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第三部 1 ある事件直後の土日
十 多紀&紗英vs和臣
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ホテルの部屋がノックされて、紗英さんが出る。和臣さんが飛び込んでくる。
つい一昨日も同じ場面を見たような。
「多紀くん!? 大丈夫……!?」
ものすごく焦ってるね。
俺の顔を見てほっとしてる。
「大丈夫です。早いですね、来るの」
「帰ってくる途中だったから……それより、橋から落ちたって?」
俺は頷いた。
「そうなんですよ。スマホも水没しちゃいまして」
「怪我してない? 記憶なくしてない?」
「どっちも大丈夫です」
「よかった……」
コーヒーを三杯強飲んだあとのことである。
紗英さんとラウンジを出て、庭を散策してたんだ。
池にかかってる橋を渡ろうとしたら、紗英さんが転びそうになって、庇ったら俺が落ちた。池に。
深さはなかったんだけど、ジャケットのポケットに入れていたスマホが池の底に沈んでしまって、頭から靴まで全身びしょ濡れになったので、紗英さんはデイユースで部屋をとってくれて、服はクリーニングに出して、和臣さんに連絡してくれた。
帰宅して昼飯がないと困るだろうから伝えておこうとしたら、ホテルまで飛んできた。別に来なくてもよかったのに。
シャワーを浴びて髪を乾かした俺は、備え付けのパジャマを着て、ベッドに腰掛けてる。
「なんでこんなところに来てるのかと思ったら……着替え持ってきたから、これ着て帰ろうね」
「? ありがとうございます」
でも紙袋を広げて中の衣類を確認したら、下着まで和臣さんのじゃん。
隙あらば俺に自分の服を着せようとする男。
そこへ紗英さん。
「相田さん、クリーニング、あと十分で終わりますよ?」
「あ、じゃあそっち着て帰りましょうかね」
「これ着てくれないかな……」
俺と紗英さんの話に、和臣さんが主張をねじ込んでくる。
仕方ないな……。
紗英さんに外に出てもらって、俺は和臣さんの服に着替える。着替えを邪魔されながら、つまりいちゃいちゃしながら。
和臣さんの服、大きいんだって。きれいめカジュアルだから着ていても違和感はないけど、肩回りや裾がぶかぶかなのは不格好。
さすがに靴は俺のか。履き古したスニーカーを履いた頃に、クリーニングが終わったみたいで、紗英さんがそばに来て、薄手のビニールに包まれた衣類一式を渡してくれた。俺は受け取る。
紗英さんは言った。
「連日、ごめんなさい。今日は、ありがとうございました」
「いえ、とんでもない。平気です」
昨日、よくない別れ方をしたから気になっていたんだ。
俺のほうから紗英さんに連絡は取れないし、何を言えばいいのかだってわからなかった。
だから、驚きはしたものの、葉子さんを通じて連絡をもらえて、きょう話せてよかったと思う。橋から落ちたのは想定外だけれど。
紗英さんと俺の様子を、和臣さんはちらちら見ながら、とっても嫌そうにしてる。
で、とうとう間に入ってきた。
「あの、紗英さん。相田くんは僕のものだからだめです。離れて離れて」
いきなり何だよ。
俺と紗英さんの間に割り込んで、俺を後ろ手にしてる。
紗英さんは呆れ顔。
俺も呆れてる。
なんでもかんでも恋愛に結びつける恋愛脳だよ。和臣さんは。和臣さんが誰にでも熱視線を向けられがちだからか。
俺は誰かに恋をされた経験が約一名以外ゼロだからさ。そういう思考がない。
だめなひとだな、と思って紗英さんに同意を求めようと紗英さんを見る。だけどそらされた。
ん?
紗英さんは和臣さんに対して、冷ややかに言った。
「何も言ってませんけど?」
「僕が先に好きになったので、僕のものです」
「先とか後なんて関係ないですよね?」
「やめてください! なんでも手に入れようとするのは!」
「あら、何を知ったことを」
紗英さんは刺々しい。
和臣さんは小さく言う。
「……似た者同士なんですよ。僕と紗英さん。僕のことも諦めてほしいですし、多紀くんもだめです。ね、多紀くん」
同意を求められて、俺は首を捻りつつ答える。
「はあ、そうですかねえ」
和臣さんは、愕然としている。
「えっ、なにそれ。もっと本気で否定してよ。まさか多紀くんも、紗英さんのこと、す、好きになっちゃったんじゃ……!」
真っ青。この世の終わりみたいに慌てふためいている。
この情けない顔が見られただけでも、留飲は下がったかな。
それにしても、多紀くんも、ってなんだよ。紗英さんは別に俺のこと好きじゃないでしょ、と思ってまた紗英さんを見ると、嫌そうにしつつ顔が赤い。
……惚れっぽすぎない?
つい一昨日も同じ場面を見たような。
「多紀くん!? 大丈夫……!?」
ものすごく焦ってるね。
俺の顔を見てほっとしてる。
「大丈夫です。早いですね、来るの」
「帰ってくる途中だったから……それより、橋から落ちたって?」
俺は頷いた。
「そうなんですよ。スマホも水没しちゃいまして」
「怪我してない? 記憶なくしてない?」
「どっちも大丈夫です」
「よかった……」
コーヒーを三杯強飲んだあとのことである。
紗英さんとラウンジを出て、庭を散策してたんだ。
池にかかってる橋を渡ろうとしたら、紗英さんが転びそうになって、庇ったら俺が落ちた。池に。
深さはなかったんだけど、ジャケットのポケットに入れていたスマホが池の底に沈んでしまって、頭から靴まで全身びしょ濡れになったので、紗英さんはデイユースで部屋をとってくれて、服はクリーニングに出して、和臣さんに連絡してくれた。
帰宅して昼飯がないと困るだろうから伝えておこうとしたら、ホテルまで飛んできた。別に来なくてもよかったのに。
シャワーを浴びて髪を乾かした俺は、備え付けのパジャマを着て、ベッドに腰掛けてる。
「なんでこんなところに来てるのかと思ったら……着替え持ってきたから、これ着て帰ろうね」
「? ありがとうございます」
でも紙袋を広げて中の衣類を確認したら、下着まで和臣さんのじゃん。
隙あらば俺に自分の服を着せようとする男。
そこへ紗英さん。
「相田さん、クリーニング、あと十分で終わりますよ?」
「あ、じゃあそっち着て帰りましょうかね」
「これ着てくれないかな……」
俺と紗英さんの話に、和臣さんが主張をねじ込んでくる。
仕方ないな……。
紗英さんに外に出てもらって、俺は和臣さんの服に着替える。着替えを邪魔されながら、つまりいちゃいちゃしながら。
和臣さんの服、大きいんだって。きれいめカジュアルだから着ていても違和感はないけど、肩回りや裾がぶかぶかなのは不格好。
さすがに靴は俺のか。履き古したスニーカーを履いた頃に、クリーニングが終わったみたいで、紗英さんがそばに来て、薄手のビニールに包まれた衣類一式を渡してくれた。俺は受け取る。
紗英さんは言った。
「連日、ごめんなさい。今日は、ありがとうございました」
「いえ、とんでもない。平気です」
昨日、よくない別れ方をしたから気になっていたんだ。
俺のほうから紗英さんに連絡は取れないし、何を言えばいいのかだってわからなかった。
だから、驚きはしたものの、葉子さんを通じて連絡をもらえて、きょう話せてよかったと思う。橋から落ちたのは想定外だけれど。
紗英さんと俺の様子を、和臣さんはちらちら見ながら、とっても嫌そうにしてる。
で、とうとう間に入ってきた。
「あの、紗英さん。相田くんは僕のものだからだめです。離れて離れて」
いきなり何だよ。
俺と紗英さんの間に割り込んで、俺を後ろ手にしてる。
紗英さんは呆れ顔。
俺も呆れてる。
なんでもかんでも恋愛に結びつける恋愛脳だよ。和臣さんは。和臣さんが誰にでも熱視線を向けられがちだからか。
俺は誰かに恋をされた経験が約一名以外ゼロだからさ。そういう思考がない。
だめなひとだな、と思って紗英さんに同意を求めようと紗英さんを見る。だけどそらされた。
ん?
紗英さんは和臣さんに対して、冷ややかに言った。
「何も言ってませんけど?」
「僕が先に好きになったので、僕のものです」
「先とか後なんて関係ないですよね?」
「やめてください! なんでも手に入れようとするのは!」
「あら、何を知ったことを」
紗英さんは刺々しい。
和臣さんは小さく言う。
「……似た者同士なんですよ。僕と紗英さん。僕のことも諦めてほしいですし、多紀くんもだめです。ね、多紀くん」
同意を求められて、俺は首を捻りつつ答える。
「はあ、そうですかねえ」
和臣さんは、愕然としている。
「えっ、なにそれ。もっと本気で否定してよ。まさか多紀くんも、紗英さんのこと、す、好きになっちゃったんじゃ……!」
真っ青。この世の終わりみたいに慌てふためいている。
この情けない顔が見られただけでも、留飲は下がったかな。
それにしても、多紀くんも、ってなんだよ。紗英さんは別に俺のこと好きじゃないでしょ、と思ってまた紗英さんを見ると、嫌そうにしつつ顔が赤い。
……惚れっぽすぎない?
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