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4 ある夏のふたり

五 体調が悪い

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 八月。お盆休み。
 高校の多目的ホールと講堂を使っての合同の同窓会。
 参加している卒業生は多いけれど、大混雑というほどではなく、軽食にありつけるし、同期でテーブルに集まって雑談したり。
 ふだん会うような友達は参加不参加がまばらだけど、当時はあまり話さなかった元クラスメートや別のクラスのひとと会話したり。思いがけず盛り上がったり。
 しかしもっぱら話題の中心は、先ほど壇上で、活躍している卒業生として挨拶していた、二学年上の男。
 相変わらずきらきらしてる上に、スーツも新調していて、ライトグレーのサマースーツにベストとネクタイまでしてる。洒落てる。髪を切ったばかりらしく、完成形。
 いまは壇上のそばのテーブルで、上の世代の卒業生や先生方に囲まれている。あそこだけ華やか。
 サンドイッチを頬張っていると、誰かが呟いた。

「小野寺先輩、相変わらずイケメン……」
「あれで弁護士って。天から何物与えられているんだよ。活躍しすぎだろ」
「左手の薬指、指輪してるね。結婚してるんだ」

 結婚はしてないけど、予防線。今日会場入りするときに和臣さんが指輪をしているのを遠目に見かけて、俺は指輪を外しておいた。

「先輩になりたいとはいわない。嫁になりたい」
「嫁が一番の勝ち組じゃん」

 男性陣は笑い話。
 女性陣はガン見でこそこそ話。

「もし誘われたら行っちゃうね」
「あり」
「旦那いらない。子どもは連れてくけど」

 なんの算段だよ。やめろよ。誘われることはないし、あのひと俺しか見てないよ。狙われすぎで困るよ。
 だけど、誰も気づかないのかな。あのひとの様子。
 俺は言った。

「でも表情暗いね。体調悪いのかな」

 痩せたな。
 すると周囲の男女は不思議そう。

「そう? むかしからあんなのじゃなかったっけ?」
「笑ってるの見てびっくり」
「むかしは愛想笑いもなかったよねー」

 あ、そっか。いまは愛想笑いしてるけど、前後の世代にとって和臣さんは笑わない人だな。
 笑うことを知っているのは、俺だけだったのに。ちょっと残念。
 一緒にいた時間が長かったから気づく。人見知りしているだけではなくて、たぶんお腹痛いとか、そういうこと。
 緊張して、顔色悪くて、表情が強張ってる。笑ってるふりしてる。
 見た目も経歴も、目立つし担ぎ上げられるような人間なのに、ぜんぜん目立ちたくなさそうだな。つらそう。
 この時期だし、きっちりした服装だし、夏バテしてるのかも。
 大丈夫かな……。

「気になるの?」

 訊いてきたのは前川さん。

「え、いや……」
「小野寺先輩も時々こっち見てるね」
「ん……」

 タイミングが合わないから、視線も合わない。だけど、こっちを見ているときがあることはなんとなくわかる。

「行ってきたら?」

 困るよ。にやにやしちゃってさぁ……。俺たちの関係に気づいてる。他の人にバレたらどうしてくれるんだよ。

「そういや、森下って小野寺先輩と仲良かったんだったよな」
「一緒の委員会だったっけ」
「ほら、覚えてる? ファンクラブの会長に『森下はどこだ! 森下を出せ!』って教室に怒鳴り込まれたことなかった?」
「あったあった、懐かしいー!」

 あったあった。上期の委員会決めの直後。教室で、なぜ貴様がと面罵されてさ。

「ファンクラブの会長どこだろ?」
「そんなん、小野寺先輩のテーブルに決まってるじゃん」

 そっと見てみる。
 いた。たしかに。
 夜会巻きに派手なパーティードレス。けっこう美人なんだけど、性格は変わってなさそう。
 小野寺のこと見すぎじゃん。

「森下、挨拶してきたら?」
「う、うん……」
「行ってら~」

 俺は押し出されるみたいにテーブルを立って、やむなく和臣さんのほうへと歩いていく。
 でもこんなの、嫌な予感しかしないじゃん。
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