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再会編 ある夜(多紀視点)
五 彼女いない歴年齢
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隣のテーブルにいたカップルが席を立って出ていった。付き合いたてかな。いいなあ。丁寧語でなんだか初々しい会話をしていたな。俺ぺらぺらしゃべっててうるさかったかもしれない。目で追ってしまう。恋人同士。羨ましいな……。
あっ、天丼きた。
揚げたてのかき揚げと大海老天二本と白身魚とイカ、椎茸にナス、ししとう、レンコン、かぼちゃ。甘辛いつゆにくぐらせて白米にのせた、いわゆる江戸前天丼。この爆ぜた甘い香り。美味しそう。絶対美味しい。ちょー空腹。
手を合わせて割箸を割って俺はがっつく。
ひもじかった……! 天ぷらとだしの染みたごはん! おいしいよう……!
カズ先輩は俺の様子を笑わないようにしつつ、いただきます、と静かに手を合わせて、背筋を伸ばして、きれいな所作で食べている。
こういう点にも育ちが表れるね。品の良さが半端ない。
「ここ、初めてですよね? 二階に半個室もあって、デートにもおすすめです」
二階は写真で見たことがあるだけだけどね。俺みたいな安月給には手が出ないけれど、カズ先輩は高収入だろうし、来れそう。
「タキくんは、彼女と来たことあるんだ?」
う……。ダメージ。店に出入りできるような収入はないし。彼女もいないし。
あまりつっこまれると、きつくて辛いです、先輩。
「いえいえ。お恥ずかしながら、彼女いない歴年齢です」
どうせ取り繕ったってすぐバレちゃうだろうから、はじめから真実を明かしておく。
カズ先輩とは違う生き物ですよ、俺は。
二十歳を超えて童貞というね。
「会社では出会いはないの?」
「会社は女性が多いですけど、といっても全部で二十人しかいませんし。忙しくてそれどころじゃないというか、戦友って感じ……」
俺は高卒で入社したわけだから、子ども扱い。恋愛対象じゃない。
「そうなんだ」
「あ、社内恋愛もあるみたいです。俺だけ蚊帳の外です」
社長と誰かの不倫とか、セクハラとか、そういうのはちゃんとあるらしい。ぜんぜん知らないふりしてるけど。別に知りたくもないしね。
蚊帳の外なのが丁度いい。面倒事には巻き込まれたくないもの。社内恋愛なんてナシナシ。別れたらどうするの? って感じ。俺、結婚願望ない。
若いからないんじゃなくて、親のあれこれを見てて、結婚なんてするものじゃないなーって思ってる。
幸せな結婚生活のロールモデルが身の回りに少ないし、俺とは無関係の世界の出来事なんだわ。
合コン行かなくて正解かも。彼女は欲しいけど、相手に悪い気がする。将来なんて、なに先走ってんだって感じかもだけど。でもやっぱり付き合うなら誠実に付き合いたいし。楽しいだけじゃなくてさ。
「カズ先輩?」
「えっ、あっ、あっ、ごめん、なんだった?」
「カズ先輩は商社ですっけ?」
「知ってるの?」
カズ先輩は意外そうに目をあげる。
あ、しまった。これは、友達に聞いた情報だ。噂とか嫌いそう。でも仕方ないよ。カズ先輩って、みんなの注目の的だったんだから。
「あ、風のうわさで。はい。いやですよね、すみません」
「ううん。大丈夫。商社。配属はまだ。たぶん営業。ケミカル系」
「かっこいいですね。さすがカズ先輩」
とりあえず言っておいたけど、ケミカルって何だろう。
わからん。まいっか。
あっ、天丼きた。
揚げたてのかき揚げと大海老天二本と白身魚とイカ、椎茸にナス、ししとう、レンコン、かぼちゃ。甘辛いつゆにくぐらせて白米にのせた、いわゆる江戸前天丼。この爆ぜた甘い香り。美味しそう。絶対美味しい。ちょー空腹。
手を合わせて割箸を割って俺はがっつく。
ひもじかった……! 天ぷらとだしの染みたごはん! おいしいよう……!
カズ先輩は俺の様子を笑わないようにしつつ、いただきます、と静かに手を合わせて、背筋を伸ばして、きれいな所作で食べている。
こういう点にも育ちが表れるね。品の良さが半端ない。
「ここ、初めてですよね? 二階に半個室もあって、デートにもおすすめです」
二階は写真で見たことがあるだけだけどね。俺みたいな安月給には手が出ないけれど、カズ先輩は高収入だろうし、来れそう。
「タキくんは、彼女と来たことあるんだ?」
う……。ダメージ。店に出入りできるような収入はないし。彼女もいないし。
あまりつっこまれると、きつくて辛いです、先輩。
「いえいえ。お恥ずかしながら、彼女いない歴年齢です」
どうせ取り繕ったってすぐバレちゃうだろうから、はじめから真実を明かしておく。
カズ先輩とは違う生き物ですよ、俺は。
二十歳を超えて童貞というね。
「会社では出会いはないの?」
「会社は女性が多いですけど、といっても全部で二十人しかいませんし。忙しくてそれどころじゃないというか、戦友って感じ……」
俺は高卒で入社したわけだから、子ども扱い。恋愛対象じゃない。
「そうなんだ」
「あ、社内恋愛もあるみたいです。俺だけ蚊帳の外です」
社長と誰かの不倫とか、セクハラとか、そういうのはちゃんとあるらしい。ぜんぜん知らないふりしてるけど。別に知りたくもないしね。
蚊帳の外なのが丁度いい。面倒事には巻き込まれたくないもの。社内恋愛なんてナシナシ。別れたらどうするの? って感じ。俺、結婚願望ない。
若いからないんじゃなくて、親のあれこれを見てて、結婚なんてするものじゃないなーって思ってる。
幸せな結婚生活のロールモデルが身の回りに少ないし、俺とは無関係の世界の出来事なんだわ。
合コン行かなくて正解かも。彼女は欲しいけど、相手に悪い気がする。将来なんて、なに先走ってんだって感じかもだけど。でもやっぱり付き合うなら誠実に付き合いたいし。楽しいだけじゃなくてさ。
「カズ先輩?」
「えっ、あっ、あっ、ごめん、なんだった?」
「カズ先輩は商社ですっけ?」
「知ってるの?」
カズ先輩は意外そうに目をあげる。
あ、しまった。これは、友達に聞いた情報だ。噂とか嫌いそう。でも仕方ないよ。カズ先輩って、みんなの注目の的だったんだから。
「あ、風のうわさで。はい。いやですよね、すみません」
「ううん。大丈夫。商社。配属はまだ。たぶん営業。ケミカル系」
「かっこいいですね。さすがカズ先輩」
とりあえず言っておいたけど、ケミカルって何だろう。
わからん。まいっか。
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