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5 ある休み明け(多紀視点)
四 気持ちの整理
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東京、赤羽。
午後七時。
洋風居酒屋の半個室で男女八人。高校のときの同級生で、結婚式で再会したメンバーの一部。飲み会。前川さんがいたので、俺はその隣に座る。
乾杯の後、ビールを呑みながら。
「今日、片野さん来てないんだ?」
と、俺は訊ねた。
和臣さんのことが長きにわたって好きだった女子。今日、全部喋るくらいのつもりで来たのに。申し訳ないけど言えなかったって。これからも言えないって。
前川さんは答えた。
「あ、萌ちゃん? 引っ越したんだよ、札幌に」
「え、遠いね。仕事か何か?」
「結婚して旦那さんについていってねー」
俺はビールを噴き出した。
「ええ!? 結婚!? マジで!?」
「ちょ、森下くん。そんな驚かなくても……」
「ごめん、でも、なんか、ほら、紹介してって言われてたから。いや、やっぱできなくってゴメンって話をしに来たんだけどさ……」
「あ、小野寺先輩のこと?」
「うん。うーん、諦められたならいいんだけど」
「実はさ、次の人に行く前に気持ちの整理つけたいっていってたんだよね」
「そうだったんだ……」
力になれなくて申し訳ないな。でも、いま幸せになれたのなら、いいか……。
前川さんは笑った。
「ほら、あのとき、小野寺先輩、わたしたちのことなんてぜんぜん興味なさそうというか、相手にしてなかったし……。あれで諦めたんじゃないかな」
「感じ悪かったよね、あの人」
「つれないのは昔からだから。萌ちゃん、小野寺先輩は相変わらず森下くんしか見てなくて笑えるって真顔で言ってたよ」
「……」
なんか片野さんにはバレてる感じがするね。
「森下くんのことしか好きじゃないとは知ってたけどいまだにそうなんだね。いや、へんな意味じゃなくて」
へんな意味だったんだけどさ……。
高校のときから傍目にそう見えるんだから、知らなかったのはマジで俺だけなのか。そういえば、高校のときに先生たちからも、森下は小野寺に好かれてるなぁなんて言われたっけ。そんな関わった覚え、ないんだけどな……。
言い寄ってくる女子が苦手なのは知ってた。うるさいって顔してるから。
俺も女子に負けずうるさいほうなのに、なんでなのかな。やっぱり、なにか誤解があったせいなのかな。差し入れは食ってないだろうから、片野さんが天使説は、ないと思うんだけど。
「東京に戻ってきたんだ? また転職?」
「ううん。大阪の会社だけど、東京オフィスを開設することになって、異動で戻ったんだ」
「あ、そうなんだ。落ち着いた?」
「いまはね」
年収もあがったし、仕事は楽しいし、頑張りたいな。西さんは言えば何でも聞いてくれる。せっかく挑戦できる環境なんだから、何ができるのか考えながら、色々やっていきたい。和臣さんは頑張ってる。俺は俺で仕事を頑張りたい。すごく前向き。
「彼女はいるんだっけ?」
あ、きょう指輪してない。説明が面倒だと思って外してきてしまった。
「いないよ」
彼女って訊かれるといないとしか言いようがない。かといって恋人と言い直したら意味深になるし、説明できない。会社で彼女がいるってことにしたら後が大変だったし。
和臣さん。
今頃なにしてるだろ。勉強かな。ちゃんと勉強しててえらいな。
あの人、恋愛感情を持って接してくる人が苦手なんだよな。たぶん。だから、葉子さんは実は大丈夫なんだわ。葉子さん、和臣さんに興味ないから。中身オッサンだし。
今日遅いのかな。
「森下くん、聞いてる?」
前川さんの言葉に、俺は顔をあげる。
「あ、ごめん。ぼけっとしてた」
前川さんが覗き込んでくる。
「今度、遊びに行かない?」
「……え?」
「ふたりで」
午後七時。
洋風居酒屋の半個室で男女八人。高校のときの同級生で、結婚式で再会したメンバーの一部。飲み会。前川さんがいたので、俺はその隣に座る。
乾杯の後、ビールを呑みながら。
「今日、片野さん来てないんだ?」
と、俺は訊ねた。
和臣さんのことが長きにわたって好きだった女子。今日、全部喋るくらいのつもりで来たのに。申し訳ないけど言えなかったって。これからも言えないって。
前川さんは答えた。
「あ、萌ちゃん? 引っ越したんだよ、札幌に」
「え、遠いね。仕事か何か?」
「結婚して旦那さんについていってねー」
俺はビールを噴き出した。
「ええ!? 結婚!? マジで!?」
「ちょ、森下くん。そんな驚かなくても……」
「ごめん、でも、なんか、ほら、紹介してって言われてたから。いや、やっぱできなくってゴメンって話をしに来たんだけどさ……」
「あ、小野寺先輩のこと?」
「うん。うーん、諦められたならいいんだけど」
「実はさ、次の人に行く前に気持ちの整理つけたいっていってたんだよね」
「そうだったんだ……」
力になれなくて申し訳ないな。でも、いま幸せになれたのなら、いいか……。
前川さんは笑った。
「ほら、あのとき、小野寺先輩、わたしたちのことなんてぜんぜん興味なさそうというか、相手にしてなかったし……。あれで諦めたんじゃないかな」
「感じ悪かったよね、あの人」
「つれないのは昔からだから。萌ちゃん、小野寺先輩は相変わらず森下くんしか見てなくて笑えるって真顔で言ってたよ」
「……」
なんか片野さんにはバレてる感じがするね。
「森下くんのことしか好きじゃないとは知ってたけどいまだにそうなんだね。いや、へんな意味じゃなくて」
へんな意味だったんだけどさ……。
高校のときから傍目にそう見えるんだから、知らなかったのはマジで俺だけなのか。そういえば、高校のときに先生たちからも、森下は小野寺に好かれてるなぁなんて言われたっけ。そんな関わった覚え、ないんだけどな……。
言い寄ってくる女子が苦手なのは知ってた。うるさいって顔してるから。
俺も女子に負けずうるさいほうなのに、なんでなのかな。やっぱり、なにか誤解があったせいなのかな。差し入れは食ってないだろうから、片野さんが天使説は、ないと思うんだけど。
「東京に戻ってきたんだ? また転職?」
「ううん。大阪の会社だけど、東京オフィスを開設することになって、異動で戻ったんだ」
「あ、そうなんだ。落ち着いた?」
「いまはね」
年収もあがったし、仕事は楽しいし、頑張りたいな。西さんは言えば何でも聞いてくれる。せっかく挑戦できる環境なんだから、何ができるのか考えながら、色々やっていきたい。和臣さんは頑張ってる。俺は俺で仕事を頑張りたい。すごく前向き。
「彼女はいるんだっけ?」
あ、きょう指輪してない。説明が面倒だと思って外してきてしまった。
「いないよ」
彼女って訊かれるといないとしか言いようがない。かといって恋人と言い直したら意味深になるし、説明できない。会社で彼女がいるってことにしたら後が大変だったし。
和臣さん。
今頃なにしてるだろ。勉強かな。ちゃんと勉強しててえらいな。
あの人、恋愛感情を持って接してくる人が苦手なんだよな。たぶん。だから、葉子さんは実は大丈夫なんだわ。葉子さん、和臣さんに興味ないから。中身オッサンだし。
今日遅いのかな。
「森下くん、聞いてる?」
前川さんの言葉に、俺は顔をあげる。
「あ、ごめん。ぼけっとしてた」
前川さんが覗き込んでくる。
「今度、遊びに行かない?」
「……え?」
「ふたりで」
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