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2 ある年始のドタバタ
二 音信不通 Side多紀
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待つこと数時間。
暇でキッチンを掃除したり、あちこち掃除をして、掃除する場所がなくなって、宝物入れの写真を広げてみたり、冬服の手入れをしてみたり。テキストをひらいてみたり。晩飯も作って食べた。片づけはまだ。
午後七時。雪が深くなってきている。だけど、三時間前に送ったメッセージに、返信がない。
「……どうしたんだろ」
俺は呟いた。
和臣さんが、俺の返事を何時間もスルーすることなんて、滅多にない。お互いがどこで何をしているのかおおむね把握しているので、よっぽど多忙な時間帯に俺のほうから連絡することもないけれど。
……電話してみようかな。
いや、でも、親族で集まっているから、スマホを触ることができない状態かも。普段はまったく実家に寄りつかないから、色々、積もる話もあるだろうし。
そういえば、口述試験について、お兄さんや妹さんに訊くとも言っていたな。
長引いているんだろうな。
だけど。
『今日、何時ごろになりそうですか?』が、既読にもならない。スマホを落としたとか、水没させたとか、トラブルの香りがする。
一回だけ、架けてみようかな。邪魔かな。
俺は、和臣さんの電話番号をタップ。電源は入っているみたいで、かかる。だけど、何コール鳴らしても出ない。やっぱり出られる状況じゃないんだろうなあと切ろうとしたそのとき、やっと出た。
通話中。ごそごそと音がする。
「電話してすみません。いま大丈夫ですか?」
俺は訊ねてみる。
返事は、和臣さんの声じゃなかった。
『あ、はい。小野寺の携帯です』
女性。女性の声。若い。
驚いて画面を見る。和臣さんで間違いない。
……誰?
「あ、すみません。相田といいます。か、和臣さんは……」
『三郎と、あ、違う。和臣と、どのようなご関係でしょうか』
親族には三郎と呼ばれていると聞いたことがある。三男だかららしい。
だからこの女性は親族の誰か。
どういう関係と説明すれば、和臣さんが電話に出ない理由を教えてもらえるんだろう。
交際相手だなんて言えない。
「あの、えっと、同居人です」
『あー、『タキくん』?』
俺のこと知られてるし。
どういう説明してるんだろ、あのひと。
「あっ、はい」
女性は言った。
『私、妹です。和臣、バイクで自損事故したみたいなんです。救急車で運ばれて、私たちもこれから病院に行くところで……』
事故?
バイクで?
和臣さんが、事故。だめだ。だめだよ。
どうしよう。
突然のことに、心臓がぎゅっと締めつけられて、頭がうまく働かない。受け入れられない。
冷や汗と鳥肌、立っていられなくなる。
暇でキッチンを掃除したり、あちこち掃除をして、掃除する場所がなくなって、宝物入れの写真を広げてみたり、冬服の手入れをしてみたり。テキストをひらいてみたり。晩飯も作って食べた。片づけはまだ。
午後七時。雪が深くなってきている。だけど、三時間前に送ったメッセージに、返信がない。
「……どうしたんだろ」
俺は呟いた。
和臣さんが、俺の返事を何時間もスルーすることなんて、滅多にない。お互いがどこで何をしているのかおおむね把握しているので、よっぽど多忙な時間帯に俺のほうから連絡することもないけれど。
……電話してみようかな。
いや、でも、親族で集まっているから、スマホを触ることができない状態かも。普段はまったく実家に寄りつかないから、色々、積もる話もあるだろうし。
そういえば、口述試験について、お兄さんや妹さんに訊くとも言っていたな。
長引いているんだろうな。
だけど。
『今日、何時ごろになりそうですか?』が、既読にもならない。スマホを落としたとか、水没させたとか、トラブルの香りがする。
一回だけ、架けてみようかな。邪魔かな。
俺は、和臣さんの電話番号をタップ。電源は入っているみたいで、かかる。だけど、何コール鳴らしても出ない。やっぱり出られる状況じゃないんだろうなあと切ろうとしたそのとき、やっと出た。
通話中。ごそごそと音がする。
「電話してすみません。いま大丈夫ですか?」
俺は訊ねてみる。
返事は、和臣さんの声じゃなかった。
『あ、はい。小野寺の携帯です』
女性。女性の声。若い。
驚いて画面を見る。和臣さんで間違いない。
……誰?
「あ、すみません。相田といいます。か、和臣さんは……」
『三郎と、あ、違う。和臣と、どのようなご関係でしょうか』
親族には三郎と呼ばれていると聞いたことがある。三男だかららしい。
だからこの女性は親族の誰か。
どういう関係と説明すれば、和臣さんが電話に出ない理由を教えてもらえるんだろう。
交際相手だなんて言えない。
「あの、えっと、同居人です」
『あー、『タキくん』?』
俺のこと知られてるし。
どういう説明してるんだろ、あのひと。
「あっ、はい」
女性は言った。
『私、妹です。和臣、バイクで自損事故したみたいなんです。救急車で運ばれて、私たちもこれから病院に行くところで……』
事故?
バイクで?
和臣さんが、事故。だめだ。だめだよ。
どうしよう。
突然のことに、心臓がぎゅっと締めつけられて、頭がうまく働かない。受け入れられない。
冷や汗と鳥肌、立っていられなくなる。
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