エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
上 下
95 / 366
4 ある休み明け(和臣視点)

四 甘えてくる

しおりを挟む
 髪の毛を拭きながら風呂から上がると、湯上がりの多紀くんがリビングのラグの上で寝転がっていた。
 多紀くんは、リビングで寝転がるのが好き。広い部屋を余程お気に召しているらしく、引っ越してきた当初からラグで大の字になっている姿を頻繁に見かける。微笑ましい。
 実家で飼っているラブラドールレトリバーの太郎と次郎と似ている。気が合いそう。
 傍らで体育座りすると、起き上がりこぼしみたいに起き上がる。
 多紀くんと俺の部屋なんだから、遠慮しなくてもいいのに。
 二人の部屋。響きが良い。二人っきり。新婚みたい。新婚になりたい。新婚がいい。新婚!

「ストレッチします?」
「うん。あとでね」

 そう言うと、多紀くんは肩にもたれかかってきた。

「ほっかほか」

 風呂上がり最高。
 ラグの上で涼んでいるうちに体が冷えた多紀くんに体温が移るように、肩を抱いてみる。視線を合わせる。
 肩や首に触れながら、目を閉じて、そっと唇を重ねていく。
 多紀くんが記憶を失くして半月。
 まだ何も思い出していないというけれど、体のほうは俺との関係をしっかり覚えている。口づけるのも性行為にも抵抗がなかった。
 最初は感じていたと思しき心理的抵抗も、快感には勝てないらしい。
 唇を離すと、多紀くんは俺の胸にすり寄ってくる。

「カズ先輩……」
「多紀くん」

 背中を抱いて、体温を移す。多紀くんがあたたかくなりますように。
 ついばむように口づける。多紀くんも同じように、キスをしてきたり、すり寄ってくる。

「多紀くん、キスするの好きだね」
「好きです……カズ先輩とキスするの」

 甘えてくる多紀くんが可愛い。めちゃくちゃ可愛い。神様に感謝してる。鼻血吹きそう。意識飛びそう。

「……俺以外は?」
「したことないですよ」
「そうなの?」
「先輩だけ。もっとしてください……」

 記憶を失くして、もう一度告白した後、多紀くんはやたら甘えん坊になった。素直に甘えてくる。求めてくる。
 三年前に、多紀くんを無理やり犯した――片想いの末に、思い詰めて。俺も悔やんでいるし、多紀くんも消化できていなかった。
 それからも、何度も無理に体の関係を持った。多紀くんの体が気持ちよすぎて、我慢できなかった。
 抱き合っているだけでも気持ちいい。
 多紀くんも、俺の体は気持ちいいらしい。体の相性がいいらしい。僥倖。

「気持ちいいねー……」
「ですねー」

 きちんと告白していたら、いまのような恋人同士だったのだろうかというと、そうではないと思う。多紀くんの攻略方法は、やはり肉体関係が先行する。徹底的に叩き込んだ快楽を体が覚えていたがためにスムーズに進んだと考えている。
 もし、真正面から告白しても、こんな関係になれたというのならば、幸せだけれど。
 そんなはずはないし。

「多紀くん」
「はい?」
「なんでもない」

 忘れているのは悲しい。
 だけど、もし思い出してしまったら、この時間は失われて、もとの、愛情表現しない多紀くんに戻ってしまうだろう。
 しかし、現在の甘えん坊の理由はわからない。多紀くんは家族や他人に甘えた経験がないはずだから。
 恋人への甘え方なんて、知っているのだろうか。このひっつき虫は俺の真似に見える。記憶はなくてもなんとなく覚えているのか。
 多紀くんの硬質な髪を撫でながら訊ねる。デコ出しのメンズショート。多紀くんは髪がきれい。可愛い。

「中華、何食べたの?」
「天津飯です」
「いいね」
「古くて床が油ぎっててベッタベタの中華屋なんですけど、味は格別なんですよ。今度の休みに、お昼にでも行きますか?」

 N社長が上司だった頃に何度か連れて行ってもらったことがある。新宿。

「行く。多紀くんとデートする」
「デートしましょっか。新宿なんですよ。いい季節だから、新宿御苑を歩きます?」
「うん」

 デートのお誘い。
 俄然、週末が楽しみになってくる。明日にでも休日になればいいのに。
 首の後ろ、顎。耳。側頭部、こめかみ。手のひらで撫でながら指先で辿る。
 多紀くんは自分の顔を平凡だというけれど、そして客観的にはやはり平凡寄りなのだけど、パーツは整っているし、俺の目には何物にも代えがたい。
 見つめて触っていると赤くなっている。熱っぽい。

「カズ先輩……」
「そろそろ寝る?」
「あ……」

 恥ずかしそうに、多紀くんは言った。

「今日、その、します?」

 そんな欲しそうな顔をされたら、すぐに、ベッドとはいわずに今すぐにでもやってしまいたい。

「したくない?」

 恥ずかしそう。
 食べちゃいたい。食べちゃう。気持ちよくなるのを期待している多紀くんが可愛い。犯されたがっている。
 男なのに、そして普段はちゃんと男らしいのに。なのに俺に犯されたがってこんな顔をしている。反則。

「したいです……」

 と言いながら、俺の首に腕を回してくる。

「準備する?」
「さっきお風呂で……今夜、いっぱいしてほしいです……」
「多紀くん、ごめん、俺、もうイきそう」

 俺は顔を押さえ、多紀くんは噴き出した。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...