次期公爵は魔術師にご執心のようです

みつきみつか

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四 二度と離さない(※)

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「しますって……」

 拒絶できそうになかった。
 強制的に感度をあげられた肉体は、執拗な乳首への責めと、指によってなかをほぐされたことで、身体拘束が解かれて麻痺の魔術が解けても、すでにヴィンセント殿下を受け入れる準備が整っていた。
 何かが足りないのだ。もっと欲しい。埋めてほしい。
 両足を抱え上げられ、ヴィンセント殿下の屹立の濡れた先端が、僕を抉ろうと押し当てられる。
 先程指でほぐした質量とは異なり、みっちりとこじ開けてくる。
 ヴィンセント殿下の目が僕を捕えている。

「ずっと、ずっと好きでした。僕は、先生のことを……愛しています」
「殿下、いれちゃ、だめです、僕たちは、男同士で、こんな」
「先生は僕がお嫌いですか」

 不意に、ヴィンセント殿下は、縋るような目をした。
 むかしから僕だけに見せる、素のままの寂しい瞳だ。

「嫌いなわけ、ありません、大切な……」

 大切な人だ。
 ヴィンセント殿下にとって僕が唯一無二であるように、田舎出で幼く、味方のいなかった僕もまた、ヴィンセント殿下が唯一無二の存在だった。
 仲良くしすぎないように線引きが必要だと思いながらも、自分は彼の特別なのだという優越感があった。

「僕は先生を、出会った頃から愛しています」

 僕たちの出会いは十二歳のときだ。六年も前のことだ。鈍感な僕は、ヴィンセント殿下の気持ちにまったく気づかなかった。
 少しずつ、肉体が広げられていく。貫かれていく。分厚い塊が、体内に侵入してくる。

「あっ、殿下、あっ、あ……」

 ヴィンセント殿下の欲望は熱く猛っており、巨大だった。僕の腕ほどあるのではないだろうか。
 体格に差があるため、入れられると押しつぶされそうになる。
 ヴィンセント殿下は僕の頭に腕を回した。大きな大きな野獣に全身でのしかかられている。
 僕の髪を食みながら、ヴィンセント殿下が言った。

「あともう少し……」
「ぜ、ぜんぶは、入り、ませ、ん」

 最後は一息に奥まで来た。声にならない声が出て、あとはもうなんとか息をするだけだ。
 身体が震え、しっかり掴まっていないとどうにかなりそうだった。
 だがヴィンセント殿下の身体に掴まると、応えるかのようによりいっそう強く抱かれる。
 苦しい。だが足りなかったのはこれだと思わされた。なんだろう、この、満たされる感覚は。
 まるで、こうされたかったみたいだ。

「はっ、は……はぁ、は……」
「先生のなか……狭くて、すごい……」

 低く濡れた、快感を押し殺す苦しげなうめき声。ばねのような筋肉質な肉体が汗だくになるほど容赦なく抱かれ、奥まで穿たれ、一体となっている。

「殿下、殿下……!」
「好きだと言ってください、先生。僕を好きだと、愛していると……!」

 ヴィンセント殿下のことは好きだ。このような形を望んでいたわけではなくとも、好きだった。
 もっと早く伝えてくれていたら、傷つけなくて済んだかもしれないのに。
 ヴィンセント殿下は悲しそうに言った。

「嫌いなら、嫌いだと、言ってください……」

 奥まで差し込まれた雄がずるりと抜けていく。

「っ、あう」

 押したり引いたりして、僕の性感帯をこすり、射精のときとは異なる熱い感覚が湧き起こる。
 ぬちゅ、ぬちゅと粘着質な音のせいで、激しく口づけているようだと僕は思う。

「殿下、好き、です」
「僕がこんなふうに先生を愛したかったとしても? 僕は先生に対し、邪な思いを抱いていたんです。申し訳なくなるほど、先生と、触れ合いたかったんです」
「あ、あぁ……! そこは、そこはもう、あ、熱い」

 ヴィンセント殿下の腰の動きが速くなる。寝台は壊れそうな音を立てて軋んだ。
 ヴィンセント殿下の腹筋でこすられた僕の性器は、あまりのことに精液を垂れ流している。
 僕はヴィンセント殿下の厚い胸に額をこすりつけた。

「大好きなんです、僕も、殿下が、好きです」

 繋がる前はたしかに親愛の情だと思っていたのに、貫かれた今、性愛に塗り替えられている。
 僕にとっても、彼しかいないのだ。恋に落ちるならば、ヴィンセント殿下しかいなかった。自分のことで精一杯で、気づかなかっただけだ。

「先生、先生……!」

 いちばん奥に突き立てられ、喉が壊れそうなほど叫んだ。

「あっ! あっ、ああああ! 殿下っ、殿下、お願い、あっ、気持ちい、もっと……!」
「うっ、先生、きつい、ああ、締まる……」
「いく、あっあっあっ」

 激しく貫かれながら僕もヴィンセント殿下に腰をへこへことこすりつける。そうすると、ヴィンセント殿下も気持ちよさそうにうめいた。

「あぁ……先生っ」

 入ってきたときよりも大きく固くなっている。そして僕の中は、入れられたときよりも、ぴったりと、ヴィンセント殿下の形になっていた。下半身は液体まみれでぐしゃぐしゃだった。
 ぎりぎりまで雄を抜かれ、顎をとられて口づけられる。舌を引き抜かれるほど強く吸われた。
 唾液が糸のように引く。ヴィンセント殿下は僕の頭を胸に抱き、僕を貪った。
 僕は情けなく両足を開いて強い雄に食べられながら喘いだ。
 時々僕を見下ろすヴィンセント殿下は、凶暴な目をしている。こんな目は見たことがない。紅の瞳が、本当に燃えているかのようだ。
 だがおそらく、僕も、ヴィンセント殿下に対して、初めて見せる目をしていると思った。憧れと被支配に恍惚とした、うっとりとしたものに違いない。

「殿下っ、殿下、また、またいく……」
「僕も、僕もです、先生。先生のなかに、放っていいですか」

 返事はできなかった。口の中に指が入ってきて、口の中をかき混ぜられたせいだ。とろとろになってしまう。
 とっくに達していた。絶頂が止まらなかった。こんなの知らない。

「いくっ、いく、いく……!」
「せんせ、愛しています……!」

 ヴィンセント殿下は根元までぎっちり押し込んで、なかで果てた。
 びゅうびゅうと放たれるのを奥で感じる。長い射精だった。
 二度と離さないことをその身に刻みつけるかのような。
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