エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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番外編2

1 何気ない休日

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 すごくいい天気になった。布団を干す日和。
 マットレスは二つ折りなので、折って立てて、ベランダに続く掃き出し窓を開けて風を通し、カーテンを開けて陽を当てる。埃っぽさのない朝、どこからか植物の香りが漂ってくる。
 五月、土曜日、午前七時。

「多紀くん、ごはんできたよー」
「はあい」

 あとで掃除機を掛けようと思いながら寝室を出る。リビングダイニングキッチン。対面式のキッチンにカウンターテーブルをくっつけている。
 朝食担当の和臣さんが、カウンターテーブルに朝食を並べていく。
 雑穀米、里芋と人参とごぼうと油揚げとねぎの味噌汁、卵焼き、大根おろしを添えた焼き鮭。ほうれん草とベーコンの巣ごもり卵は俺の好きなメニュー。昨日の筑前煮、納豆、サラダ。
 和臣さんの作る味噌汁、具だくさんで美味しいんだ。

「いただきまーす」

 テーブルに並んで掛けて、声を揃えて手を合わせる。最近、朝食を食べることにも慣れてきた。体調がよくなった気がする。美味しい。

「いつもありがとうございます。美味しいです」

 和臣さんは満面の笑み。

「よかった」

 でも料理までできるなんて反則だよな。完璧みたいなひと。いったい何ができないんだろ。苦手なものって何だっけ。
 あ、試験に弱いんだったか。女性への苦手意識は今は減ってるんだったな。だけど基本的には人間嫌い。そしてコミュニケーションも好きじゃないほう。
 もうパクチーは食べたくないって言ってたな。実は甘味噌も苦手だとか。
 あと性的嗜好がやばい。
 俺は食べながら訊ねる。

「今日はどうされるんですか?」
「んー、午前中は予備校。十二時まで。午後は家で勉強するつもり」
「了解です。お昼はどうします? 俺、作りましょうか。それとも外で食べます?」
「作ってくれる?」
「OKです。何か食べたいものはありますか?」

 まあ答えは知ってるけどね。

「多紀くんの作るものだったら何でも」
「了解です」

 最初は献立に困る返答だなと思っていたんだけど、和臣さんは心からそう思っているらしいので、気負うのはやめにした。好きに作ってる。
 といってもレパートリーが少ないので、ガッツリ系の丼ものと、片手鍋で鍋料理。味付けに失敗したらカレー味にしちゃうし。
 和臣さんの繊細さとは比べ物にならないくらい男飯。
 朝食を終えて、一緒に片づけをして、歯を磨いて、和臣さんは勉強道具を用意。

「じゃあ、行ってくるね」
「はあい。あ、玄関閉めますねー」

 リュックを背負って歩いていく和臣さんの背中を追っていく。
 靴を履いて、和臣さんは振り返る。キスが降ってくる。身長差が十八センチあるので、文字通り降ってくるという感じ。目を閉じて顔をあげる。
 唇が離れたので目を開けると、ぎゅうぎゅう抱かれる。背が高いの羨ましい。
 離れたなと思ったら、首に触れたり頬を両手で挟んだりしながらまたキスしてくる。舌まで入れてくるし。やむなく応じつつ。
 間に合うのかな。
 俺の視線に気づき、和臣さんはしょげてる。顔を見合わせたまま。

「そんな、早く行けば? って顔、しないでほしい……」
「えっ、してないですよ?」
「そう?」
「でも早く行かなくて大丈夫なのかな? とは思ってます」
「多紀くんも連れていきたい……」

 連れていってどうするのさ。でも最近やっと、この人の思考回路がわかってきた。俺の傍にいたいんだな、物理的に。
 そこで、俺は思いついた。

「ああ、じゃあ、財布とってくるんで、昼飯の買い物に行くついでに送りましょうか」
「嬉しい。けど」
「え、まだ何か?」

 文句でも?

「買い物ついでに送るんじゃなくて、送るついでに買い物に行く、にしてほしい……」

 手がかかる。どっちも変わらないだろうに。やっぱりよくわからない。
 俺は脱力しつつ、言い直してあげる。

「……予備校に送るついでに、昼飯の買い物します。財布とってきます」

 和臣さんは笑顔。目をきらきらさせてる。

「うん! うん……!」

 和臣さんは俺の首に唇を寄せながらきつく抱きついてくる。
 しっぽを振ってるのが見える。これは千切れんばかりに振ってる大型犬だね。
 なお、猛犬につき注意。

「駅ですよね?」
「徒歩にする。予備校の前まで送ってほしい」
「わかりました」

 本当に手がかかる。駅なら三分だけど、徒歩だと二十分くらいの距離だよ。

「あっ、一緒に買い物しようかな……」

 間に合うの?




 <何気ない休日 終わり>
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