エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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過去編 ある夜

ただの先輩と後輩⑤ side多紀

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 わりとすぐ既読になって、二、三分してカズ先輩から返事が来る。

『空いてるよ』
『ご飯行きませんか? 焼肉屋の割引もらったんです。今日までなんです』
『OK。何時?』
『八時半までには!』
『じゃあまたあとで』

 カズ先輩、まだ仕事してるだろうな。
 いつも七時は回るって言ってた気がする。忙しいのに申し訳ないな。せめて二日前くらいに誘えたらよかったんだけど。

「よーし、がんばるぞー」

 スマホを仕舞い込んで、あと一仕事。今日は社長も主任も遠方出張だから余程トラブルがない限り、全員八時には会社を出られるはず。
 渡辺さんが訊いてくる。

「つかまったー?」
「はい!」
「友だち?」
「高校のときの先輩です。近くで働いてて、月イチくらいでメシ食うんですよ。急だったけど空いてるみたいです」
「へえ、やるじゃん。年上かぁ」
「渡辺さんの意地悪~」

 あいにく、女の子じゃないよ。
 そこへ日下ちゃん。

「あ、相田、たまに一緒にごはん食べてる人?」
「うん」
「日下、知ってるんだ?」
「超イケメン。割とこの辺で見かける。斜向かいのカフェとか。相田の知り合いって聞いてびっくりしたことがあって。一回、外で居合わせたことあるよね」
「待ち合わせのときだったね」
「へー。超イケメンかー」

 俺は胸を張って言う。

「ちょーーーーーイケメンです!」
「えー、なにそれ。マジ? 吹いてない?」

 日下ちゃんは真顔で頷く。
 俺は得意げ。

「ガチですよ。文化祭のミスコン優勝してたし、委員会では先輩とペアを組みたいがために女子がキャットファイトしてました。他校の子もよく見に来てましたし。先輩が手を挙げる委員会の倍率、すごかったとか」

 美化委員会の倍率が十倍を超えたのは初めてだったそうだよ。
 ちなみにカズ先輩の在学中は、カズ先輩のクラスが最後に委員会決めをするルールになっていたらしい。なぜなら他のクラスでもひとつの委員会に女子が殺到して、枠の争奪戦になっちゃうから。
 よく覚えてるな、俺。一年間ペアだったから、いろいろ羨ましがられたんだ。

「えっ、わたしも行く。見てみたい」
「残念だけどこの車、二人乗りなんで」
「スネ夫がおりてよ」
「相田、あのひとって芸能人? モデル?」
「普通の……いや、エリートビジネスマン。商社マン。だけど、芸能界とか読モとか、スカウトはされてるはず、確実に。背も百八十超えてて、百八十五くらいかな」
「マジかー!? 実在してる?」
「妄想じゃないですよ」
「オーラもすごいの。きらっきらしてる」
「有名私大卒で頭良くて、業界最大手の一流企業。海外にもばんばん行ってて、めっちゃかっこいい。しかもすっごい優しい。自慢の先輩」
「彼女いるの?」

 いるって聞いたことはないな。でも、いてもおかしくないというか。いないほうがおかしい。
 カズ先輩の彼女になりたい人は山ほどいる。だって、列をなしているのを見たことがある。今でも変わらないと思う。あの頃よりもさらに格好良いし。磨きがかかってる。
 ただ、俺は彼女いないって話しをけっこうするけど、カズ先輩から恋愛の話は聞いたことがない。カズ先輩は意識的に、話題を避けてる。
 カズ先輩ってたぶん女性は苦手。高校のときも、明らかに態度に出てた。女性に対して愛想がないのは知ってる。
 だけどもう社会人だし、あのころみたいにミーハーな女子にまとわりつかれることもないだろう。いまは、恋人のひとりやふたりはいるはず。
 いない歴年齢の俺に気を遣って話さないだけだろうね。悔しい。
 俺は腕組みしつつ考える。

「恋愛関係は一切話さないんですよ。でも、彼女います? ってより、彼女何人います? って質問のほうが現実的かもですねー」
「あー。商社マンって週八で合コンしてるよね」
「日替わりで女喰ってそう」
「先輩本人はチャラくなくて多分真面目なんですけど、女子がほっとかないと思うんですよ」

 彼女が何人もっていうのはさすがに冗談。
 遊び散らしてる雰囲気は……ないかな。堅実派っぽい。誠実だと思う。てか、いつ誘っても意外と予定が空いてるし。断られたことってほとんどない。
 一回だけ、カズ先輩が海外出張中に連絡してしまって、そのときはなんだかめちゃめちゃ謝られたな。別にいいのに。忙しいだろうし。どこにいるのか聞いたら中東だって。帰ろうかなって言われてこっちが恐縮したわ。冗談だよって笑ってたけど、言い方が冗談っぽくないんだもん。カズ先輩にツッコミってやっぱり難しいって思ったな。
 それにしても、カズ先輩に似合う女子か。すごい美人じゃないと隣に並ぶの気後れしそうだな。だって並大抵のイケメンじゃない。
 いったいどんな子が好みなんだろ。想像してみる。
 カズ先輩はちょっと気弱そうで優しくて柔らかい、少し中性的な、きれいな面立ちのひと。包容力ありそうなタイプ。ほんわか系。
 似たような雰囲気の、優しくてたおやかな癒やし系美人かな。逆に、気が強そうな快活な女性が好みってセンもあるな。
 いや、ふんわりしてるかよわい女子を包み込むように守っているかも。ミステリアスな芸術系美女を温かい目で見つめている可能性もあるし。
 今度聞いてみようかな。答えてくれるかな? 紹介してはくれないか。そこまで親しい間柄じゃないね。写真くらいは見せてくれるといいな。別に見せてくれなくてもいいけど。
 えぐいほど遊んでる性欲モンスターだったらどうしよ。いや、よくないな。こんな勝手な想像は。
 あんな優しくて誠実そうな先輩なのにさ。

「ま、わたしらには関係ないねー」
「だねー」
「別世界っすねー。俺もなんで知り合いなのかわかんない」

 高校が一緒だった。委員会が一緒だった。偶然ペアになった。ちょっと仲良くなった。会社が近くて再会した。時々メシ食ってる。それだけ。
 だけど日下ちゃんは不思議そうな目でこちらを見てくる。

「えー? 相田、可愛がられてたじゃん」
「え? そう?」
「うん。相田といたときの雰囲気がすごかったんだよ」
「日下っち、結構見てるね」
「最初、相田のお兄さんか何かだと思ったんだよね。危なっかしい弟から目が離せない、みたいな」
「ふぅん」
「危なっかしい弟……」
「全然似てなかったんだけど。なんていうんだろ」

 危なっかしい弟かあ。カズ先輩って面倒見いいもんね。俺の愚痴なんて聞いてても楽しくないだろうに、いつもゆっくり聞いてくれるし。あんなお兄さんがいたらいいよね。
 渡辺さんが時計を見て慌てて立ち上がる。

「じゃ、わたしそろそろ帰るー。もう二人もあがっちゃおうよ」
「そだねー。相田も、明日でいいじゃん」

 渡辺さんは帰る準備。日下ちゃんもパソコンをシャットダウンして立ち上がる。
 俺も手元の仕事を見て、たしかに明日でもいいなと。

「よーし、ちょっと早いけど。あ、俺、閉めて出ますよー」
「ありがとー」
「先輩によろしくー」

 二人が帰っていくので、俺はオフィスの戸締り。時計を見ると、午後七時四十五分。八時半にはって言ったな。鍵を閉めながら、カズ先輩に電話してみる。
 出るかな?
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