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第一部 1 ある六月の雨の晩

五 地獄の始まり(※)

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 二回洗ったあと、俺はやっと解放された。
 下半身を洗って、ついでに顔も洗って、ベッドに戻る。
 で、地獄が終わったと思ったらまた別の地獄がはじまった。
 四つん這いにさせられて、お湯を入れられる前に入ってきたノズルみたいもので、粘着質な液体を入れられている。

「うううう……」

 カズ先輩はベッドの足元のほうで座って、四つん這いになった俺の尻の穴に指を入れてくる。
 もう何やってんの、この人、本当に。
 なにがどうなっているのか、理解できない。
 指が抜けたと思ったら、なにかもっと生温かいものが触れてくる。
 振り返ると、カズ先輩が俺のお尻に顔を寄せているので、舌だとわかった。
 冗談だろ。

「カ、カズ先輩っ、そんなとこ汚い……」
「洗ったから大丈夫だよ。ここは出口だからね、入口に変えなくちゃいけないんだよ。タキくん、まさか使ったことないよね?」
「???」

 舌はすぐに出て行った。ほっとする。いくらなんでもそれはないって。
 だけど代わりに指が入ってきて、さきほど入れられた液体を使って、ぬちゃぬちゃと音を立てられる。そのたびに、俺はふわふわする。

「あっ、あっ、あっ」

 指の動きも、なんだか早くなってる。一本だったものが二本になって、いつの間にか、三本目も入ってるかも。
 頭が重たい。眠たい……。三時になろうとしている。
 俺、明日もあるのに。カズ先輩だって明日もあるのに。
 いったいいつまで続くんだろ。
 いつもいじらないところは本当に気持ち悪い。このゆるんでいる感じ、いったい何なんだ。指が激しい。出入りをしたり、中のほうを揉まれると、痺れる。
 なんだっけ、前立腺?
 カズ先輩の息が荒くなっているのがわかる。息が肌に当たる。
 何してるんだろ。

「先輩もう俺……」
「タキくん、もういい?」
「へ……?」

 四つん這いにされたまま、俺は振り返ろうとした。部屋が暗いので、よく見えない。
 ただ、肩を片手で掴まれて、カズ先輩の身体がぴたりと当たるのがわかる。
 カズ先輩のもう片方の手が、俺の臀部を掴む。まるで広げるように。
 その瞬間に何をしようとするのか悟った。
 俺は怯えて、声が震える。

「い、いれないでください、やめて、先輩」
「ごめん……」

 カズ先輩は、謝罪しながら、中腰になって、上のほうから押しかかるように入ってくる。
 入ってくる。
 先ほどさんざん洗って、指が入ってきていたそこに、カズ先輩が少しずつ。

「や、いや、ぁああああああっ!!!」

 俺は枕に顔を埋めた。
 逃げようとしても逃げられない。
 押さえつけられていて、身動きがとれない。
 カズ先輩は尻の割れ目を広げながらまだ入ってくる。
 片腕をとられて、背中に回された。
 押し込まれている感覚がひどい。
 ローションを入れられているせいで、痛くはないけれどぬるぬるしてヘン。

「ごめん、ごめんね、ごめん」
「せ、先輩、やめ、やめて、い、いれないで、しないで、お願い、先輩とエッチしたくない、したくないよぅ」
「俺はずっとこうしたかったんだよ。したかったんだ、タキくんと」
「や、いや、あああ、いや、あああぁあ」

 あとからあとから涙がこぼれてくる。

「俺のこと、嫌いになっていいよ」
「ああっ……!」

 俺、何してるんだろ。
 何をのんきに洗われたり、指を入れられたりしてたんだろ。
 想像できただろ、こうなること。
 男同士でエッチする方法なんか、これくらいしかないだろ。
 最後までカズ先輩はこんなことする人じゃないって信じてたからだよ。昔から、優しくて紳士的で、穏やかで、人格者で、こんなこと。
 いったい、なんで。
 カズ先輩の身体がぴったりとくっついてくる。全部挿入されたっぽい。信じられない。おなかが気持ち悪い。
 これ、本当にどうなってんの。あんな長くて太いの、本当に入るもんなの。
 苦しい。
 カズ先輩は俺の髪の毛を掴んで、顔を上げさせる。
 痛い。痛いって。
 声が出せない。

「好きなんだ。好きで、好きで好きで。ずっとこうしたかった。気持ちいいよ、タキくんの中、あったかくて狭くて気持ちいい……」
「うあ、先輩、動かないで、やめて」
「エッチしたかったんだ。ずっと」

 こんなことされるってわかっていたら、連絡なんか無視したって。泊まったりしないって。だけど優しい先輩のことだから、ちっとも疑ったりなんかせずに、フツーに信じていたのに。
 カズ先輩が、出ていったり、入ってきたりする。
 そのたびにヘンな感じがする。

「ああっ、ああ、あああ」
「あっ、タキくん、タキくん、気持ちいい、君の中、すごい」

 どうして俺の身体、こんなになってんの。
 勝手に声が出てくる。喉から声が溢れてくる。嫌なのに。

「あああ、ああっ、あああ、う、ひっく、うあ」
「タキくん、可愛い」
「やだ、やめてカズ先輩、いやだぁ」
「もっと泣いて」
「いや、ああ、ああっ、あっ、ああ」

 声が濡れてる。
 なんで俺、こんな声出してんの。

「カズ先輩っ、カズ先輩……!」
「ああ、気持ちいい……っ」

 四つん這いでさんざんやられて。これではまるでカズ先輩のおもちゃだ。
 身体の力が抜けて、抵抗できない。
 時々、痺れるみたいに擦れたところが熱い。
 臀部を掴まれてずこずこされる。そのときに、中がじんじんする。痛みの予感ではなく、電気が走るような何か。

「いやっ、いやああ」

 気持ちいいなんて思いたくない。
 こんなことされて、少しでも気持ちよくなるなんて、嫌だ。認めたくない。
 絶対に認めたくない。

「もぉ、先輩、やだ、やです、ちんぽ抜いて……!」
「まださせて。タキくんの中、気持ちよすぎるから、使わせて」
「やあ、いやです、カズ先輩、もうやめて」

 そうしている間にも、カズ先輩の腰の動きは止まらない。

「ひっ、あっ、う、あああっ、あひ」
「気持ちい、タキくん、好き。タキくんとのエッチ、すごく気持ちいい、タキくんのお尻、すっごい。夢みたいだ……」

 覆いかぶさるようにされて、奥のほうを擦られる。

「先輩、もう、苦しいよう」
「ごめん。じゃあさ、『俺のケツの穴で、ちんぽイってください』って言ってくれたら、出すよ」

 なんてこと言わせようとするんだよ。やめてよ。
 俺は情けなくなる。
 カズ先輩を何の疑いもなく信じていた自分が情けない。好きだって? そんなこと知らない。でも俺だってカズ先輩のこと好きだよ。憧れの先輩だよ。
 だからってエッチしたいだなんて一回も思ったことないって。
 だけど、言わないと終わらない。それはわかる。
 エッチなんて射精しないと終わらないだろ。経験ないけど知ってるよ。

「お、俺のケツの穴で、ちんぽ、イ、イってください」
「タキくん。もう一回言って」

 カズ先輩のピストンが早くなる。激しく俺を犯す。身体がぶつかる音がひどい。ベッドの軋みも。荒くなった息も、喘ぎ声も何もかもがひどい。
 俺、カズ先輩にやられてるのか。
 辛いし、しんどい。
 カズ先輩とこんな関係になるなんて、誰が想像してたんだよ。ただの高校のときの先輩と後輩なのに、俺たち。

「俺のケツで、ちんぽイってください、先輩……」
「あっ、イく、タキくん……!」

 何度か突かれて、最後に思いっきり突かれた。その瞬間、少しずつ、穴を広げていたものが小さくなっていく。
 あ、中出ししてるんだな、と俺は冷静に思う。どくどくしてる。
 カズ先輩にやられた上、中に出されるとかさ。
 もう、散々なんだけど。何なの、これ。
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