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5 ある休み明け(多紀視点)
三 山手線ゲーム
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何回やってたんだろ。
くたくた。やっと抜いてお互いにシャワーを浴びて、シャツや下着やハーフパンツをはいて、寝ようと横たわる。
和臣さんの腕の中。
こうやって寝るのはずっと慣れなかったけど、最近はやっと慣れてきた。人肌は気持ちいいし、包み込まれるみたいで優しい。
とくにエッチした後は、体を気遣ってくれて下にも置かない扱い。
和臣さん、ずいぶん変わったな。前みたいな必死さがなくて、精神的に安定してる。俺の記憶がないのは、やっぱり安心なのか。まあそうだよな。何も気にせず恋人同士ができる。
時々俺が腕枕をしてあげると、和臣さんはめちゃくちゃ喜ぶ。肩を抱いて額にキスするとさらに喜ぶ。俺は変わってないよ。嬉しいならそうしてあげる。
「寒くない?」
「ないです」
「暑くない?」
「ないです」
いい季節。暑くもなく寒くもなく、くっついているとあったかい。
和臣さんは呟いた。
「離れたくない……」
「はい……」
「あったかくて気持ちいいね」
「はい」
胸に頬を寄せる。重たいかなと思ったけれど、和臣さんは俺の額に頬ずりして、肩を抱いてくる。
「多紀くん、俺しあわせすぎて……いま死にたいくらい」
なにいってんだろ。
俺は笑いながら言う。
「まだ幸せなこと、これからもたくさんありますよ。いちばん上じゃないですよ。死んじゃっていいんですか?」
「いちばん幸せなときに死にたいな……」
この人、根は暗いんだな。
「俺は、オッサンとかジイさんになって、昔のこと思い出して人生の幸せランキングを作りたい派です」
それを聞いて、和臣さんはわくわくしてる。嬉しそう。
「どんなことをする?」
「一緒に暮らしはじめたばかりでしょ? ごはんも作らないとですし、料理できるようになりたいし」
一応、簡単な晩飯を用意するようにはなったけれど、休日にふたりで副菜を作り置きしてあって、あとは汁物、肉や魚を焼くだけ。
ちなみにごはんは和臣さんが朝のうちに準備してくれている。
生活力あげたいなあ。
「料理、教えてあげる。一緒に料理動画を観ながら、作ってみようね」
「先輩、和食好きですよね」
「うん」
「和食も作れるように、がんばりますね」
「ありがと。でも、多紀くんの好きなものから始めようよ。そのほうがいいよ」
「でも俺は焼いた肉が好きなだけですからねえ」
「わかりやすくていいね。そうだ、世界中の肉料理を全部作ってみるのはどう?」
「おっ、いいですね。面白そう」
世界中の肉料理か。
どんなのがあるんだろう。
「世界の肉料理……なんだろ。焼肉以外思い浮かばないです」
「ローストビーフは好き? 表面しか焼いてないけど」
「好きです。何枚でもいけちゃう。バーベキューとか?」
「ガイヤーン。タイの焼きとり」
「んー、ステーキ」
「トンポーロー。角煮のこと」
これは山手線ゲームだな。
俺たちはうつ伏せて枕を抱え、胸を起こして肘を突いて、『世界の肉料理』というお題に思いを馳せる。
「ケバブ!」
「シュラスコ。ブラジルの串焼き」
「……フォアグラ?」
「モツもありにする? 幅が広くなるね。ハギス」
「とんかつ!」
「サムギョプサル」
「ソーセージはどうですか?」
「ありかな。北京ダック」
「ハム!」
「キドニーパイ」
「チキンナゲット……!」
「シュクメルリ。ジョージア料理」
「ファミチキ!」
「パテ・ド・カンパーニュ」
絶対に勝てない気がしてきた。
和臣さんって海外赴任していないときにも営業時代には海外出張に頻繁に行っていたし、世界の肉料理には相当詳しいだろうな。
俺と違って一度聞いたら覚えていそうだし。俺不利じゃない?
プロ野球選手の名前とか、ファストフードのメニューとか、アニメキャラの名前にすべきだったな。次はそうしよう。
「ねえ、多紀くん」
「うう……つくね……」
「アロスティチーニ。イタリアのラム肉の串焼き。ねえ、罰ゲームはどうする?」
「えええ! 罰ゲームありですか? あ、ハンバーグ! 忘れてました!」
「シュバイネハクセ。ドイツ料理」
「なにそれえ……」
「豚の脚のロースト。ザワークラウトと一緒に食べた。ミュンヘンで」
「ななチキ!」
和臣さんはくすくす笑いながら許してくれる。
「スペアリブ」
「このままじゃ負けちゃう……マンガ肉はどうですか……」
「えー……、あ、食べてみたいからアリかな。フリカッセ」
「ベーコン!」
「ターフェルシュピッツ。ウィーンで食べた、オーストリアの牛肉料理」
「見たことも聞いたこともないです……」
「じゃあ、しゃぶしゃぶ」
「それ俺にください!」
「いいよ?」
「しゃぶしゃぶ!」
「すき焼き」
「それもください~!」
「いいよ。ビーフストロガノフ」
「すき焼き!」
「からあげ」
「かっ、からあげクンのレッド!」
「さすがにナシ」
「ああああ」
「あはは!」
俺が負けを認めて頭を抱えていると和臣さんは嬉しそうに笑っている。俺もひとしきり叫んで笑う。
「これ以上思いつかないです!」
「チャーシュー、サラミ、ルンダン、グヤーシュ、馬刺し、ジンギスカン、ポルケッタ、レチョン……」
「絶対勝てない……!」
「多紀くんが……俺に勝つ?」
「あっ! 本音ですねそれ!」
「えへへ」
罰ゲーム代わりだと言って、和臣さんは俺の肩にすり寄ってくる。引き寄せられる。重なって笑い合っていると楽しい。
気持ちよくてうつらうつらしながら俺は言った。
「……ここ、ベランダから花火が観れるらしいですよ。こないだエントランスで下の階の人に聞きました」
「ちょっとひらけてるもんね」
「一緒に観ましょ。ビールでも呑みながら」
「明日にでも夏になればいいのに……」
「あっという間ですよ。夏までに、さっきの肉料理作りましょ。ビールに合うやつ。からあげは鉄板」
俺がそう言うと、和臣さんはうんと頷いて、俺の名前を呼びながら、俺の髪を撫でながら、強く抱きしめてくる。
俺はその背を柔らかく抱いて、とんとんしたり、同じように髪に触れて撫でてみたり。
しばらくして離れて、どちらからともなく口づけた。
くたくた。やっと抜いてお互いにシャワーを浴びて、シャツや下着やハーフパンツをはいて、寝ようと横たわる。
和臣さんの腕の中。
こうやって寝るのはずっと慣れなかったけど、最近はやっと慣れてきた。人肌は気持ちいいし、包み込まれるみたいで優しい。
とくにエッチした後は、体を気遣ってくれて下にも置かない扱い。
和臣さん、ずいぶん変わったな。前みたいな必死さがなくて、精神的に安定してる。俺の記憶がないのは、やっぱり安心なのか。まあそうだよな。何も気にせず恋人同士ができる。
時々俺が腕枕をしてあげると、和臣さんはめちゃくちゃ喜ぶ。肩を抱いて額にキスするとさらに喜ぶ。俺は変わってないよ。嬉しいならそうしてあげる。
「寒くない?」
「ないです」
「暑くない?」
「ないです」
いい季節。暑くもなく寒くもなく、くっついているとあったかい。
和臣さんは呟いた。
「離れたくない……」
「はい……」
「あったかくて気持ちいいね」
「はい」
胸に頬を寄せる。重たいかなと思ったけれど、和臣さんは俺の額に頬ずりして、肩を抱いてくる。
「多紀くん、俺しあわせすぎて……いま死にたいくらい」
なにいってんだろ。
俺は笑いながら言う。
「まだ幸せなこと、これからもたくさんありますよ。いちばん上じゃないですよ。死んじゃっていいんですか?」
「いちばん幸せなときに死にたいな……」
この人、根は暗いんだな。
「俺は、オッサンとかジイさんになって、昔のこと思い出して人生の幸せランキングを作りたい派です」
それを聞いて、和臣さんはわくわくしてる。嬉しそう。
「どんなことをする?」
「一緒に暮らしはじめたばかりでしょ? ごはんも作らないとですし、料理できるようになりたいし」
一応、簡単な晩飯を用意するようにはなったけれど、休日にふたりで副菜を作り置きしてあって、あとは汁物、肉や魚を焼くだけ。
ちなみにごはんは和臣さんが朝のうちに準備してくれている。
生活力あげたいなあ。
「料理、教えてあげる。一緒に料理動画を観ながら、作ってみようね」
「先輩、和食好きですよね」
「うん」
「和食も作れるように、がんばりますね」
「ありがと。でも、多紀くんの好きなものから始めようよ。そのほうがいいよ」
「でも俺は焼いた肉が好きなだけですからねえ」
「わかりやすくていいね。そうだ、世界中の肉料理を全部作ってみるのはどう?」
「おっ、いいですね。面白そう」
世界中の肉料理か。
どんなのがあるんだろう。
「世界の肉料理……なんだろ。焼肉以外思い浮かばないです」
「ローストビーフは好き? 表面しか焼いてないけど」
「好きです。何枚でもいけちゃう。バーベキューとか?」
「ガイヤーン。タイの焼きとり」
「んー、ステーキ」
「トンポーロー。角煮のこと」
これは山手線ゲームだな。
俺たちはうつ伏せて枕を抱え、胸を起こして肘を突いて、『世界の肉料理』というお題に思いを馳せる。
「ケバブ!」
「シュラスコ。ブラジルの串焼き」
「……フォアグラ?」
「モツもありにする? 幅が広くなるね。ハギス」
「とんかつ!」
「サムギョプサル」
「ソーセージはどうですか?」
「ありかな。北京ダック」
「ハム!」
「キドニーパイ」
「チキンナゲット……!」
「シュクメルリ。ジョージア料理」
「ファミチキ!」
「パテ・ド・カンパーニュ」
絶対に勝てない気がしてきた。
和臣さんって海外赴任していないときにも営業時代には海外出張に頻繁に行っていたし、世界の肉料理には相当詳しいだろうな。
俺と違って一度聞いたら覚えていそうだし。俺不利じゃない?
プロ野球選手の名前とか、ファストフードのメニューとか、アニメキャラの名前にすべきだったな。次はそうしよう。
「ねえ、多紀くん」
「うう……つくね……」
「アロスティチーニ。イタリアのラム肉の串焼き。ねえ、罰ゲームはどうする?」
「えええ! 罰ゲームありですか? あ、ハンバーグ! 忘れてました!」
「シュバイネハクセ。ドイツ料理」
「なにそれえ……」
「豚の脚のロースト。ザワークラウトと一緒に食べた。ミュンヘンで」
「ななチキ!」
和臣さんはくすくす笑いながら許してくれる。
「スペアリブ」
「このままじゃ負けちゃう……マンガ肉はどうですか……」
「えー……、あ、食べてみたいからアリかな。フリカッセ」
「ベーコン!」
「ターフェルシュピッツ。ウィーンで食べた、オーストリアの牛肉料理」
「見たことも聞いたこともないです……」
「じゃあ、しゃぶしゃぶ」
「それ俺にください!」
「いいよ?」
「しゃぶしゃぶ!」
「すき焼き」
「それもください~!」
「いいよ。ビーフストロガノフ」
「すき焼き!」
「からあげ」
「かっ、からあげクンのレッド!」
「さすがにナシ」
「ああああ」
「あはは!」
俺が負けを認めて頭を抱えていると和臣さんは嬉しそうに笑っている。俺もひとしきり叫んで笑う。
「これ以上思いつかないです!」
「チャーシュー、サラミ、ルンダン、グヤーシュ、馬刺し、ジンギスカン、ポルケッタ、レチョン……」
「絶対勝てない……!」
「多紀くんが……俺に勝つ?」
「あっ! 本音ですねそれ!」
「えへへ」
罰ゲーム代わりだと言って、和臣さんは俺の肩にすり寄ってくる。引き寄せられる。重なって笑い合っていると楽しい。
気持ちよくてうつらうつらしながら俺は言った。
「……ここ、ベランダから花火が観れるらしいですよ。こないだエントランスで下の階の人に聞きました」
「ちょっとひらけてるもんね」
「一緒に観ましょ。ビールでも呑みながら」
「明日にでも夏になればいいのに……」
「あっという間ですよ。夏までに、さっきの肉料理作りましょ。ビールに合うやつ。からあげは鉄板」
俺がそう言うと、和臣さんはうんと頷いて、俺の名前を呼びながら、俺の髪を撫でながら、強く抱きしめてくる。
俺はその背を柔らかく抱いて、とんとんしたり、同じように髪に触れて撫でてみたり。
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