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5 ある何の変哲もない日常(和臣視点)

一 お風呂

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 九月下旬、金曜日。
 午後八時。
 土砂降りの中、なんとか和光から帰ってきた。ふだんは寮で、週末に帰ってきている。
 風も強くて横殴りの雨に傘は役立たず。全身びしょびしょの濡れネズミ。

「ただいまー」

 多紀くん、仕事から帰ってきているはず。位置情報確認済。自宅。
 あ、お風呂場で音がする。シャワーを浴びているのかな。
 革靴を脱いで靴下を脱いで廊下にあがり、濡れそぼった革靴に新聞紙を詰めて立てかける。多紀くんも、教えたとおりにしている。感心感心。
 脱衣所に入って、スーツを脱いで掛けてタオルで拭う。多紀くんもスーツをかけてあるので、隣に。ふふふ。
 ふとシャワーの音がやんで、浴室の扉が細く開いた。湯気が漂ってあたたかい。

「おかえりなさい。すごい雨ですね」

 隙間から覗く多紀くんの裸。
 多紀くんは意識していないだろうが、俺は多紀くんの裸体を見ると欲情する。
 ほんのり赤く火照った肌がしっとり濡れて、水滴を弾いている様子に、ベッドの上で汗だくになり、あらぬ声をあげて達する瞬間を否応なく思い出す。
 勃ちそう。

「多紀くんもおかえり、寒かったねー」
「お湯入れたんで、すぐ入ってください」

 湯船にはお湯が張ってある。
 多紀くんとお風呂に入る絶好の機会。お風呂は基本別々なんだよね。

「うん。多紀くん、先に浸かっておいて。俺シャワー浴びるね」
「はぁい」

 可愛い可愛い可愛い可愛い。
 多紀くんの間延びした、俺以外には使わない「はぁい」が可愛い。
 多紀くんは湯船に浸かり、俺はシャワーを浴びる。髪と体を洗って流すと、多紀くんは立ち上がろうとした。

「ごはん用意しておきますねー」
「多紀くん、待って。一緒に浸かりたい」
「浴槽が悲鳴をあげちゃいますよ」
「ちょっとだけ。ギリいけると思うんだよね」

 多紀くんに一回出てもらって、まず俺が入る。俺の両足の間に、多紀くんは体育座り。
 お湯が溢れて、半分以下になりそうなほど流れていって、多紀くんは苦笑。
 俺はこの密着度に満足しきり。多紀くんの薄い背中をぴったり抱いて、うなじに唇を寄せたり、耳の裏をくんくんしたり。

「和臣さん、狭いですよ」
「苦しい?」
「いえ、動けないだけ」

 多紀くんの身動きがとれないなんて、目的達成以外の何ものでもない。

「この体勢、最高……」
「大きくなってるし」
「どれどれ」
「俺じゃなくてっ、和臣さんっ」

 でも俺が腕を回して多紀くんの股間をまさぐると、多紀くんも少し勃っている。俺ほどじゃないけど。

「多紀くんもでしょ」
「だって、和臣さんが勃ってるから」

 唇を尖らせちゃってさ。言い訳がましくて可愛い……。
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