エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

文字の大きさ
上 下
18 / 366
2 ある七月の暑い夜

十二* 何が何でも

しおりを挟む
 くたくたになって全裸のまま、気を失うように寝ていた。
 ふと気づいて、ベッドで顔を上げる。時計は昼過ぎだ。はあ。
 悪夢見てた。すごい悪夢。
 追いかけられてむしゃむしゃ食われるみたいなやつ。
 カズ先輩はまだ隣で寝ている。そして俺の手首をしっかりと掴んでいる。
 逃げないようにかな。逃げられるくらいのことはしたよね。俺は逃げるべきだったよね。
 それにしてもよく寝るな。この人。疲れてるのかな。
 俺もなんかだるくて眠い。力入らない。
 外、暑いんだろうなあ。

「んん……、いま何時……?」

 カズ先輩が目を覚ました。
 訊ねられて、俺はもう一度、目覚まし時計を見る。

「十二時五分です」

 俺が答えると、カズ先輩は気持ちよさそうに伸びをしながらおもむろに転がってきて、俺の肩に腕を回してくる。

「タキくん。お昼行かない? 昨日ステーキだったから、今日はお寿司でもいいし、焼肉でもいいし、ラーメンでも、中華でも、なんでも、タキくんが好きなものを食べさせてあげる」
「餌付けですか」

 と言いながらも、俺の腹は勝手にぐうと返事をする。腹減ったな……。
 カズ先輩はいつもみたいに、くすくす笑う。

「うん。タキくんが餌付けされてくれるなら、いくらでも餌付けしたい」

 遠慮ないな。
 俺はふと気づく。

「うわ、朝飯! 食ってない! どこ!? 廊下? 洗面所?」

 慌てて上半身を起こす。いやだ。ぜったい傷んでる。もったいない。
 帰りたいけどエネルギーがなくて動けない。

「たぶん玄関。もったいないけど仕方ないよ。食べちゃだめだよ。おなか壊すよ」
「食べ物を無駄にするとか最低だ俺……」
「怒った顔も、慌てる顔も、落ち込む顔もいいね……」

 カズ先輩は、肩を掴んでくる。俺を引き倒しながら上になってキスしてくる。優しいキスだ。
 カズ先輩は、俺のことが好きらしい。
 だからなのか。その表情の幸福そうな雰囲気か。
 こんなのってないくらい、散々な目にあわされてるのに。なんで許してるんだろ。いや、全然許してはないんだけど、事実上許容してる。
 俺、雰囲気に飲まれすぎじゃない?
 今までの積み重ねを全部壊すようなことされたのに、それでも憎めない。
 俺が信じていた、柔和で、優しくて、いいところのお坊ちゃんで、幸せそうに笑うカズ先輩は、猫かぶりの猫にすぎない、偽物だったのに。
 触れるだけのキスがやたらと気持ちいい。つい目を閉じてしまう。

「タキくん、好き」
「知ってます」

 べつに知りたくなかった。

「九年分、言わせてほしい……君が好きで、好きで好きで……夢みたいなんだ。過去の自分に、言って回りたい。いま、タキくんとこうしてることが信じられない」
「俺もにわかには信じられないです……」

 ぜんぜん違う意味だけど。
 頬や唇をなめてきて、なぞられて、舌が入ってくる。

「勃ってきた。エッチしていい?」

 もう嫌だ、この人。
 やりたい放題すぎないか。

「カズ先輩、俺、昼飯食いたいです」
「あっ、先にお昼に行こうか。何がいい? 何が食べたい?」

 と、二人で起き上がる。
 俺は頭を掻きながら呟く。

「じゃあ焼肉……」

 カズ先輩はくすくす笑う。

「タキくん、お肉好きだねぇ。わかった。せっかくだから、いいお店に行こうよ。ほら、前に行きたいっていってたお店、ランチ始めたの知ってる? 行ってみない?」
「え、そうなんですか? やった!」
「予約しておくから、シャワー浴びておいで」
「はーい」

 絶対、食ったら帰るんだ。
 食ったら……何が何でも帰らなくちゃ……。帰らないと、食われる……。



〈次の章に続く〉
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...