エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
上 下
279 / 366
番外編14 ある新婚生活

五 帰宅

しおりを挟む
 だが、和臣さんは疲労とフライトで眠かったみたいで、自宅マンションに帰ってきたら俺にちゅーちゅーしつつ上着を脱いでネクタイをほどいてソファでうとうとしてすぐ寝ちゃって、俺は、すやすやと安心しきった寝顔の頬に唇を寄せてみる。
 疲れた顔してる。疲れてても美形。少し痩せたな。ちゃんと食べていたのかな。食べられなかったのかな。おなか壊さなかったかな。水は大丈夫だったのかな。
 無事でよかった。海外大変だ。俺の前では甘えんぼで、仕事の話は殆ど口にしないけれど、一回やめた会社にさらに好条件で再就職するんだから、活躍してるんだろうなぁ。
 寝ているうちに、俺にできることをしておいてあげよう。そう思い立ち、和臣さんに上掛けをかけて、持ち帰ったスーツケースを開けて片付け。
 開けると、必要最小限の和臣さんの衣類、そして抱きまくらカバー(俺)が入っていた。連れていったのか。本物じゃないほうはこれのことか。なるほど。
 あと出発前日、洗濯機に入れたはずなのになぜかなくなっていた俺の使用済みワイシャツ。許可なし。頼むからやめて。
 ベトナム土産がみっちり詰まってる。ドライフルーツやチョコなどのお菓子とプリントのTシャツ。なぜか新品のアオザイも。広げるとなんとなく俺サイズ。まさか着せる気だろうか。ちゃんと仕事してたのだろうか。
 一通り片付けてソファの下に座り込んで、和臣さんの寝息に耳をそばだてつつ本を読むなどして寛いでいたら、腕が伸びてきて絡め取られて、上掛けの中に引きずりこまれた。

「多紀くん……ねぇ、だいすき……」

 寝ぼけてる声。一週間ぶりの体温に、俺のそばで安心しきってあどけない寝顔。
 さらさらの髪に指を通してみる。

「和臣さん。……寂しかった」
「ん……あ、ごめん。寝てた」

 と、そこで起きた。
 手のひらで顔を拭いてる。

「ごめん、どのくらい経った?」
「一時間くらいです」

 引きずりこんだ俺をすっぽり抱きながら、にこにことご機嫌。

「多紀くんの夢見た。えへへ。多紀くんがベトナムまで迎えに来てくれる夢。ホーチミンで街歩きデート。コムタムとチェーを食べて、仲良く手を繋いで帰るんだ」
「こんな心配ばっかりかけて、迎えになんて行きません。ちゃんと自分の足で帰ってきてください」
「あっは。拗ねてるの可愛くてどうしよう。ねぇ、顔見せて」
「やです」
「ほら、見せて。俺の目を見て。多紀くん、ごめんね。スマホ水没したのも、連絡手段がなかったのも俺の都合で、多紀くんに悪いことしたね」

 謝ってるみたいだから、仕方ないな。
 でもさ、恋人だったときに離れていたのと違って、ずっと一緒にいるはずなのにいなくなるのは、ぽっかりしてしまうんだ。仕事だってわかっているし、泣きたくなったりとかはないけど。和臣さん、存在感ありすぎなんだよ。

「……仙台のときみたいに事故じゃなくてよかったです」
「心配してくれてありがとう」

 俺の後頭部を覆うような大きな手のひら。後ろ髪をかき混ぜて、襟足を撫でてる。指先が時々首筋に優しく触れる。肌が粟立つみたいな感触。

「っ……」

 そんなすりすりされたり、猛獣じみた瞳で見つめられると、体が疼いてくる。腕に捕まってて、逃れられない。
 ひっそりとした声。

「多紀くん、準備してきて?」

 俺は答えた。

「……してあります」

 和臣さんは、喰う気満々。
 膝で俺の股間をぐりぐりして、意地悪してくる。

「っ……や」
「……甘やかしたいけど、優しくはできそうにないや」

 すぐに上になって、俺に覆いかぶさってきた。
 こらえきれなさそうな、本性丸出しの、低くかすれるエロ声で囁いてくる。

「多紀くん。『寂しかった』は?」
「……」
「ふふ。さっき、聞こえてたよ?」
「!」
「ほら、もう一回」
「……寂しかった」

 和臣さんの瞳の色が、表情が変わる。この目に見つめられると俺は動けなくなる。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...