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番外編14 ある新婚生活
三 水没
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だが、現地に到着したころからは、何時間経っても、丸一日経っても連絡がない。忙しいのかな。
二日経っても連絡がなくて、不安になってニュースをみるけれど、ベトナムで邦人に何かあったっていうニュースはなくて、ほっとするような、じゃあ何なんだろうというような。
電話は繋がらない。メッセージも既読にならない。
わざと連絡しないってことは、バンコクのときにもあったけど、もうああいうことはしないって言ってたんだ。空港に行くときに返事をしなかったことの意趣返しは考えづらい。なにより、俺よりも和臣さんのほうが我慢できないもん。
だから仙台のときを思い出してしまう。あのときは運良く妹さんがいたけれど、今回は手の打ちようがない。一応、何かあったら会社から連絡が来るだろうとは思うんだけど……。
三日目も連絡がなくて、俺は気もそぞろになって、仕事中も考えてしまって、様子がおかしいと言われたり。
「相田くん、どないしたん?」
四日目。
ついに西さんに訊ねられた。
頼まれた資料の印刷、設定を間違って、資料の100ページ目だけを刷るつもりが、100ページある資料を100部刷ろうとし、しかもぼーっとしていて複合機が用紙切れになるまで気づかなかった。
やっちゃった。200枚は刷ったなこれ。
俺は頭をさげて平謝り。
「たいへん申し訳ありません」
「責任とって裏紙にでもして。んで、何か気になるなら言いなはれ」
プライベートのことだし言うのは躊躇われる。だが西さんは和臣さんとの共通の知り合いで、結婚パーティーでは仲人みたく挨拶してくれたし、俺は現在、和臣さんの音信不通で判断能力が鈍っているし、説明するしかない。
「その、小野寺が……海外出張してまして、四日も連絡取れなくて……ベトナムなんですが、な、何かあったんじゃないかと……」
「…………気になるなら、会社の人間に訊けばええやん。葉子でも倉本でも。仲ええんやろ?」
「それも時期尚早かと……」
西さんは呆れたようにスマホで電話をかけ始めた。
「本人は電波が届かんところにおるな」
「はい……」
そしてふたたび連絡してる。
「井上ー? 小野寺出張中? なんや連絡とれへん。あっそ。おおきに。ほな」
と、誰かに聞いて、切った。
そして言った。
「小野寺、ベトナムでスマホ水没やて」
俺は両手で顔を覆った。
もう! ドジ!
はぁ、脱力。
「すみません……」
「貸しイチ作ってしもたから俺の分含めて貸しニィやで」
「さっきの電話のかたですね」
「俺の同期で法務部の次長」
「大変、大変なご迷惑を……」
「わかったから。仕事して」
「はい……」
一連のやり取りを聞いていたオフィス内のひとたちにくすくす笑われちゃってさ。
「相田主任、心配性なんですね」
「奥様、愛されてて羨ましい」
西さんは不満そうにしている。
「俺としては、なんや、とんでもないノロケ聞かされとる気分なんやわ……。四日連絡取れへんかったら心配なんはわからんでもないけど、あいつの海外出張なんて、今に始まったことちゃうやん……圏外のエリアも多いしさぁ。付き合ってたときもあったやろ?」
「すみません……仕事に集中してるんで……」
二日経っても連絡がなくて、不安になってニュースをみるけれど、ベトナムで邦人に何かあったっていうニュースはなくて、ほっとするような、じゃあ何なんだろうというような。
電話は繋がらない。メッセージも既読にならない。
わざと連絡しないってことは、バンコクのときにもあったけど、もうああいうことはしないって言ってたんだ。空港に行くときに返事をしなかったことの意趣返しは考えづらい。なにより、俺よりも和臣さんのほうが我慢できないもん。
だから仙台のときを思い出してしまう。あのときは運良く妹さんがいたけれど、今回は手の打ちようがない。一応、何かあったら会社から連絡が来るだろうとは思うんだけど……。
三日目も連絡がなくて、俺は気もそぞろになって、仕事中も考えてしまって、様子がおかしいと言われたり。
「相田くん、どないしたん?」
四日目。
ついに西さんに訊ねられた。
頼まれた資料の印刷、設定を間違って、資料の100ページ目だけを刷るつもりが、100ページある資料を100部刷ろうとし、しかもぼーっとしていて複合機が用紙切れになるまで気づかなかった。
やっちゃった。200枚は刷ったなこれ。
俺は頭をさげて平謝り。
「たいへん申し訳ありません」
「責任とって裏紙にでもして。んで、何か気になるなら言いなはれ」
プライベートのことだし言うのは躊躇われる。だが西さんは和臣さんとの共通の知り合いで、結婚パーティーでは仲人みたく挨拶してくれたし、俺は現在、和臣さんの音信不通で判断能力が鈍っているし、説明するしかない。
「その、小野寺が……海外出張してまして、四日も連絡取れなくて……ベトナムなんですが、な、何かあったんじゃないかと……」
「…………気になるなら、会社の人間に訊けばええやん。葉子でも倉本でも。仲ええんやろ?」
「それも時期尚早かと……」
西さんは呆れたようにスマホで電話をかけ始めた。
「本人は電波が届かんところにおるな」
「はい……」
そしてふたたび連絡してる。
「井上ー? 小野寺出張中? なんや連絡とれへん。あっそ。おおきに。ほな」
と、誰かに聞いて、切った。
そして言った。
「小野寺、ベトナムでスマホ水没やて」
俺は両手で顔を覆った。
もう! ドジ!
はぁ、脱力。
「すみません……」
「貸しイチ作ってしもたから俺の分含めて貸しニィやで」
「さっきの電話のかたですね」
「俺の同期で法務部の次長」
「大変、大変なご迷惑を……」
「わかったから。仕事して」
「はい……」
一連のやり取りを聞いていたオフィス内のひとたちにくすくす笑われちゃってさ。
「相田主任、心配性なんですね」
「奥様、愛されてて羨ましい」
西さんは不満そうにしている。
「俺としては、なんや、とんでもないノロケ聞かされとる気分なんやわ……。四日連絡取れへんかったら心配なんはわからんでもないけど、あいつの海外出張なんて、今に始まったことちゃうやん……圏外のエリアも多いしさぁ。付き合ってたときもあったやろ?」
「すみません……仕事に集中してるんで……」
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