」
「こっちが恥ずかしいじゃん」
「のろけやがって」
「なにげに外見と経歴自慢だろ」
「今日おごれよ」
俺は拒否。
「割り勘に決まってるでしょ」
多紀くんの話題になると多紀くんに猛烈に会いたくなる。いつも会いたいけど。
多紀くん、今頃なにしているんだろう。倉本と紗英さんと飲むって言ってたっけ。
楽しいのかな。俺の悪口言ってないかな。いかにも俺へのヘイトを溜めていそうなメンバーだな。
多紀くんに会いたいなぁ。位置情報は倉本の家。
一緒になって悪口を言ってるようならお仕置きしたいな……。
帰ったら問い詰めよう。
「そういえば紗英さん、諦めてくれてよかったねぇ」
「本当に」
「そんな紗英さんの噂、知ってる?」
葉子が言った。
「え、なに?」
なんだろう。俺は知らない。
「相田くんが現れてからかな。仕事に邁進しすぎて、成功して、今度、子会社の役員になるらしいよ」
俺はちょっと笑ってしまった。本人は望んでいなさそう。
同期たちは紗英さんの話題で好き勝手喋っている。
「紗英様、幸せな花嫁が夢なんじゃなかったっけ」
「それはまだ諦めてないみたい」
「いい人がいるといいのにねぇ」
「選り好みしてるわけじゃなさそうなのに」
「ほら、紗英様、倉本と仲良いじゃん? 意識してないのかなーって話題ふったら『ヒロちゃんは嫌いじゃないけど、わたしより仕事ができなさそうで嫌なんです』ってきっぱり言ってた」
「さすがデキる女。よくわかってる。倉本、仕事イマイチだもんね」
「このあいだ作らせた表、数字、一列ズレてたわ。新卒でもしねぇよ、あんな凡ミス」
「悪いやつじゃないんだけど、雑だな」
「あいつ一回締めたほうがいいと思う」
その後、同期会は倉本の不出来に困らされた愚痴大会となった。
<初恋小話 終わり>
葉子が言った。
午後八時、多国籍料理の店。
人数は少なく、六人。
各々、初恋は、幼稚園だったり、小学生だったり。
俺は多紀くん。高校三年生。
遅いのかも。
でも、幼い頃から男も女も押し寄せてきて、逃げ回っていたから、誰かを好きになる日が来たこと自体が奇跡的というか。
葉子は笑って言った。
「和臣は相田くんって顔してるねー?」
「もちろん、そうだよ」
みんな笑っている。
笑い話じゃないよ?
「それまでは誰のことも好きにならなかったの? なんで?」
「……人間関係は、嫌なことが多くて……」
「あー、納得」
「むかしから、近所で有名だったんだ、俺。母親譲りの美少女」
みなさん苦笑。ギャグみたいではあるけど。真実だよ。
「一人で歩くとすぐ不審者に声かけられて。父母とお手伝いさんと兄二人が交代で登下校の付き添いをしてくれて」
単独行動は極力少なくなるようにされていたな。守られていた。今にして思えば親の気持ちのほうがわかるが、幼心には、窮屈に感じることもあった。兄たちもよく付き合ってくれたものだ。
のんちゃんには、父母や瑞穂さんや兄たちを独占してずるいと言われたなぁ。その気持ちも、いまとなってはよくわかる。
自分のことを構ってほしいのに、自分のことを見てくれないの、悲しいよね。俺にとっての多紀くんの話。
たまには一人で出掛けたいという希望は、小学校高学年になるまで、叶わなかったな。
「あー、わかる。『お嬢ちゃん、あそこのおうちの子?』って近づいて来られたこと何度かある」
「葉子の家、会社経営だもんね」
葉子は、生まれは芦屋のお嬢様。ずいぶんパワフルに育ったものだ。
「創業社長だからねぇ」
「誰も信用できなくなる時期、あるよね」
「あるある」
みな一様に頷いている。
同期会の結束が強いのは、みな似たりよったりの家庭環境だからだ。
医者弁護士官僚投資家実業家、外交官なども。サラリーマンであったとしても、銀行や、とにかく裕福なご家庭の子女ばかり。
境遇が似ていて、話が合う。
「誘拐されそうになったよ。捕まったけど。誘拐って成功する確率低いのにね」
「あるある。リスク高いよね」
「知り合いだからって油断できないし」
嫌なことを思い出した。
「わかる。小六のとき、家庭教師に襲われかけた」
「あー、ありそう」
大学生の家庭教師。
中学受験のころ。夏休みにいつものように勉強をみてもらっていたら、半ズボンの膝を撫でてきた。何度か繰り返されて、そのうち脱がされそうになった。
そのころにはすでに、そういう人種がいることを知っていた。大人は汚くて醜く、反吐が出ると思っていた。だが子どもも残酷だ。
クラスメートの男子に女子みたいだといじめられるとき、イタズラをされかけたこともある。
俺の人間嫌いは幼少の頃からだが、第二次性徴期のころに拍車がかかった気がする。
太郎兄さんに相談したら、お父さんに相談されて、被害届を出されたんだった。あれも辛かったな。
太郎兄さんはあのときに検察に憧れるようになって目指すことにしたらしいけど。
そして俺は他人のことを批判できない身の上。
「いろいろあっただろうけど、初恋が叶ってよかったねぇ」
皆様にやにやしている。
俺サマは恥も外聞もないので、当然素直に受け取っておく。
「うん。俺の外見や経歴なんかの、俺の上っ面の部分に興味がなくて、嫉妬も羨望もなかった多紀くんが、新鮮だったのかもしれないな……」
「こっちが恥ずかしいじゃん」
「のろけやがって」
「なにげに外見と経歴自慢だろ」
「今日おごれよ」
俺は拒否。
「割り勘に決まってるでしょ」
多紀くんの話題になると多紀くんに猛烈に会いたくなる。いつも会いたいけど。
多紀くん、今頃なにしているんだろう。倉本と紗英さんと飲むって言ってたっけ。
楽しいのかな。俺の悪口言ってないかな。いかにも俺へのヘイトを溜めていそうなメンバーだな。
多紀くんに会いたいなぁ。位置情報は倉本の家。
一緒になって悪口を言ってるようならお仕置きしたいな……。
帰ったら問い詰めよう。
「そういえば紗英さん、諦めてくれてよかったねぇ」
「本当に」
「そんな紗英さんの噂、知ってる?」
葉子が言った。
「え、なに?」
なんだろう。俺は知らない。
「相田くんが現れてからかな。仕事に邁進しすぎて、成功して、今度、子会社の役員になるらしいよ」
俺はちょっと笑ってしまった。本人は望んでいなさそう。
同期たちは紗英さんの話題で好き勝手喋っている。
「紗英様、幸せな花嫁が夢なんじゃなかったっけ」
「それはまだ諦めてないみたい」
「いい人がいるといいのにねぇ」
「選り好みしてるわけじゃなさそうなのに」
「ほら、紗英様、倉本と仲良いじゃん? 意識してないのかなーって話題ふったら『ヒロちゃんは嫌いじゃないけど、わたしより仕事ができなさそうで嫌なんです』ってきっぱり言ってた」
「さすがデキる女。よくわかってる。倉本、仕事イマイチだもんね」
「このあいだ作らせた表、数字、一列ズレてたわ。新卒でもしねぇよ、あんな凡ミス」
「悪いやつじゃないんだけど、雑だな」
「あいつ一回締めたほうがいいと思う」
その後、同期会は倉本の不出来に困らされた愚痴大会となった。
<初恋小話 終わり>
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