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3 送達先調査
2 お仕事
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翌日。
俺は船に乗っていた。都内から日帰りできる有人島への定期船である。到着と同時に、念の為、時刻表をチェック。
「すみません、夕方にもう一便あるんですよね」
おりながら船員にも確認。
「通常どおり運行します」
午前と夕方の各往復だ。夕方までに調査を終えなければならないし、逆にいえば、三分で調査が終わっても夕方までは島を出られない。
船着き場の掲示板で、民宿と島の地図を確認する。事前に調べておいた住所と照らして、徒歩三十分くらいかなと目星をつける。
大きな島ではないし、かといって観光客が珍しいわけでもない、漁で生計を立てている、人口約数百人の島だ。
俺は目的地のほうに向かって石垣の道をのぼっていく。
本日は送達先調査だ。
投資詐欺で一千万円とられた被害者が、金を返せと詐欺師を訴えた。
だが詐欺師の住民票の住所に訴状を送っても、あて所尋ねなしなどで届かない。
そこで、送り先が今どういう状況なのかを調べるのが、送達先調査である。
たいていの場合、詐欺師はそこに住んでいない。空き家になっている可能性のほうが高い。
俺が三十分かけて山道の上のまばらな家をたどり、やっとのこと「住所」にたどり着くと、百人が百人とも太鼓判を押すような廃屋だった。俺は持参したカメラで要所要所を撮影。
古い木造の平屋で、柱が腐って崩れ、瓦屋根の重みに耐えきれず、家屋の半分は斜めに傾いている。草はぼうぼう。東向きの門扉から玄関口までは土砂が流れ込み、ごみがたまっている。
ただでさえ雑木林の一角だが、あと数年もすれば、家があることすら傍目には区別がつかなくなるのではないか、そんな見てくれである。
雨水を吸って腐って黒ずむ表札には墨で姓名が書かれているのがかろうじて視認できる。
たしかに詐欺師の姓だった。だが名前の方は別人だ。戦後すぐの命名のような印象のいかにも古めかしい名前。ここは実家だったのかもしれない。
ポストにはガムテープが貼られ、熱で溶けて垂れている。テープ類の経年劣化が著しい。内側に新聞紙が刺さっているのが見えた。
電気のメーターは支えが壊れて地に落ちていた。動いているのは日焼けした機械の下に巣穴を作る蟻だけだ。
地中にささる水道メーターも干からびている。
ドアは半壊だった。
「こりゃ廃墟だな」
ひとが住んでいるとは思えないが、念の為ドアをノックする。当然、返事はなかった。
と、なかで物音が聞こえた気がした。野生の動物でもいるのかと身構える。
「誰かいますか?」
大きな声を出しながら、廃屋のドアの隙間をくぐり、暗い影に踏み込んだ。
大きな衝撃があって、視界が暗転した。
俺は船に乗っていた。都内から日帰りできる有人島への定期船である。到着と同時に、念の為、時刻表をチェック。
「すみません、夕方にもう一便あるんですよね」
おりながら船員にも確認。
「通常どおり運行します」
午前と夕方の各往復だ。夕方までに調査を終えなければならないし、逆にいえば、三分で調査が終わっても夕方までは島を出られない。
船着き場の掲示板で、民宿と島の地図を確認する。事前に調べておいた住所と照らして、徒歩三十分くらいかなと目星をつける。
大きな島ではないし、かといって観光客が珍しいわけでもない、漁で生計を立てている、人口約数百人の島だ。
俺は目的地のほうに向かって石垣の道をのぼっていく。
本日は送達先調査だ。
投資詐欺で一千万円とられた被害者が、金を返せと詐欺師を訴えた。
だが詐欺師の住民票の住所に訴状を送っても、あて所尋ねなしなどで届かない。
そこで、送り先が今どういう状況なのかを調べるのが、送達先調査である。
たいていの場合、詐欺師はそこに住んでいない。空き家になっている可能性のほうが高い。
俺が三十分かけて山道の上のまばらな家をたどり、やっとのこと「住所」にたどり着くと、百人が百人とも太鼓判を押すような廃屋だった。俺は持参したカメラで要所要所を撮影。
古い木造の平屋で、柱が腐って崩れ、瓦屋根の重みに耐えきれず、家屋の半分は斜めに傾いている。草はぼうぼう。東向きの門扉から玄関口までは土砂が流れ込み、ごみがたまっている。
ただでさえ雑木林の一角だが、あと数年もすれば、家があることすら傍目には区別がつかなくなるのではないか、そんな見てくれである。
雨水を吸って腐って黒ずむ表札には墨で姓名が書かれているのがかろうじて視認できる。
たしかに詐欺師の姓だった。だが名前の方は別人だ。戦後すぐの命名のような印象のいかにも古めかしい名前。ここは実家だったのかもしれない。
ポストにはガムテープが貼られ、熱で溶けて垂れている。テープ類の経年劣化が著しい。内側に新聞紙が刺さっているのが見えた。
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地中にささる水道メーターも干からびている。
ドアは半壊だった。
「こりゃ廃墟だな」
ひとが住んでいるとは思えないが、念の為ドアをノックする。当然、返事はなかった。
と、なかで物音が聞こえた気がした。野生の動物でもいるのかと身構える。
「誰かいますか?」
大きな声を出しながら、廃屋のドアの隙間をくぐり、暗い影に踏み込んだ。
大きな衝撃があって、視界が暗転した。
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