エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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2 ある聖夜のころ

二 待ち合わせしている

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 南森町駅。
 混雑の邪魔にならないように、改札を出たところの柱の一部になって、しばらく待っていると、背の高いビジネスマンが近づいてきた。
 ちょっと緊張しつつ顔をあげる。スーツ姿。相変わらず甘いイケメン。珍しく前髪をあげてデコ出し。スーツケースを引いて、コートを腕にかけてる。

「多紀くん!」
「和臣さん」

 和臣さんは、照れるみたいにほほえみながら、俺のことをきらきらした瞳で見つめてくる。ここでそういう目をされると困るって……。
 俺は目をそらす。

「会社に行ってたんですね」
「そうそう。顔出してきた」

 今朝成田に着いて会社に行って、それから大阪に来たという流れ。バンコクに発つのは日曜日の夜。
 帰国するのは、半年ぶり。
 赴任一年目はあんなに毎月帰国してたのに、二年目になって、途端に帰国しなくなった。ぱったり。
 実は、お互いの誕生日のことも中途半端なままだ。
 メッセージもほとんど送ってこなくなって、朝晩の通話はしばらくはしていたけど、じきに晩はしなくなって、朝だけになって、それも今は殆どしていない。
 クリスマスや年末年始は帰れないけれど、十二月の中旬には帰れるっていう連絡があったのが十二月入ってすぐ。
 その連絡も一ヶ月ぶりだった。
 さらに連絡が途絶えて、ほんの一昨日、予定どおり帰国するってメッセージが一通。
 本当に帰ってくるのかわからない状態だったものの、一応有休をとっていた。帰ってこなかったら大掃除でもするかと思って、掃除用品を買い溜めしてたよ。
 なのに、そんな満面の笑みでこられたら拍子抜け。
 俺はどんな顔で会えばいいのかわからなかったというのに。もやもやしてたのに。
 あんなに連絡してきていたのにぱったりなんて、赴任一年目マジで仕事してなかったんじゃないの。
 当然のことながら、俺を好きになったとかいうきっかけについてなんか、わからないままになってる。女子たちからの連絡もないけど。
 もし俺じゃないとしたら? 俺はどうすればいいんだろう。切り出し方や、今後のこと。和臣さんはどうしたいのか。俺はどうするのか――そんな風に悶々としたまま。
 なのに和臣さんは連絡してこないし。
 帰国できないなら俺がバンコクに行こうかと訊いてみたけれど、いま東南アジアのあちこちに行っていて時間がとれないとかあっさり言われるし。
 トカゲにも会えないし。
 え、なんなの?
 恋人であることを俺が意識しはじめた途端に、和臣さんのほうはもう満足?
 この関係を大事にしない感じ?
 そんなことを考えたりもして。
 はあ。
 和臣さんは、スマホの画面を見せてくる。写っているのは、巨大トカゲ。

「見てみて! 三メートルのトカゲ! ぎりぎりまで探してたら撮れた!」
「ほんとだ……」

 あんた、トカゲのケツ追っかけてたのかよ。
 それしてるなら、ちょっとくらい連絡してくれたらいいのに。
 色々、本当に色々と考えてたのにさあ。
 なんなの?

「……和臣さん、なにか食べました? 外で食事します?」
「うーん……多紀くんはおなかすいた? ぎゅってしたいの我慢してるんだよね……ぎゅってしたいなー……」
「じゃあ、一度、部屋にきますか?」
「行く……!」

 無邪気だなぁ。ひとの気も知らないで。
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