エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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過去編 ある四月から九月の話(カズ視点)

十* 次の月曜日

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 新しく発足した美化委員会が、空き教室で開かれている。
 俺が一番前の窓際の席に掛けていると、隣にタキくんが座った。ちょうど半年前のように。
 誰にでも同じの明るい笑顔。

「カズ先輩! また美化委員会ですか?」
「うん」
「じゃあ、また水やり当番、なっちゃうとか? 月曜日で。カズ&タキですよ」

 タキくんは内緒話のようにそう言った。

「いいよ。だけどツッコミ力を磨いてもらわないとね」
「やっぱり俺がボケをしようかな……」
「笑わせてくれたらね。そうしたらボケの座を譲ってあげる」

 だがその内緒話は、ふたたび担当となった神崎先生に聞かれていたらしい。神崎先生は苦笑しつつ言う。

「いや、前にした人は水やり当番は免除だけど。三年生は受験もあるし」

 タキくんはあっと気づいて笑った。こっちを見る。

「受験! そうですよね! じゃあ他の係でがんばりましょ」

 俺は、困った。
 他の仕事なんて、月に一回程度しか集まらないじゃないか。
 だが結局、水やり当番は不人気で、誰も手をあげず、あと二人分の枠が残る。
 タキくんは教室を振り返ってからかう。面子はだいたい同じだからだ。

「ちょっとー、前回は女子の先輩方、みんな水やり希望だったじゃないですかー?」

 そんなタキくんに、女子たちが返事をする。

「勝手にやりなよ」
「言い出しっぺがやれば」
「森下がすればいいじゃん」

 タキくんは唇を尖らせつつ、楽しそうに手をあげた。

「えー、じゃあいっか。やろうかな。はーい、神崎先生! 俺、水やりしまーす!」
「いいのかよ、お前」
「いいっすよ! 楽しいですもん。はーい、で、俺と組んでくれる女子は?」

 教室はしんと静まり返る。誰も手を挙げない。

「えー!? それはないでしょ!?」

 タキくんの泣き言に、様式美のように笑い声があがる。

「ほらほら、あともう一枠ですよー! 早い者勝ちですよー!」

 俺はこの、あまりにもくだらないやり取りに笑いそうになるのを、こらえている。
 だが、後ろの席の女子が、隣の女子と話しているのが聞こえてしまう。
「森下くんって明るくていいね」と女子が囁いている。「じゃあ一緒に当番したら」なんてこそこそ話が聞こえてくる。
「ちょっと背が低いんだよね」。いや、伸びてるよ。四月よりは確かに伸びている。ちゃんと見ていればわかる。手足とのアンバランスさを見れば、まだ伸びることがわかる。
 手をあげられてしまうかもしれない。
 タキくんは、俺を見ないようにしている。だけど、俺はタキくんを見る。見つめる。視線に気づいているんだろうに。
 タキくんは、そうっと俺を見た。目が合う。その瞬間、もう片方の手をあげる。

「はい」

 タキくんは、くしゃっと笑った。教室はざわめく。

「わーはっは! コンビ名、カズ&タキだから!」
「漫才かよ」
「森下仲良しじゃん」

 森下いじりが加速して、ぬいぐるみが宙を飛んでタキくんは顔を庇いつつ、左手で上手に受け止める。ふんわりとクイックに投げ返す動作は慣れていて、彼に野球少年の面影を見る。

「ちょっと先輩たち、もの投げないで! ひどいよ!」

 神崎先生が、黒板に名前を書いていく。三年生は受験に集中だとか、前回当番だった人は免除というルールは、なくしてもらえるらしい。

「じゃあ、小野寺と森下な。小野寺いいの? 森下もいいんだな?」
「はい」
「はーい。がんばりまーす」
「じゃあ曜日決めー」

 タキくんはうかがうようにこちらを見る。

「どうします?」
「タキくんが大丈夫なら……月曜日」

 タキくんは微笑む。

「月曜日の朝に起きるの慣れちゃったんで、俺も月曜日がいいですね」
「うん」
「また半年、宜しくお願いしまーす!」
「宜しく」

 ふたりで月曜日に立候補する。神崎先生は苦笑している。知られている。
 秘密にしておいてほしい。




 <次の章に続く>
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