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4 ある休み明け(和臣視点)
四 甘えてくる
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髪の毛を拭きながら風呂から上がると、湯上がりの多紀くんがリビングのラグの上で寝転がっていた。
多紀くんは、リビングで寝転がるのが好き。広い部屋を余程お気に召しているらしく、引っ越してきた当初からラグで大の字になっている姿を頻繁に見かける。微笑ましい。
実家で飼っているラブラドールレトリバーの太郎と次郎と似ている。気が合いそう。
傍らで体育座りすると、起き上がりこぼしみたいに起き上がる。
多紀くんと俺の部屋なんだから、遠慮しなくてもいいのに。
二人の部屋。響きが良い。二人っきり。新婚みたい。新婚になりたい。新婚がいい。新婚!
「ストレッチします?」
「うん。あとでね」
そう言うと、多紀くんは肩にもたれかかってきた。
「ほっかほか」
風呂上がり最高。
ラグの上で涼んでいるうちに体が冷えた多紀くんに体温が移るように、肩を抱いてみる。視線を合わせる。
肩や首に触れながら、目を閉じて、そっと唇を重ねていく。
多紀くんが記憶を失くして半月。
まだ何も思い出していないというけれど、体のほうは俺との関係をしっかり覚えている。口づけるのも性行為にも抵抗がなかった。
最初は感じていたと思しき心理的抵抗も、快感には勝てないらしい。
唇を離すと、多紀くんは俺の胸にすり寄ってくる。
「カズ先輩……」
「多紀くん」
背中を抱いて、体温を移す。多紀くんがあたたかくなりますように。
ついばむように口づける。多紀くんも同じように、キスをしてきたり、すり寄ってくる。
「多紀くん、キスするの好きだね」
「好きです……カズ先輩とキスするの」
甘えてくる多紀くんが可愛い。めちゃくちゃ可愛い。神様に感謝してる。鼻血吹きそう。意識飛びそう。
「……俺以外は?」
「したことないですよ」
「そうなの?」
「先輩だけ。もっとしてください……」
記憶を失くして、もう一度告白した後、多紀くんはやたら甘えん坊になった。素直に甘えてくる。求めてくる。
三年前に、多紀くんを無理やり犯した――片想いの末に、思い詰めて。俺も悔やんでいるし、多紀くんも消化できていなかった。
それからも、何度も無理に体の関係を持った。多紀くんの体が気持ちよすぎて、我慢できなかった。
抱き合っているだけでも気持ちいい。
多紀くんも、俺の体は気持ちいいらしい。体の相性がいいらしい。僥倖。
「気持ちいいねー……」
「ですねー」
きちんと告白していたら、いまのような恋人同士だったのだろうかというと、そうではないと思う。多紀くんの攻略方法は、やはり肉体関係が先行する。徹底的に叩き込んだ快楽を体が覚えていたがためにスムーズに進んだと考えている。
もし、真正面から告白しても、こんな関係になれたというのならば、幸せだけれど。
そんなはずはないし。
「多紀くん」
「はい?」
「なんでもない」
忘れているのは悲しい。
だけど、もし思い出してしまったら、この時間は失われて、もとの、愛情表現しない多紀くんに戻ってしまうだろう。
しかし、現在の甘えん坊の理由はわからない。多紀くんは家族や他人に甘えた経験がないはずだから。
恋人への甘え方なんて、知っているのだろうか。このひっつき虫は俺の真似に見える。記憶はなくてもなんとなく覚えているのか。
多紀くんの硬質な髪を撫でながら訊ねる。デコ出しのメンズショート。多紀くんは髪がきれい。可愛い。
「中華、何食べたの?」
「天津飯です」
「いいね」
「古くて床が油ぎっててベッタベタの中華屋なんですけど、味は格別なんですよ。今度の休みに、お昼にでも行きますか?」
N社長が上司だった頃に何度か連れて行ってもらったことがある。新宿。
「行く。多紀くんとデートする」
「デートしましょっか。新宿なんですよ。いい季節だから、新宿御苑を歩きます?」
「うん」
デートのお誘い。
俄然、週末が楽しみになってくる。明日にでも休日になればいいのに。
首の後ろ、顎。耳。側頭部、こめかみ。手のひらで撫でながら指先で辿る。
多紀くんは自分の顔を平凡だというけれど、そして客観的にはやはり平凡寄りなのだけど、パーツは整っているし、俺の目には何物にも代えがたい。
見つめて触っていると赤くなっている。熱っぽい。
「カズ先輩……」
「そろそろ寝る?」
「あ……」
恥ずかしそうに、多紀くんは言った。
「今日、その、します?」
そんな欲しそうな顔をされたら、すぐに、ベッドとはいわずに今すぐにでもやってしまいたい。
「したくない?」
恥ずかしそう。
食べちゃいたい。食べちゃう。気持ちよくなるのを期待している多紀くんが可愛い。犯されたがっている。
男なのに、そして普段はちゃんと男らしいのに。なのに俺に犯されたがってこんな顔をしている。反則。
「したいです……」
と言いながら、俺の首に腕を回してくる。
「準備する?」
「さっきお風呂で……今夜、いっぱいしてほしいです……」
「多紀くん、ごめん、俺、もうイきそう」
俺は顔を押さえ、多紀くんは噴き出した。
多紀くんは、リビングで寝転がるのが好き。広い部屋を余程お気に召しているらしく、引っ越してきた当初からラグで大の字になっている姿を頻繁に見かける。微笑ましい。
実家で飼っているラブラドールレトリバーの太郎と次郎と似ている。気が合いそう。
傍らで体育座りすると、起き上がりこぼしみたいに起き上がる。
多紀くんと俺の部屋なんだから、遠慮しなくてもいいのに。
二人の部屋。響きが良い。二人っきり。新婚みたい。新婚になりたい。新婚がいい。新婚!
「ストレッチします?」
「うん。あとでね」
そう言うと、多紀くんは肩にもたれかかってきた。
「ほっかほか」
風呂上がり最高。
ラグの上で涼んでいるうちに体が冷えた多紀くんに体温が移るように、肩を抱いてみる。視線を合わせる。
肩や首に触れながら、目を閉じて、そっと唇を重ねていく。
多紀くんが記憶を失くして半月。
まだ何も思い出していないというけれど、体のほうは俺との関係をしっかり覚えている。口づけるのも性行為にも抵抗がなかった。
最初は感じていたと思しき心理的抵抗も、快感には勝てないらしい。
唇を離すと、多紀くんは俺の胸にすり寄ってくる。
「カズ先輩……」
「多紀くん」
背中を抱いて、体温を移す。多紀くんがあたたかくなりますように。
ついばむように口づける。多紀くんも同じように、キスをしてきたり、すり寄ってくる。
「多紀くん、キスするの好きだね」
「好きです……カズ先輩とキスするの」
甘えてくる多紀くんが可愛い。めちゃくちゃ可愛い。神様に感謝してる。鼻血吹きそう。意識飛びそう。
「……俺以外は?」
「したことないですよ」
「そうなの?」
「先輩だけ。もっとしてください……」
記憶を失くして、もう一度告白した後、多紀くんはやたら甘えん坊になった。素直に甘えてくる。求めてくる。
三年前に、多紀くんを無理やり犯した――片想いの末に、思い詰めて。俺も悔やんでいるし、多紀くんも消化できていなかった。
それからも、何度も無理に体の関係を持った。多紀くんの体が気持ちよすぎて、我慢できなかった。
抱き合っているだけでも気持ちいい。
多紀くんも、俺の体は気持ちいいらしい。体の相性がいいらしい。僥倖。
「気持ちいいねー……」
「ですねー」
きちんと告白していたら、いまのような恋人同士だったのだろうかというと、そうではないと思う。多紀くんの攻略方法は、やはり肉体関係が先行する。徹底的に叩き込んだ快楽を体が覚えていたがためにスムーズに進んだと考えている。
もし、真正面から告白しても、こんな関係になれたというのならば、幸せだけれど。
そんなはずはないし。
「多紀くん」
「はい?」
「なんでもない」
忘れているのは悲しい。
だけど、もし思い出してしまったら、この時間は失われて、もとの、愛情表現しない多紀くんに戻ってしまうだろう。
しかし、現在の甘えん坊の理由はわからない。多紀くんは家族や他人に甘えた経験がないはずだから。
恋人への甘え方なんて、知っているのだろうか。このひっつき虫は俺の真似に見える。記憶はなくてもなんとなく覚えているのか。
多紀くんの硬質な髪を撫でながら訊ねる。デコ出しのメンズショート。多紀くんは髪がきれい。可愛い。
「中華、何食べたの?」
「天津飯です」
「いいね」
「古くて床が油ぎっててベッタベタの中華屋なんですけど、味は格別なんですよ。今度の休みに、お昼にでも行きますか?」
N社長が上司だった頃に何度か連れて行ってもらったことがある。新宿。
「行く。多紀くんとデートする」
「デートしましょっか。新宿なんですよ。いい季節だから、新宿御苑を歩きます?」
「うん」
デートのお誘い。
俄然、週末が楽しみになってくる。明日にでも休日になればいいのに。
首の後ろ、顎。耳。側頭部、こめかみ。手のひらで撫でながら指先で辿る。
多紀くんは自分の顔を平凡だというけれど、そして客観的にはやはり平凡寄りなのだけど、パーツは整っているし、俺の目には何物にも代えがたい。
見つめて触っていると赤くなっている。熱っぽい。
「カズ先輩……」
「そろそろ寝る?」
「あ……」
恥ずかしそうに、多紀くんは言った。
「今日、その、します?」
そんな欲しそうな顔をされたら、すぐに、ベッドとはいわずに今すぐにでもやってしまいたい。
「したくない?」
恥ずかしそう。
食べちゃいたい。食べちゃう。気持ちよくなるのを期待している多紀くんが可愛い。犯されたがっている。
男なのに、そして普段はちゃんと男らしいのに。なのに俺に犯されたがってこんな顔をしている。反則。
「したいです……」
と言いながら、俺の首に腕を回してくる。
「準備する?」
「さっきお風呂で……今夜、いっぱいしてほしいです……」
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