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2 ある年始のドタバタ
一 大雪と帰省 Side多紀
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雪がひどくなってきている。
俺はカーテンを手の甲で避けて、リビングの掃き出し窓から外界を眺め、出掛けている和臣さんのことを考えていた。
午後から夜半にかけて勢いが増していくという予報のとおり、しんしんと降る雪は濃くなり、都会の奥行きは白くけぶっている。
かなり積もりそう。
一月二日、午後四時。全国的にしばらく雪。
東京でこれだけ降るのならば、東北地方となれば豪雪ではなかろうか。
室内は暖房が効いていて暖かいものの、窓の前に立つと冷気にぞわっとするし、硝子は曇って水滴が垂れる。
俺は窓を拭きつつ、スマホのメッセージ履歴をスクロール。
昨晩、寝る前にやり取りした内容。
『明日、東京、雪らしいです』
『多紀くん、どこかに出掛けるの?』
『朝に、友達二人と近所の神社に初詣に行く予定です。どっかで昼飯を食べて帰ってきます。和臣さんは?』
『朝は勉強。午後は本家に挨拶に行くよ』
そういえば、分家だって言ってたな。
年始のご挨拶という慣習が残っている、きちんとしたおうち。
『多紀くん、出掛けるなら足元に気をつけて、転ばないようにね。積もっていたら無理に外出しないようにね』
『はーい。和臣さんは頑張って』
『例年は吊るしあげだったけれど、今年は伯父上に褒められる予定だよ。お年玉くれるかな』
三十歳過ぎてお年玉を期待する男。
『試験、順調ですもんね』
三段階ある予備試験の二つ目である論文式試験に合格して、残るは今月中旬におこなわれる、口述試験というものだけだそうだ。合格すれば、今年の五月から司法試験を受験することになる。
『伯父上からの絡まれ方が変わるだけのような気もするね』
お酒が入ると絡んでくるという伯父に、無資格者だと詰られること八年、すっかり本家に寄りつかなくなった和臣さんだが、今回は必ず顔を見せろという厳命があり、十二月三十一日の終電で渋々帰省していった。
本日、本家への挨拶を終えたら東京に戻ってくる予定だ。
メッセージのやり取りをした後、寝るまでのあいだ、通話をした。その際に、仙台を出るときに連絡するねと言っていたのだが、午後四時を過ぎても音沙汰がない。
仙台から東京は一時間半。このまま雪がひどくなってきて、はたして東京に戻ることができるものなのだろうか。仕事は一月五日始まりだから、東京に戻るのを一日延期して、実家でゆっくり過ごしてもいいだろうけれど。
ちなみに俺は今朝のうちに友達と初詣に出掛けて、混雑するファミレスで昼飯を食って、ふつうに帰宅。そのときはちらちら降っていて、うっすら積もっている程度だった。
同居を始めて以来、昨年いっぱい、和臣さんは仕事に予備校に勉強会に自習室通いにと忙しかったので、俺はひとりで過ごすことも多かったのだけど、まさか年始もひとりになるとは。
まだ伯父さんに絡まれているのかな。
いつぞやに、親族一同法曹と医者だから肩身が狭いって嘆いていたな。そんなご家庭だと息苦しそうだけど、実家の家族はみんな優しいよって言っていたっけ。妹さんも今は優しいらしい。
どんなひとたちなんだろう。法曹と医者。お堅そうとしか想像しようがないな。
あのひと、いい歳して、俺と付き合っていて大丈夫?
と思いながら、メッセージを送ってみる。
『今日、何時ごろになりそうですか?』
年明けから寒波の予報だったから、籠城の準備はしっかりしてある。どこにも出掛けなくてもいいように、色々買い込んで、俺は寝正月のつもりだった。和臣さんは去年、試験勉強一色で、俺が家事全般を担当していたので、ちょっと休息期間。
でもひとりだと、つまらないんだな。勉強に集中している和臣さんの気配を感じながら家事をしているときは、黙っていても別に退屈ではないんだけど。
あと、俺も何か勉強しようかなと思って、スタッフ向けのキャリアアップ講習を受けてみたり、行政書士の勉強をしている。
行政書士は、自分ではちんぷんかんぷん。和臣さんが時々教えてくれる。
行政書士をとった後に社労士をとったら今の仕事にもきっと生かせるよって言われてるけど、定年が来るほうが早いんじゃないかと思うぐらい俺にとっては難しい。わからないことばっかり。
だから、早く帰ってきたらいいのに。
俺はカーテンを手の甲で避けて、リビングの掃き出し窓から外界を眺め、出掛けている和臣さんのことを考えていた。
午後から夜半にかけて勢いが増していくという予報のとおり、しんしんと降る雪は濃くなり、都会の奥行きは白くけぶっている。
かなり積もりそう。
一月二日、午後四時。全国的にしばらく雪。
東京でこれだけ降るのならば、東北地方となれば豪雪ではなかろうか。
室内は暖房が効いていて暖かいものの、窓の前に立つと冷気にぞわっとするし、硝子は曇って水滴が垂れる。
俺は窓を拭きつつ、スマホのメッセージ履歴をスクロール。
昨晩、寝る前にやり取りした内容。
『明日、東京、雪らしいです』
『多紀くん、どこかに出掛けるの?』
『朝に、友達二人と近所の神社に初詣に行く予定です。どっかで昼飯を食べて帰ってきます。和臣さんは?』
『朝は勉強。午後は本家に挨拶に行くよ』
そういえば、分家だって言ってたな。
年始のご挨拶という慣習が残っている、きちんとしたおうち。
『多紀くん、出掛けるなら足元に気をつけて、転ばないようにね。積もっていたら無理に外出しないようにね』
『はーい。和臣さんは頑張って』
『例年は吊るしあげだったけれど、今年は伯父上に褒められる予定だよ。お年玉くれるかな』
三十歳過ぎてお年玉を期待する男。
『試験、順調ですもんね』
三段階ある予備試験の二つ目である論文式試験に合格して、残るは今月中旬におこなわれる、口述試験というものだけだそうだ。合格すれば、今年の五月から司法試験を受験することになる。
『伯父上からの絡まれ方が変わるだけのような気もするね』
お酒が入ると絡んでくるという伯父に、無資格者だと詰られること八年、すっかり本家に寄りつかなくなった和臣さんだが、今回は必ず顔を見せろという厳命があり、十二月三十一日の終電で渋々帰省していった。
本日、本家への挨拶を終えたら東京に戻ってくる予定だ。
メッセージのやり取りをした後、寝るまでのあいだ、通話をした。その際に、仙台を出るときに連絡するねと言っていたのだが、午後四時を過ぎても音沙汰がない。
仙台から東京は一時間半。このまま雪がひどくなってきて、はたして東京に戻ることができるものなのだろうか。仕事は一月五日始まりだから、東京に戻るのを一日延期して、実家でゆっくり過ごしてもいいだろうけれど。
ちなみに俺は今朝のうちに友達と初詣に出掛けて、混雑するファミレスで昼飯を食って、ふつうに帰宅。そのときはちらちら降っていて、うっすら積もっている程度だった。
同居を始めて以来、昨年いっぱい、和臣さんは仕事に予備校に勉強会に自習室通いにと忙しかったので、俺はひとりで過ごすことも多かったのだけど、まさか年始もひとりになるとは。
まだ伯父さんに絡まれているのかな。
いつぞやに、親族一同法曹と医者だから肩身が狭いって嘆いていたな。そんなご家庭だと息苦しそうだけど、実家の家族はみんな優しいよって言っていたっけ。妹さんも今は優しいらしい。
どんなひとたちなんだろう。法曹と医者。お堅そうとしか想像しようがないな。
あのひと、いい歳して、俺と付き合っていて大丈夫?
と思いながら、メッセージを送ってみる。
『今日、何時ごろになりそうですか?』
年明けから寒波の予報だったから、籠城の準備はしっかりしてある。どこにも出掛けなくてもいいように、色々買い込んで、俺は寝正月のつもりだった。和臣さんは去年、試験勉強一色で、俺が家事全般を担当していたので、ちょっと休息期間。
でもひとりだと、つまらないんだな。勉強に集中している和臣さんの気配を感じながら家事をしているときは、黙っていても別に退屈ではないんだけど。
あと、俺も何か勉強しようかなと思って、スタッフ向けのキャリアアップ講習を受けてみたり、行政書士の勉強をしている。
行政書士は、自分ではちんぷんかんぷん。和臣さんが時々教えてくれる。
行政書士をとった後に社労士をとったら今の仕事にもきっと生かせるよって言われてるけど、定年が来るほうが早いんじゃないかと思うぐらい俺にとっては難しい。わからないことばっかり。
だから、早く帰ってきたらいいのに。
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