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5 ある何の変哲もない日常(和臣視点)
六 観覧車
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観覧車の真下までやってきた。
ゴンドラに二人で乗って、向かい合って掛ける。少しずつあがっていく。
雨上がりの街を一望。
街を眺める多紀くんの横顔。きらきらしている瞳。
一生眺めていたい。
上のほうにいくと、両隣のカップルがキスしているのが見える。そろそろてっぺんか。
多紀くん、そわそわしてる。
可愛い。
「あの、しないんですか?」
「したいけど、してもいい?」
お外でのキスは許可制。
多紀くんは、はにかんでいる。可愛い。
「はい」
言い終わる前に前のめりになって、多紀くんの唇に重ねる。
目を閉じて、触れ合うだけのキス。多紀くんの体温。
多紀くんの頬に手を添える。
指輪をして、手を繋いで散歩して、将来の話しをして、こんなキスをして、永遠を誓うみたいに。
ご褒美みたいな日。
夢じゃないかな。もう夢オチでもいいよ。
目を開けたらてっぺんは過ぎていた。両隣のカップルがこちらを見ている。視線がうるさい。
唇が離れる。名残惜しいな。
この距離で見つめ合っていたいのに。
ちゃんと着席。膝が触れ合う距離にいても、まだ遠い。
「多紀くん。観覧車、好きなの?」
「え、わからないです。あ、でも、景色よくていいですよね。なにぶん初めてで」
「初めてだったんだ」
多紀くんの初めて。
胸が熱くなる。
「恋人と来るって憧れますよね」
「そうだね」
俺は多紀くんと来たかった。
でも、多紀くんがかつて憧れた恋人は、俺ではなくて、ふつうの女の子。
きっと多紀くんに似た雰囲気の子で、ごくふつうに恋人同士になって、手を繋いでいても、観覧車に乗っても、キスをしても、誰にも好奇の目を向けられない。
デートをして、何年か順調に付き合って皆に祝福される結婚式を挙げて、郊外に戸建てを買って子どもが生まれて、生活にゆとりができたら犬を飼って、それはそれは穏やかに生きていく、そんな幸せな未来。
捻じ曲げるように運命を変えてしまった。
多紀くんの隣にいていいのか不安になるのは、俺のほうだよ。
君を手放せない。だから考えないようにしているだけ。
幸せを願って身を引くなんて、できない。
多紀くんの幸せを思えばそうしたほうがいいと思ってる。でもできない。
どうしても、なんとしてでも、俺が、君といたい。
ごめんね。
「和臣さん」
呼ばれて顔を上げると、多紀くんの両腕が伸びてきて、俺の頬を包んでいる。
ふたたび、唇が触れた。
「もうすぐですよ」
いつの間にか、降り口に近づいてきていた。
「あ……」
係員が出迎えるように寄ってきて、外側の鍵を開けてドアを開ける。
地面に降りて出口に歩いていく途中、隣の多紀くんはふたたび手を繋いできた。
思わず多紀くんを見ると、恥ずかしそうに俯いている。
「観覧車、乗れてよかったですねぇ」
「楽しかった?」
「はい!」
可愛い。
顔を赤らめて、指先をいじるように繋いでいる。
俺は背も高くて目立つ。注目を集めやすい。多紀くんはそれをわかっているのに。
俺だけを見上げて、微笑んでいる。
胸が苦しい。
ゴンドラに二人で乗って、向かい合って掛ける。少しずつあがっていく。
雨上がりの街を一望。
街を眺める多紀くんの横顔。きらきらしている瞳。
一生眺めていたい。
上のほうにいくと、両隣のカップルがキスしているのが見える。そろそろてっぺんか。
多紀くん、そわそわしてる。
可愛い。
「あの、しないんですか?」
「したいけど、してもいい?」
お外でのキスは許可制。
多紀くんは、はにかんでいる。可愛い。
「はい」
言い終わる前に前のめりになって、多紀くんの唇に重ねる。
目を閉じて、触れ合うだけのキス。多紀くんの体温。
多紀くんの頬に手を添える。
指輪をして、手を繋いで散歩して、将来の話しをして、こんなキスをして、永遠を誓うみたいに。
ご褒美みたいな日。
夢じゃないかな。もう夢オチでもいいよ。
目を開けたらてっぺんは過ぎていた。両隣のカップルがこちらを見ている。視線がうるさい。
唇が離れる。名残惜しいな。
この距離で見つめ合っていたいのに。
ちゃんと着席。膝が触れ合う距離にいても、まだ遠い。
「多紀くん。観覧車、好きなの?」
「え、わからないです。あ、でも、景色よくていいですよね。なにぶん初めてで」
「初めてだったんだ」
多紀くんの初めて。
胸が熱くなる。
「恋人と来るって憧れますよね」
「そうだね」
俺は多紀くんと来たかった。
でも、多紀くんがかつて憧れた恋人は、俺ではなくて、ふつうの女の子。
きっと多紀くんに似た雰囲気の子で、ごくふつうに恋人同士になって、手を繋いでいても、観覧車に乗っても、キスをしても、誰にも好奇の目を向けられない。
デートをして、何年か順調に付き合って皆に祝福される結婚式を挙げて、郊外に戸建てを買って子どもが生まれて、生活にゆとりができたら犬を飼って、それはそれは穏やかに生きていく、そんな幸せな未来。
捻じ曲げるように運命を変えてしまった。
多紀くんの隣にいていいのか不安になるのは、俺のほうだよ。
君を手放せない。だから考えないようにしているだけ。
幸せを願って身を引くなんて、できない。
多紀くんの幸せを思えばそうしたほうがいいと思ってる。でもできない。
どうしても、なんとしてでも、俺が、君といたい。
ごめんね。
「和臣さん」
呼ばれて顔を上げると、多紀くんの両腕が伸びてきて、俺の頬を包んでいる。
ふたたび、唇が触れた。
「もうすぐですよ」
いつの間にか、降り口に近づいてきていた。
「あ……」
係員が出迎えるように寄ってきて、外側の鍵を開けてドアを開ける。
地面に降りて出口に歩いていく途中、隣の多紀くんはふたたび手を繋いできた。
思わず多紀くんを見ると、恥ずかしそうに俯いている。
「観覧車、乗れてよかったですねぇ」
「楽しかった?」
「はい!」
可愛い。
顔を赤らめて、指先をいじるように繋いでいる。
俺は背も高くて目立つ。注目を集めやすい。多紀くんはそれをわかっているのに。
俺だけを見上げて、微笑んでいる。
胸が苦しい。
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