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3 あるひとりぼっちの夜
七 ダンボール箱の中身
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ふと目を覚まして時計を見ると、午後八時半。和臣さんはうつらうつら、ふにゃふにゃしてる。
ふたりとも長袖シャツを着て、下は下着。和臣さんは俺の体をやんわり抱いてる。
気持ちいいなぁ。
腕枕、重くないのかな。しっかりした腕。間近の顔も、整いすぎ。相変わらずきれーな顔。まつげ長い。耳の形もいい。おでこ。七三分け。髪の毛さらさら。
目が大きくて、鼻梁がすっと通って、大きくない口。薄めの唇。しみそばかすのない、きめの細かい綺麗な肌。
きれいな男だな……。
「最終、九時三十六分……」
俺は呟きつつ、頭を起こす。
上半身を起こして伸びをし、残りの服を探してきょろきょろしたけれど、手近には見当たらない。
どこ行ったんだろ、と思いながら、部屋の隅にダンボール箱を見つけたので、立ち上がって寄って、封のされていないその蓋を開けた。
「あっ、待って、多紀くん」
起きた和臣さんが慌てている。
はたしてダンボールの中には、俺の服が入っていた。
でもこれ、着てきたやつと違うな……。
っていうか、いつ捨てた服だっけ。これ。肌着にしているTシャツが二、三枚。
首回りがほつれているから捨てておくねって言うから、お願いしますって答えたような気がする。捨てたんだとばかり思ってたんだけど。
俺は和臣さんを見る。
和臣さんは、マットレスの上に正座しながら視線を泳がせている。
いたずらがバレた犬。
「……えへへ。もったいなくて」
「捨てたはずのペンとか、折れたクシとか……」
俺自身の手で捨てたものもあるし。ゴミ箱から拾ったわけ?
「まだ使えるかなって」
「使えないです」
「使えるもん……」
俺、ストーカーと暮らしてたんだな。知ってたけど。目の当たりにすると呆れるやら笑えてくるやら。
和臣さんは言い訳モード。
「多紀くんは所有権を放棄して、俺の自由な処分に任せたから、これは俺のもの……」
「ゴミ漁りも犯罪ですよ。落とし物パクっちゃいけないし」
「でもでも、俺と多紀くんは超愛し合ってる恋人同士で、近いうちに結婚するし、そうしたら親族相盗例もあるし……あっ、親族相盗例っていうのは、親族間での窃盗は刑が免除されるのね。内縁だと適用されないけど……」
と言いながら、和臣さんはダンボールを確保しようとする。
まだ何かあるな、という俺の嗅覚がはたらいて、ダンボールを奪い取る。
油断していた和臣さんから逃げながら、俺はダンボールをひっくり返した。
床に投げ出される、俺の私物たち。捨てたはずのものがいっぱい。下着はやめてよ。
だけどまだ空っぽじゃない。重みがある。
なんでだろうと覗き込むと、ご丁寧に、二重底になってる。なにこれ、手が込みすぎ。
ピンときた。
上の段は、最悪の場合、俺に見られてもいいもの。隠したい本丸は下の段、そういう感じ。
厚手のダンボール紙で作った上の段の底をこじ開ける。
「待って、多紀くん!!!」
和臣さんの悲鳴。
中敷きを取り払った下の段には、見たことのない丸めた布。写真みたいな柄がついてる。
なにこれ。
広げたら、俺の等身大の寝姿がプリントされた袋状の布。
まさかこれ……抱きまくらカバー!?
「キャラクターグッズ!?」
もしかしなくても、マットレスの上にある抱きまくらに被せてたな!?
見覚えのあるタンクトップにメンズショーパン。去年の夏に買った衣類だから、撮影時は去年の夏。薄着。肌色率高め。
腹出してすやすや寝てる。
盗撮。まったく気づかなかった。
起きろよ。悠長に寝てるんじゃない。たいへんなことが起きてるぞ。
しかも、全体的に、いや、とりわけ股間のあたり、毛羽立ってない……?
和臣さんは痛恨という辛そうな表情で、俺の手から布を奪い取る。
俺も辛いよ。
つぎに俺は、丸まっているポスターをほどく。またえらく巨大に引き伸ばしたもんだな。アイドルか?
写っているのは俺の横顔。スーツ姿で街を歩いてる、こちらも、どこからどうみても盗撮写真。
いつのだろう……。髪型からすると相当前。
くわえて写真。すごく若い頃の。
さらに、見たことのない重厚なでかい本。
青いビロードの貼った分厚い本、ひっくりがえして表紙を確かめると、金の箔押しで学校名と、発行年月日。
「高校の卒アル? 俺の?」
一冊三万円もするから、俺は買ってなかったのに……!?
ふたりとも長袖シャツを着て、下は下着。和臣さんは俺の体をやんわり抱いてる。
気持ちいいなぁ。
腕枕、重くないのかな。しっかりした腕。間近の顔も、整いすぎ。相変わらずきれーな顔。まつげ長い。耳の形もいい。おでこ。七三分け。髪の毛さらさら。
目が大きくて、鼻梁がすっと通って、大きくない口。薄めの唇。しみそばかすのない、きめの細かい綺麗な肌。
きれいな男だな……。
「最終、九時三十六分……」
俺は呟きつつ、頭を起こす。
上半身を起こして伸びをし、残りの服を探してきょろきょろしたけれど、手近には見当たらない。
どこ行ったんだろ、と思いながら、部屋の隅にダンボール箱を見つけたので、立ち上がって寄って、封のされていないその蓋を開けた。
「あっ、待って、多紀くん」
起きた和臣さんが慌てている。
はたしてダンボールの中には、俺の服が入っていた。
でもこれ、着てきたやつと違うな……。
っていうか、いつ捨てた服だっけ。これ。肌着にしているTシャツが二、三枚。
首回りがほつれているから捨てておくねって言うから、お願いしますって答えたような気がする。捨てたんだとばかり思ってたんだけど。
俺は和臣さんを見る。
和臣さんは、マットレスの上に正座しながら視線を泳がせている。
いたずらがバレた犬。
「……えへへ。もったいなくて」
「捨てたはずのペンとか、折れたクシとか……」
俺自身の手で捨てたものもあるし。ゴミ箱から拾ったわけ?
「まだ使えるかなって」
「使えないです」
「使えるもん……」
俺、ストーカーと暮らしてたんだな。知ってたけど。目の当たりにすると呆れるやら笑えてくるやら。
和臣さんは言い訳モード。
「多紀くんは所有権を放棄して、俺の自由な処分に任せたから、これは俺のもの……」
「ゴミ漁りも犯罪ですよ。落とし物パクっちゃいけないし」
「でもでも、俺と多紀くんは超愛し合ってる恋人同士で、近いうちに結婚するし、そうしたら親族相盗例もあるし……あっ、親族相盗例っていうのは、親族間での窃盗は刑が免除されるのね。内縁だと適用されないけど……」
と言いながら、和臣さんはダンボールを確保しようとする。
まだ何かあるな、という俺の嗅覚がはたらいて、ダンボールを奪い取る。
油断していた和臣さんから逃げながら、俺はダンボールをひっくり返した。
床に投げ出される、俺の私物たち。捨てたはずのものがいっぱい。下着はやめてよ。
だけどまだ空っぽじゃない。重みがある。
なんでだろうと覗き込むと、ご丁寧に、二重底になってる。なにこれ、手が込みすぎ。
ピンときた。
上の段は、最悪の場合、俺に見られてもいいもの。隠したい本丸は下の段、そういう感じ。
厚手のダンボール紙で作った上の段の底をこじ開ける。
「待って、多紀くん!!!」
和臣さんの悲鳴。
中敷きを取り払った下の段には、見たことのない丸めた布。写真みたいな柄がついてる。
なにこれ。
広げたら、俺の等身大の寝姿がプリントされた袋状の布。
まさかこれ……抱きまくらカバー!?
「キャラクターグッズ!?」
もしかしなくても、マットレスの上にある抱きまくらに被せてたな!?
見覚えのあるタンクトップにメンズショーパン。去年の夏に買った衣類だから、撮影時は去年の夏。薄着。肌色率高め。
腹出してすやすや寝てる。
盗撮。まったく気づかなかった。
起きろよ。悠長に寝てるんじゃない。たいへんなことが起きてるぞ。
しかも、全体的に、いや、とりわけ股間のあたり、毛羽立ってない……?
和臣さんは痛恨という辛そうな表情で、俺の手から布を奪い取る。
俺も辛いよ。
つぎに俺は、丸まっているポスターをほどく。またえらく巨大に引き伸ばしたもんだな。アイドルか?
写っているのは俺の横顔。スーツ姿で街を歩いてる、こちらも、どこからどうみても盗撮写真。
いつのだろう……。髪型からすると相当前。
くわえて写真。すごく若い頃の。
さらに、見たことのない重厚なでかい本。
青いビロードの貼った分厚い本、ひっくりがえして表紙を確かめると、金の箔押しで学校名と、発行年月日。
「高校の卒アル? 俺の?」
一冊三万円もするから、俺は買ってなかったのに……!?
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