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4 ある休み明け(和臣視点)

十* 非常にまずい状況

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 同期Aのスマホが鳴った。

「あ、西くんと相田くん、来るって」
「え?」
「呼んじゃった。ほら、和臣は相田くんに謝らないと。近くでごはん食べてるみたいだよ。合流合流!」

 多紀くんに会いたいな。俺は反射的にそう思う。まだ怒ってるのかな。謝らないと。
 ああ、いつだって会いたい。そうか、N社長と食事してたのか。N社長、なつかれていてずるい。俺も多紀くんの上司になりたい。転職したい。
 いや、待てよ……? もし俺がN社長の会社に入社したら、多紀くんが俺の先輩か。悪くない。むしろイイ。とてもイイ。
 相田先輩に仕事を教えてもらいたい。隣のデスクがいい。手取り足取り。相田先輩と呼びながら犯してみたい。
 営業成績で負けたほうは勝ったほうの言うことをきく勝負をしたい。何をさせようかな……。裸エプロン、コスプレ、あ、高校のときの制服。あ、やめよう。妄想を振り払う。勃ちそう。
 酒を飲みながらじりじり待っていると、個室のドアがノックされた。見る。失礼します、といって入ってきたのは多紀くん。
 可愛い可愛い可愛い可愛い。
 不機嫌な顔はしていない。目が合う。そらされる。悲しい。
 でも一所懸命そらしている様子が可愛い。まだ怒っている。可愛い。どんな表情でも可愛い。色んな表情を見たい。

「こんばんはー」

 その後ろからN社長。

「おっ、皆さんお揃いで!」

 皆がふたりを歓迎する。N社長は俺たちの教育係で、面倒見のいい人。
 ちょうど、端っこの俺の隣が空いている。お誕生日席。N社長と多紀くんが身を寄せて座る。
 N社長はなぜ俺を差し置いて多紀くんと身を寄せ合っているの?

「よ。小野寺くん」
「先日はお邪魔しました」

 会釈していると、向かいの同期Aが多紀くんに言う。

「相田くん、和臣が謝罪するって」
「へ!?」
「喧嘩したんでしょ? ほら和臣ごめんなさいだよ」
「ごめんなさい」

 頭を下げる。許してほしい。俺は付ける薬のない、嫉妬深くて面倒な男。

「いや、頭あげてください……。ああ、完全に酔っぱらってますね。カズ先輩」
「ヤケ酒かな。相当呑んでたよ」
「喧嘩したのそんなショックだったんだ。小野寺も落ち込むことあるんだな」
「小野寺、相田くんのことめっちゃ好きやもん」
「やっぱルームシェアはさ、下の者が我慢しがちだから。ただでさえ後輩なんだし。和臣のほうが気を遣わないと」
「いえ、カズ先輩は、いつも気を遣ってくれてて……。俺もよくなかったんで……」

 とそこにN社長が驚きの声をあげる。

「え!? 相田くん、小野寺とルームシェアしてんの!? 初耳なんやけど!」
「あ、はい」

 多紀くん、N社長に言ってなかったんだ。意外。

「婚期遠のかへん?」
「まあ、はい」
「大阪の彼女は?」

 大阪の彼女? 聞いてない。新たな火種。許さない。

「えーっと……」
「相田くん、大阪で彼女できたの!? どんな子!?」

 同期Bの質問に、N社長が答える。

「甘えたがりの年上すっぴん美人!」

 俺は訊ねる。

「多紀くん。大阪で彼女できたの?」

 聞いてないよ?
 多紀くんは焦って大慌て。可愛い。
 甘えたがりの年上すっぴん美人は、おそらく俺。自分で言うのもなんだけど。

「えっ、えっと、えっと……? そ、それより、カズ先輩はどうなんですか。と、とっかえひっかえ!」
「してない! 言ったでしょ!?」
「相田くん、小野寺には、例の天使がいるから」
「天使……」

 多紀くんは複雑そうな顔をしている。可愛い。俺の好きな人。同期A又はBから何か聞いているのか。いつのことだろう。おそらく記憶を失う前。
 多紀くんに再度告白したときに、俺にとって天使だと伝えた。自分のことだとわかるはず。

「相田くん、やっぱり知ってるんじゃないの、和臣の天使」
「し、知らないです、全然!」

 多紀くんは、首をぶんぶん横に振る。

「ほんとー?」
「ほんと、だって俺、カズ先輩とは……い、委員会で一緒だっただけですし!」

 同期Aから同期Iまで、全員が揃って俺を見る。
 沈黙。
 説明できない。頭が回らない。呑みすぎた。
「天使って何?」とか「あ、これうまいやん」と、N社長がのんびり言いながら何かをもそもそ食べてる。
 多紀くんは空気を読んで、何かまずいことを言ったかという顔をしている。可愛い。
 でも非常にまずいね。




 <次の章に続く>
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