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番外編1 バンコクの出来事
一日目⑥* なにかのお祝い
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和臣さんの精液を飲み下した直後、ピンポンとチャイムが鳴った。
来客?
和臣さんは顔をあげて玄関のほうを見て、あ、と気づく。息を整えながら。
「そうだ、晩ごはん頼んだんだ。多紀くん。おなかすいてない? 少し早いけど。てきとうに頼んじゃってごめん」
「あ……いえ、大丈夫です」
そうか、腹減ったかも。
続きができないのは残念というか、また勃起してるけど。どうしようね、これ。
俺の視線に、和臣さんは苦笑してる。
「可愛い、多紀くん。とりあえず受け取ってくる」
俺の唇に指で触れてくる。
少し開けた隙間に滑り込んでくる和臣さんの親指を、俺はうらめしく噛む。
和臣さんの吐息。
「悪い子だね」
「……はい」
和臣さんは残念そうに指を抜いてキスしてくる。それから下着を履き、ジーンズを履いて、Tシャツを着ながらベッドをおりていく。
俺もTシャツを着たり、下着を履いたり。
カーゴパンツを履いて寝室を出ていくと、先ほどのタクシー運転手のお兄さんが袋を置いて去っていくところだった。あ、買ってきてくれるように頼んでおいたのか。
ダイニングテーブルの上で、和臣さんはタクシー運転手のお兄さんから受け取った袋を開ける。
うわああ、急におなかすいてくる。
スパイシーな香りがふわっと漂って、ダイニングを支配する。
紙に巻かれていたり、パックに入っているのを出しながら開けていく。
和臣さんが解説。
「これがムービン。豚肉の串焼き。こっちが同じく豚のノド肉のあぶり焼き、コームーヤーン。柔らかいよ。カオカームー。豚足煮込みごはん」
口の中に唾液が溢れてくる。
「肉……!」
「こっちがプーパッポンカリー。カニと卵のカレー。多紀くん、カニって食べられる? そういえば、多紀くんってシーフードを食べてるイメージがないね」
「食べられます!」
「それはよかった。好き?」
「好きです。だけど、肉はちょっといい外食枠で、海産物はお祝いごとのときに食べる、みたいな慣習があって、滅多に食べなかったので、なんとなくいまだに手が出ないというか」
俺んち、貧乏だったからさ。
和臣さんはくすくす笑っている。
「じゃ、今日はお祝いだからちょうど良かったねえ」
「え、なんのですか?」
「多紀くんが来てくれたお祝い」
ごく自然に和臣さんはそう言った。
その言葉や気持ちが俺にとってどれほど嬉しいのかなんて、この人はきっと意識してないだろうし、気づかないんだろうな。
「へへ」
ダイニングテーブルの上は料理でいっぱいになっていく。お祝いごとみたいに。
「ソムタム。パパイヤのサラダ」
「へえ」
「マンゴー。美味しいよ」
「デザートですね」
「うん。あ、冷蔵庫にお水が入ってるから、出してもらってもいい? グラスは引き出し」
「はぁい」
俺は言われたとおり用意していく。
ミネラルウォーターのボトルと、グラスをふたつ出してテーブルに置く。
「この店の料理、美味しいんだ」
「美味しそうなにおいしてます」
「多紀くんと一緒にいられて嬉しいな……」
こっちではフォークとスプーンを使って食べるんだよ、と、和臣さんは幸せそうに微笑みながら言った。
<番外編 バンコクの出来事 終わり>
来客?
和臣さんは顔をあげて玄関のほうを見て、あ、と気づく。息を整えながら。
「そうだ、晩ごはん頼んだんだ。多紀くん。おなかすいてない? 少し早いけど。てきとうに頼んじゃってごめん」
「あ……いえ、大丈夫です」
そうか、腹減ったかも。
続きができないのは残念というか、また勃起してるけど。どうしようね、これ。
俺の視線に、和臣さんは苦笑してる。
「可愛い、多紀くん。とりあえず受け取ってくる」
俺の唇に指で触れてくる。
少し開けた隙間に滑り込んでくる和臣さんの親指を、俺はうらめしく噛む。
和臣さんの吐息。
「悪い子だね」
「……はい」
和臣さんは残念そうに指を抜いてキスしてくる。それから下着を履き、ジーンズを履いて、Tシャツを着ながらベッドをおりていく。
俺もTシャツを着たり、下着を履いたり。
カーゴパンツを履いて寝室を出ていくと、先ほどのタクシー運転手のお兄さんが袋を置いて去っていくところだった。あ、買ってきてくれるように頼んでおいたのか。
ダイニングテーブルの上で、和臣さんはタクシー運転手のお兄さんから受け取った袋を開ける。
うわああ、急におなかすいてくる。
スパイシーな香りがふわっと漂って、ダイニングを支配する。
紙に巻かれていたり、パックに入っているのを出しながら開けていく。
和臣さんが解説。
「これがムービン。豚肉の串焼き。こっちが同じく豚のノド肉のあぶり焼き、コームーヤーン。柔らかいよ。カオカームー。豚足煮込みごはん」
口の中に唾液が溢れてくる。
「肉……!」
「こっちがプーパッポンカリー。カニと卵のカレー。多紀くん、カニって食べられる? そういえば、多紀くんってシーフードを食べてるイメージがないね」
「食べられます!」
「それはよかった。好き?」
「好きです。だけど、肉はちょっといい外食枠で、海産物はお祝いごとのときに食べる、みたいな慣習があって、滅多に食べなかったので、なんとなくいまだに手が出ないというか」
俺んち、貧乏だったからさ。
和臣さんはくすくす笑っている。
「じゃ、今日はお祝いだからちょうど良かったねえ」
「え、なんのですか?」
「多紀くんが来てくれたお祝い」
ごく自然に和臣さんはそう言った。
その言葉や気持ちが俺にとってどれほど嬉しいのかなんて、この人はきっと意識してないだろうし、気づかないんだろうな。
「へへ」
ダイニングテーブルの上は料理でいっぱいになっていく。お祝いごとみたいに。
「ソムタム。パパイヤのサラダ」
「へえ」
「マンゴー。美味しいよ」
「デザートですね」
「うん。あ、冷蔵庫にお水が入ってるから、出してもらってもいい? グラスは引き出し」
「はぁい」
俺は言われたとおり用意していく。
ミネラルウォーターのボトルと、グラスをふたつ出してテーブルに置く。
「この店の料理、美味しいんだ」
「美味しそうなにおいしてます」
「多紀くんと一緒にいられて嬉しいな……」
こっちではフォークとスプーンを使って食べるんだよ、と、和臣さんは幸せそうに微笑みながら言った。
<番外編 バンコクの出来事 終わり>
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