エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
上 下
142 / 366
再会編 ある夜(多紀視点)

五 彼女いない歴年齢

しおりを挟む
 隣のテーブルにいたカップルが席を立って出ていった。付き合いたてかな。いいなあ。丁寧語でなんだか初々しい会話をしていたな。俺ぺらぺらしゃべっててうるさかったかもしれない。目で追ってしまう。恋人同士。羨ましいな……。
 あっ、天丼きた。
 揚げたてのかき揚げと大海老天二本と白身魚とイカ、椎茸にナス、ししとう、レンコン、かぼちゃ。甘辛いつゆにくぐらせて白米にのせた、いわゆる江戸前天丼。この爆ぜた甘い香り。美味しそう。絶対美味しい。ちょー空腹。
 手を合わせて割箸を割って俺はがっつく。
 ひもじかった……! 天ぷらとだしの染みたごはん! おいしいよう……!
 カズ先輩は俺の様子を笑わないようにしつつ、いただきます、と静かに手を合わせて、背筋を伸ばして、きれいな所作で食べている。
 こういう点にも育ちが表れるね。品の良さが半端ない。

「ここ、初めてですよね? 二階に半個室もあって、デートにもおすすめです」

 二階は写真で見たことがあるだけだけどね。俺みたいな安月給には手が出ないけれど、カズ先輩は高収入だろうし、来れそう。

「タキくんは、彼女と来たことあるんだ?」

 う……。ダメージ。店に出入りできるような収入はないし。彼女もいないし。
 あまりつっこまれると、きつくて辛いです、先輩。

「いえいえ。お恥ずかしながら、彼女いない歴年齢です」

 どうせ取り繕ったってすぐバレちゃうだろうから、はじめから真実を明かしておく。
 カズ先輩とは違う生き物ですよ、俺は。
 二十歳を超えて童貞というね。

「会社では出会いはないの?」
「会社は女性が多いですけど、といっても全部で二十人しかいませんし。忙しくてそれどころじゃないというか、戦友って感じ……」

 俺は高卒で入社したわけだから、子ども扱い。恋愛対象じゃない。

「そうなんだ」
「あ、社内恋愛もあるみたいです。俺だけ蚊帳の外です」

 社長と誰かの不倫とか、セクハラとか、そういうのはちゃんとあるらしい。ぜんぜん知らないふりしてるけど。別に知りたくもないしね。
 蚊帳の外なのが丁度いい。面倒事には巻き込まれたくないもの。社内恋愛なんてナシナシ。別れたらどうするの? って感じ。俺、結婚願望ない。
 若いからないんじゃなくて、親のあれこれを見てて、結婚なんてするものじゃないなーって思ってる。
 幸せな結婚生活のロールモデルが身の回りに少ないし、俺とは無関係の世界の出来事なんだわ。
 合コン行かなくて正解かも。彼女は欲しいけど、相手に悪い気がする。将来なんて、なに先走ってんだって感じかもだけど。でもやっぱり付き合うなら誠実に付き合いたいし。楽しいだけじゃなくてさ。

「カズ先輩?」
「えっ、あっ、あっ、ごめん、なんだった?」
「カズ先輩は商社ですっけ?」
「知ってるの?」

 カズ先輩は意外そうに目をあげる。
 あ、しまった。これは、友達に聞いた情報だ。噂とか嫌いそう。でも仕方ないよ。カズ先輩って、みんなの注目の的だったんだから。

「あ、風のうわさで。はい。いやですよね、すみません」
「ううん。大丈夫。商社。配属はまだ。たぶん営業。ケミカル系」
「かっこいいですね。さすがカズ先輩」

 とりあえず言っておいたけど、ケミカルって何だろう。
 わからん。まいっか。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...