198 / 366
4 ある夏のふたり
五 体調が悪い
しおりを挟む
八月。お盆休み。
高校の多目的ホールと講堂を使っての合同の同窓会。
参加している卒業生は多いけれど、大混雑というほどではなく、軽食にありつけるし、同期でテーブルに集まって雑談したり。
ふだん会うような友達は参加不参加がまばらだけど、当時はあまり話さなかった元クラスメートや別のクラスのひとと会話したり。思いがけず盛り上がったり。
しかしもっぱら話題の中心は、先ほど壇上で、活躍している卒業生として挨拶していた、二学年上の男。
相変わらずきらきらしてる上に、スーツも新調していて、ライトグレーのサマースーツにベストとネクタイまでしてる。洒落てる。髪を切ったばかりらしく、完成形。
いまは壇上のそばのテーブルで、上の世代の卒業生や先生方に囲まれている。あそこだけ華やか。
サンドイッチを頬張っていると、誰かが呟いた。
「小野寺先輩、相変わらずイケメン……」
「あれで弁護士って。天から何物与えられているんだよ。活躍しすぎだろ」
「左手の薬指、指輪してるね。結婚してるんだ」
結婚はしてないけど、予防線。今日会場入りするときに和臣さんが指輪をしているのを遠目に見かけて、俺は指輪を外しておいた。
「先輩になりたいとはいわない。嫁になりたい」
「嫁が一番の勝ち組じゃん」
男性陣は笑い話。
女性陣はガン見でこそこそ話。
「もし誘われたら行っちゃうね」
「あり」
「旦那いらない。子どもは連れてくけど」
なんの算段だよ。やめろよ。誘われることはないし、あのひと俺しか見てないよ。狙われすぎで困るよ。
だけど、誰も気づかないのかな。あのひとの様子。
俺は言った。
「でも表情暗いね。体調悪いのかな」
痩せたな。
すると周囲の男女は不思議そう。
「そう? むかしからあんなのじゃなかったっけ?」
「笑ってるの見てびっくり」
「むかしは愛想笑いもなかったよねー」
あ、そっか。いまは愛想笑いしてるけど、前後の世代にとって和臣さんは笑わない人だな。
笑うことを知っているのは、俺だけだったのに。ちょっと残念。
一緒にいた時間が長かったから気づく。人見知りしているだけではなくて、たぶんお腹痛いとか、そういうこと。
緊張して、顔色悪くて、表情が強張ってる。笑ってるふりしてる。
見た目も経歴も、目立つし担ぎ上げられるような人間なのに、ぜんぜん目立ちたくなさそうだな。つらそう。
この時期だし、きっちりした服装だし、夏バテしてるのかも。
大丈夫かな……。
「気になるの?」
訊いてきたのは前川さん。
「え、いや……」
「小野寺先輩も時々こっち見てるね」
「ん……」
タイミングが合わないから、視線も合わない。だけど、こっちを見ているときがあることはなんとなくわかる。
「行ってきたら?」
困るよ。にやにやしちゃってさぁ……。俺たちの関係に気づいてる。他の人にバレたらどうしてくれるんだよ。
「そういや、森下って小野寺先輩と仲良かったんだったよな」
「一緒の委員会だったっけ」
「ほら、覚えてる? ファンクラブの会長に『森下はどこだ! 森下を出せ!』って教室に怒鳴り込まれたことなかった?」
「あったあった、懐かしいー!」
あったあった。上期の委員会決めの直後。教室で、なぜ貴様がと面罵されてさ。
「ファンクラブの会長どこだろ?」
「そんなん、小野寺先輩のテーブルに決まってるじゃん」
そっと見てみる。
いた。たしかに。
夜会巻きに派手なパーティードレス。けっこう美人なんだけど、性格は変わってなさそう。
小野寺のこと見すぎじゃん。
「森下、挨拶してきたら?」
「う、うん……」
「行ってら~」
俺は押し出されるみたいにテーブルを立って、やむなく和臣さんのほうへと歩いていく。
でもこんなの、嫌な予感しかしないじゃん。
高校の多目的ホールと講堂を使っての合同の同窓会。
参加している卒業生は多いけれど、大混雑というほどではなく、軽食にありつけるし、同期でテーブルに集まって雑談したり。
ふだん会うような友達は参加不参加がまばらだけど、当時はあまり話さなかった元クラスメートや別のクラスのひとと会話したり。思いがけず盛り上がったり。
しかしもっぱら話題の中心は、先ほど壇上で、活躍している卒業生として挨拶していた、二学年上の男。
相変わらずきらきらしてる上に、スーツも新調していて、ライトグレーのサマースーツにベストとネクタイまでしてる。洒落てる。髪を切ったばかりらしく、完成形。
いまは壇上のそばのテーブルで、上の世代の卒業生や先生方に囲まれている。あそこだけ華やか。
サンドイッチを頬張っていると、誰かが呟いた。
「小野寺先輩、相変わらずイケメン……」
「あれで弁護士って。天から何物与えられているんだよ。活躍しすぎだろ」
「左手の薬指、指輪してるね。結婚してるんだ」
結婚はしてないけど、予防線。今日会場入りするときに和臣さんが指輪をしているのを遠目に見かけて、俺は指輪を外しておいた。
「先輩になりたいとはいわない。嫁になりたい」
「嫁が一番の勝ち組じゃん」
男性陣は笑い話。
女性陣はガン見でこそこそ話。
「もし誘われたら行っちゃうね」
「あり」
「旦那いらない。子どもは連れてくけど」
なんの算段だよ。やめろよ。誘われることはないし、あのひと俺しか見てないよ。狙われすぎで困るよ。
だけど、誰も気づかないのかな。あのひとの様子。
俺は言った。
「でも表情暗いね。体調悪いのかな」
痩せたな。
すると周囲の男女は不思議そう。
「そう? むかしからあんなのじゃなかったっけ?」
「笑ってるの見てびっくり」
「むかしは愛想笑いもなかったよねー」
あ、そっか。いまは愛想笑いしてるけど、前後の世代にとって和臣さんは笑わない人だな。
笑うことを知っているのは、俺だけだったのに。ちょっと残念。
一緒にいた時間が長かったから気づく。人見知りしているだけではなくて、たぶんお腹痛いとか、そういうこと。
緊張して、顔色悪くて、表情が強張ってる。笑ってるふりしてる。
見た目も経歴も、目立つし担ぎ上げられるような人間なのに、ぜんぜん目立ちたくなさそうだな。つらそう。
この時期だし、きっちりした服装だし、夏バテしてるのかも。
大丈夫かな……。
「気になるの?」
訊いてきたのは前川さん。
「え、いや……」
「小野寺先輩も時々こっち見てるね」
「ん……」
タイミングが合わないから、視線も合わない。だけど、こっちを見ているときがあることはなんとなくわかる。
「行ってきたら?」
困るよ。にやにやしちゃってさぁ……。俺たちの関係に気づいてる。他の人にバレたらどうしてくれるんだよ。
「そういや、森下って小野寺先輩と仲良かったんだったよな」
「一緒の委員会だったっけ」
「ほら、覚えてる? ファンクラブの会長に『森下はどこだ! 森下を出せ!』って教室に怒鳴り込まれたことなかった?」
「あったあった、懐かしいー!」
あったあった。上期の委員会決めの直後。教室で、なぜ貴様がと面罵されてさ。
「ファンクラブの会長どこだろ?」
「そんなん、小野寺先輩のテーブルに決まってるじゃん」
そっと見てみる。
いた。たしかに。
夜会巻きに派手なパーティードレス。けっこう美人なんだけど、性格は変わってなさそう。
小野寺のこと見すぎじゃん。
「森下、挨拶してきたら?」
「う、うん……」
「行ってら~」
俺は押し出されるみたいにテーブルを立って、やむなく和臣さんのほうへと歩いていく。
でもこんなの、嫌な予感しかしないじゃん。
63
お気に入りに追加
1,986
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる