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2 ある聖夜のころ

九 気にしてない

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 オフィスでふたりになったとき、西さんが言ってきた。

「今度のスキルアップ相談会、相田くん進行やってー。資料とパワポは佐伯くんのフォルダの中」
「承知しました」
「あとシステムの子だれでもいいから連れて、東京のほう設定しにいかんとな。また予定言うわー」
「はい」
「こないだ、小野寺、帰ってきてたん?」
「え、あ、はい。先週末にこっち来てました」

 真鍋さんや佐伯さんが言ったのかな。
 二泊三日で来阪、日曜の夜にはちゃんと帰っていった。関西支社希望を取り下げる話、どうなるんだろ。いけるかもしれないから必ず報告するって言ってたからとりあえず待ってる。

「小野寺、大丈夫そう?」
「え? 何がですか?」
「……あ、でも相田くんに言うのもあれか。ごめん」
「……そんなこといわれると、聞きたいです……」
「せやろー? 葉子はさぁ、小野寺が相田くんに言わへんなら、言いたくないんやろっていうけど、俺は相田くんのこと信じてるし、小野寺の味方になってくれるのって相田くんやん?」
「西さん……」

 言いたいんだな。何か聞いてしまって、助けてあげてほしいんだな。優しいな。
 葉子さんが何か言ったんだな。

「報復人事やったんやろ」
「報復人事……?」

 嫌がらせ目的で人事異動させられたりすることだ。

「もともと営業に向いてないのは知ってるねん。むかしいじめられたらしくて女も人間も嫌いで非営業志望やったのに、営業部入ることなって。でも柔軟やねんな。顔ええしさ。あの顔はホンマ得や。言葉通り、顔ひとつで切り抜けてきたからな。こすいわ」

 元上司として色々知っているんだろうけれど、和臣さんの性格を知っている身としては、顔で苦労してきたんだろうなと思わせる話だな……。

「で、常務の孫娘か何かに気に入られて経営企画室に引っ張られて、なんでか見合い断って総務に押し込まれて、総務で汚いことさせられて、バンコク支社に海外赴任。で、次は関西支社の違う事業部で営業やて? どうなってんの?」

 うわー、耳が痛い。
 俺のせいのところもかなりあるな?
 汚いことのくだりは、あの人言わないから、何も知らないけど。させられたんだろうなぁ。
 西さんはどうしても断れない筋から扱ってはいけないものを頼まれて、断って全契約を切られて、メキシコに飛ばされかけて辞表を出したらしい。
 そのとき、仲良しだったこの子会社の社長が脳梗塞で倒れてしまって、後釜になって、今があるとか。ぜんぶコント調にしてたけど、わりとガチらしい。どんな世界やねん。
 でも西さんが気にしてること、和臣さんは気にしてない。だってあの人があの会社にいた理由、俺の会社にいちばん近いっていう、ただそれだけだから。
 聞いたときは、やっぱりな……というか。
 俺の会社の近隣の会社を受けて、採用された中で、どこでもいいしどんな仕事でもいいので、とにかくいちばん近い会社にしたらしい。いつでも俺のことを見ていられるように……。あわよくばちょっとすれ違ったり、自然な形で会えるように。
 実際、そうなったわけ。計画通り。
 あの人はあの人で狂ってる。俺に言うのもどうなのって思う。もうそこは諦めるしかないか。ほんとストーカー。開き直っててたちが悪い。
 見合いの話さえなければ、俺のことは一生見ているだけにしようと思っていた……って嘘くさーいことも言っていたな。
 それ自体もキモいし。倫理観のなさが一貫してる。
 俺は言った。

「カズ先輩の個人的なことだから、言えることと、言えないこととあるんですけど……ある程度、納得しているとは思います」
「なんや、聞いてるんや。よかった。なんかあって困ったら、俺にも言うてな。お節介かもしれへんけどさ」

 西さんは胸を撫で下ろした。
 ただ心配してくれている西さんには、本当に本当に申し訳ないな……。
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