エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
上 下
201 / 366
4 ある夏のふたり

八 このあとの予定

しおりを挟む
 部室棟までやってきた。
 ありがたいことに開放されていて、和臣さんと一緒に、ランドリー室に入る。
 誰もいない。
 洗濯機数台と乾燥機数台と待ち用のベンチが置いてある小さい部屋。
 むかし入ったことあるな。

「そうだ、ここで乾かしたんでしたねー」
「ジャージとシャツね。ほら、あの卒アルの集合写真の直後」
「細かいこと覚えてないんですが」
「多紀くん、寝てたもん」
「和臣さん、よく覚えてますね」
「多紀くんとの思い出だから……」

 肌着も濡れているので、お互いにワイシャツと肌着を脱いで、乾燥機に放り込んだ。半裸だけど、ここは冷房が効いていなくて暑いな。
 冷房をつけて待っていると、狭い部屋はすぐに涼しくなってくる。

「風邪引かないようにしないとです」
「うん」

 ふたりきりで、ベンチに並んで掛けたのをいいことに、くっついていって、どちらともなく目を閉じて口づけた。
 そっと唇を重ねるだけ。
 体温に触れた瞬間、俺は思い知る。
 どれだけひとりに慣れたと思っても、ふたりに戻ってしまう。
 このキスが好きで、和臣さんが好きで、こうしていることが気持ちいいのだと。
 だからひとりはいやだ。ふたりがいい。
 ふたりでいるためになら、なんでもする。だからふたりがいい。
 一センチの距離で、俺は訊ねた。

「……明日、お休みですよね」
「うん」

 貪るようなキスも、絡まり合うみたいにお互いを抱くことも、なにもかも、俺にだって必要なことだ。
 額を合わせたり、鼻先を触れたり、また唇をついばんだり。寒くならないように、お互いに手のひらで相手の素肌を撫でる。

「何か予定ありますか?」
「何もないよ」
「今日は、これからの予定は?」

 壁掛け時計は午後二時を示している。

「いまの理事長が『あとで、うちの家族と軽くお茶でも』って。うちの母の再従兄弟なんだ。距離が離れているから、あまり交流はなかったんだけど、俺のことですごく喜んでくれて」
「よかったですね」
「お世話になったから、挨拶するつもり。それが終わったら何もない。友人関係は、後日あらためての予定」
「そうなんですか」
「今日にすると、飛び込みの女性ばかりになっちゃうから。気をきかせてくれた」

 俺は失礼にも、和臣さんにも友達がいてよかったな、などと思う。友達の話ってぜんぜん聞かないもんね。ちょっとくらい旧交をあたためるほうがいいよ。

「多紀くんは、この後の予定は?」
「飲み会があるみたいなんですけど、いつもの友達グループはいないので、俺もいいかなって。雰囲気が合うひととはさっき大分しゃべって、連絡先も交換しましたし、どうせあんなの、戻れないし」
「そっか」

 家に帰って勉強したいしね。
 三十目前だと飲み会もけっこう辛いんだな。
 俺は訊ねた。
 本題。

「今夜、帰ってきませんか?」
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...