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2 ある年始のドタバタ
七 痛いの痛いの飛んでゆけ Side多紀
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二階にある客用寝室。
ふだん俺と和臣さんが暮らしている部屋のリビング以上の広さがあって、クイーンサイズのベッドが一台と、読書灯のついた空っぽのデスクだけが置いてある。家具がなくてシンプルなので余計に広く感じる。身の置き所がないほど。
二階にあるシャワー室を借りて、和臣さんの下着や寝間着を借りて、スマホの充電器も、なにもかも借りてる。なにしに来たんだろ、俺。
隣の部屋が自室だというパジャマ姿の和臣さんが一所懸命やってきて、壁沿いに松葉杖を置いて、客用ベッドにもぐりこんでいる。
ここで寝る気かな。いや、いいんだけどさ。和臣さんの家だし。
「俺もここに泊まってもいい?」
だと思った。
「それはいいですけど」
俺がベッドに掛けると、和臣さんはベッドを転がってくる。俺の膝の上に頭をのせる。
ひざまくら。にこにこしてる。
「多紀くん。大好き」
形の良い頭とさらさらの髪の毛を撫でながら、俺は言った。
「体、熱いですよ。熱がありませんか」
「実は発熱中」
やっぱり。火照っている。汗かいてる。
「大丈夫ですか」
「鎮痛剤のんで寝るかな。部屋に戻ったほうがいい?」
「いえ……和臣さんがここでいいなら」
いつもダブルベッドで寝ているから、クイーンサイズならばいつもよりも広い。一人で寝たら、昨日一昨日みたいに寂しいかもしれない。一緒に寝ていたら、容態が変わったときにわかる。俺は起きやすいから。
和臣さんは呟いた。
「我慢できない。エッチしちゃうかも」
「今夜は大人しくしてください。無理しちゃだめです。治ったらにしましょう。いつだってできるでしょ。絶対安静。ご家族もいますし」
しっかり言い含めないと本当にやりそう。無理しそう。性欲魔人め。聞こえたらどうするんだよ。
「じゃあ、いっぱいなでなでしてほしい……痛いの痛いの飛んでけもしてほしい」
「はい」
俺は笑いながら、要望どおりしてあげる。
和臣さんは満足そう。甘えん坊め。俺の腰に腕を回したりして、腹部にすりすりしてくる。
「伯父上や従兄弟たちに絡まれて疲れたよ。こんな怪我もしちゃうしさ。でも、多紀くんがこんな天気の中、仙台にまで飛んできてくれたの、すごく、すごく嬉しいんだ……。多紀くん。多紀くん」
俺は移動中の新幹線で、生きた心地がしなかった。つい数時間前の不安を思い出すだけで、手が震えて、目頭が熱くなる。
俺が涙目になっているので、和臣さんは腕を伸ばして、指先で俺の目元にそっと触れた。
「ごめんね」
「びっくりしました……」
「びっくりさせてごめん」
って言いながらなんでそんなに嬉しそうなんだろ。
「骨折で済んでよかったです。でも、バイクに乗るの、ほどほどにしてください。趣味なのに申し訳ないんですけど、事故にならないか心配です」
まして大雪だよ。こんな悪天候の日にわざわざ乗ることないだろうに。
「跨っただけだよ。もう乗らない。売るつもり」
また極端なことを。
「本当に? 好きなんでしょ?」
「本当。好きだけど」
「趣味なのに、いいんですか」
「多紀くんのほうが好きだもん。大好きな多紀くんが危ないから乗るのやめてって言うんだったら、乗らなくたっていいよ」
いいのかな。心配の種が減るのは助かるんだけど。趣味を奪うみたいでなんだかもやもやする。好きなことなんだったら続けてもらいたい。
だけど、あちこちを負傷して満身創痍の様子を見ていると、やっぱり、やめてほしいとも思う。
「大丈夫だよ。代わりに多紀くんに乗るから」
絶対に、絶対に言うと思ったけどさぁ。
「いつもでしょ」
「いつも以上に。覚悟しておいてね。バイクに乗る分、ぜんぶ多紀くんに乗るんだ」
元気そうだな。
ふだん俺と和臣さんが暮らしている部屋のリビング以上の広さがあって、クイーンサイズのベッドが一台と、読書灯のついた空っぽのデスクだけが置いてある。家具がなくてシンプルなので余計に広く感じる。身の置き所がないほど。
二階にあるシャワー室を借りて、和臣さんの下着や寝間着を借りて、スマホの充電器も、なにもかも借りてる。なにしに来たんだろ、俺。
隣の部屋が自室だというパジャマ姿の和臣さんが一所懸命やってきて、壁沿いに松葉杖を置いて、客用ベッドにもぐりこんでいる。
ここで寝る気かな。いや、いいんだけどさ。和臣さんの家だし。
「俺もここに泊まってもいい?」
だと思った。
「それはいいですけど」
俺がベッドに掛けると、和臣さんはベッドを転がってくる。俺の膝の上に頭をのせる。
ひざまくら。にこにこしてる。
「多紀くん。大好き」
形の良い頭とさらさらの髪の毛を撫でながら、俺は言った。
「体、熱いですよ。熱がありませんか」
「実は発熱中」
やっぱり。火照っている。汗かいてる。
「大丈夫ですか」
「鎮痛剤のんで寝るかな。部屋に戻ったほうがいい?」
「いえ……和臣さんがここでいいなら」
いつもダブルベッドで寝ているから、クイーンサイズならばいつもよりも広い。一人で寝たら、昨日一昨日みたいに寂しいかもしれない。一緒に寝ていたら、容態が変わったときにわかる。俺は起きやすいから。
和臣さんは呟いた。
「我慢できない。エッチしちゃうかも」
「今夜は大人しくしてください。無理しちゃだめです。治ったらにしましょう。いつだってできるでしょ。絶対安静。ご家族もいますし」
しっかり言い含めないと本当にやりそう。無理しそう。性欲魔人め。聞こえたらどうするんだよ。
「じゃあ、いっぱいなでなでしてほしい……痛いの痛いの飛んでけもしてほしい」
「はい」
俺は笑いながら、要望どおりしてあげる。
和臣さんは満足そう。甘えん坊め。俺の腰に腕を回したりして、腹部にすりすりしてくる。
「伯父上や従兄弟たちに絡まれて疲れたよ。こんな怪我もしちゃうしさ。でも、多紀くんがこんな天気の中、仙台にまで飛んできてくれたの、すごく、すごく嬉しいんだ……。多紀くん。多紀くん」
俺は移動中の新幹線で、生きた心地がしなかった。つい数時間前の不安を思い出すだけで、手が震えて、目頭が熱くなる。
俺が涙目になっているので、和臣さんは腕を伸ばして、指先で俺の目元にそっと触れた。
「ごめんね」
「びっくりしました……」
「びっくりさせてごめん」
って言いながらなんでそんなに嬉しそうなんだろ。
「骨折で済んでよかったです。でも、バイクに乗るの、ほどほどにしてください。趣味なのに申し訳ないんですけど、事故にならないか心配です」
まして大雪だよ。こんな悪天候の日にわざわざ乗ることないだろうに。
「跨っただけだよ。もう乗らない。売るつもり」
また極端なことを。
「本当に? 好きなんでしょ?」
「本当。好きだけど」
「趣味なのに、いいんですか」
「多紀くんのほうが好きだもん。大好きな多紀くんが危ないから乗るのやめてって言うんだったら、乗らなくたっていいよ」
いいのかな。心配の種が減るのは助かるんだけど。趣味を奪うみたいでなんだかもやもやする。好きなことなんだったら続けてもらいたい。
だけど、あちこちを負傷して満身創痍の様子を見ていると、やっぱり、やめてほしいとも思う。
「大丈夫だよ。代わりに多紀くんに乗るから」
絶対に、絶対に言うと思ったけどさぁ。
「いつもでしょ」
「いつも以上に。覚悟しておいてね。バイクに乗る分、ぜんぶ多紀くんに乗るんだ」
元気そうだな。
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